第38話 犯人見つけた。如月紫音、かっこよく(?)犯人逮捕に向かう!(3)
とうとう安藤を追い詰めた僕。
その安藤の視線の先。
安藤のすぐ隣の木の机。
そこには無造作に拳銃が置いてあった。
日本の警察が使うM360。
もちろん、僕の銃。
「ああ、ごめん、ごめん。ちょうど銃の手入れをしている最中だったんだ。置きっぱなしだったね。銃弾もこめてあってすぐ撃てる状態だし。危ない、危ない」
安藤の目が一瞬光ったような気がした。
もう一度横目で拳銃を見て、何か考えている。
沈黙。
しばらくして、再び安藤の表情が緩んだ。
「その手には乗りませんからね。僕に銃を撃たせて、逮捕というシナリオですか?おおかたその銃には弾が入っていないか、あるいは空砲なんでしょう。確かに先ほどのお話はただ刑事さんが言っているだけで、証拠はありませんよね。だから僕を逮捕できないんでしょう?」
鋭い。
たしかにその銃に込められているのは空砲。
正体を見破られた安藤は、僕を亡き者にしようとして銃を撃つ。
そこを逮捕という完璧なシナリオだったのに…。
しばらく考え込む仕草を見せていた安藤。
やがて彼はゆっくりと話し始めた。
「いいですよ。どうせ最後だからすべて教えてあげましょう。たしかに僕は暴力団とつながっています。僕は組織を抜けたいと言い出した矢崎を監視するために、組織からから送り込まれた人間なんです。何を思ったのか、矢崎さんは組織を抜けて、まじめに生きたいと言い始めた。その矢崎さんを監視し、情報を流すのが僕の役目でした」
あれ?
安藤が自分からペラペラ話し始めたぞ。
「そのとおり、みさきさんに矢崎が売人であることを教えたのも僕です。組織を抜けたいと言い、覚せい剤の売買をやめた矢崎。その彼に再び覚せい剤売買をやらせようとして、みさきさんに吹きこんだんです。矢崎なら覚せい剤を売ってくれると。でも、矢崎は再び売人となることはありませんでした。決心は固かった」
「そのうちにみさきさんが誰かに殺された。そこにでたらめな刑事が登場して、容疑者として僕と矢崎さんが無理やり引っ張ってこられた」
え?でたらめな刑事って僕のこと?
「そうです。でたらめな刑事のでたらめな捜査で、なぜだか矢崎さんが犯人になりそうになって。このままいくと明日にも逮捕状がでる。そのことと矢崎さんがもう覚せい剤の売買を続ける意思がないことを、あわせて組織に報告しました。すぐに、矢崎さんは自宅で捕まって、拷問の挙句殺されました。僕はその場にはいませんでしたが、話は聞きました。拷問で切り刻まれた体、引き剥がされた爪。だから、知っていましたよ。僕もその一味ですからね」
あっけなく自白。
ようやく自分から話してくれたね。
観念してくれたのかな。
これでバッチリ逮捕できるぞ。
安藤はすぐそばにおいてある、僕の銃に手を伸ばした。
「こんなわざとらしく拳銃が置いてあったら、『これはワナです。撃ってください』と自分から言っているようなものじゃないですか。僕はそんなにバカじゃない。こんなところにおいてある銃で、頭のおかしな刑事を始末しようなんて、バカな考えはしない」
頭のおかしな刑事?
僕のこと?
「もちろん、あなたのことです。最初からめちゃめちゃでしたよ。とても刑事とは思えない。こんな結末がなくても射殺してやりたいと思っていましたからね」
それから安藤は自分のジャケットのポケットから、銃を取り出した。
本物の銃。
おそらくちゃんとした弾の入った銃。
僕を殺すための銃。
「僕は他人が用意した銃で、窮地を乗り越えようなんて思わない。ちゃんと自分で用意した銃で、確実に刑事さんの口をふさぎますよ」
僕に向けられた銃口。
やっぱりこいつは悪人だ。
極悪人だ。
「これで刑事さんともお別れできますね。せいせいしますよ。やっぱり性格を偽るのって疲れますよね。人間、自分の思い通りに生きたほうが疲れませんよね」
そこだけは同意する。
僕も思い通りに生きたい。
死にたくない。
これからも思い通りに生きるんだい。
「それでは最後に言い残すこと、ありますか?まあ、何を言っても、その言葉は誰にも伝わることはないんですけれどもね」
「やっぱりお前はそういうやつだったね。僕の目に狂いはなかった。確実に死刑台まで送りこんであげるからね」
「せいぜいあの世でがんばるんですね」
銃声一発。
大きな音がこだまして、それからふたたび静かになる。
腕を押さえてうめいている安藤。
「動くな。銃を捨てろ」
大きな声が倉庫中に響いた。
聞きなれた係長の声。
「話は全部聞かせてもらった。録音もしてある。それにすでに逮捕された暴力団の人間から、お前の名前も挙がっている。安藤直人。お前を銃刀法違反の現行犯で逮捕する」
さっそうとかっこよく係長が横から歩いてきた。
ずるい。係長ばかりかっこいい役。
その役は僕がやりたかったのに。
でも今回は仕方なかったのだ。
僕ひとりでは全部は出来なかった。
悔しいけれど、誰かの協力が必要だったのだ。
手錠をかけられる安藤。
腕を押さえたまま、まだうめいている。
「係長。その銃を貸してください」
「どうして?」
「この場でこいつを死刑にします」
「勝手に殺していいわけないだろう」
「大丈夫。これは正当防衛です。銃を撃たれたら、撃ち返してもいいんですよね」
「いいわけあるか!だいたい手錠をかけられた状態で撃ち殺されていて、どうやって正当防衛に持ち込むんだ?」
あーあ。
本当は僕が撃ち殺す予定だったんだけれどな。
僕が最初に係長に話した計画。
すべてを見破られた安藤は、机に置いてあった僕の銃(空砲)を僕に向ける。
僕はたまたま借りていた係長の銃で応戦。
その弾が安藤の胸を貫いて、安藤は死亡というシナリオだった。
これなら完全に正当防衛だね。
僕は全然悪くない。
なぜだか全部話すまでもなく係長に拳で却下されたけど。
係長と一緒に来ていた二係の刑事さんが安藤を連れて行く。
終わった。
これで事件はひととおりの区切りがついた。
さあ、これからは事件よりも大事なてるみちゃんとの事情聴取、違った。ただのデートの日々。
もう事情聴取とかわざわざ言い張らなくていいよね。
事件は一段落。
事件を解決して都会の平和を守ったエリート刑事、紫音は心のよろいを脱ぎ捨てて、ありのままの心でてるみちゃんとあんなことやこんなことをするんだ。
ついにクライマックス(?!)。
いえいえ。だまされたと思って、もう少しだけお付き合いくださいな…。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。




