第37話 犯人見つけた。如月紫音、かっこよく(?)犯人逮捕に向かう!(2)
「やあ、犯人君。久しぶりじゃないか。会いたかったよ」
「だからその呼び方はやめてください!僕は犯人じゃないです。そもそもこっちは、ちっとも会いたくない相手ですし」
郊外にある今は使われていない倉庫。
おそるおそるといった感じでそこにやってきた、ひょろっとした男は安藤直人。
例の犯人候補1号君だね。
どうしてこんなところへ呼び出したのかというと、どうしても聞いておきたいことがあったから。
「つれないなあ。最初から犯人だって自分から認めてくれればもっと優しくして、情状酌量できたのに。今からでも遅くないよ。知っていることを全部話してみよう」
「だから、僕は犯人じゃありません。何も知りませんよ」
強情な安藤との話し合いは平行線。
仕方ないなあ。
「あ、それ以上こっちへは来ないでね。ちょっと不便だけれど、このまま大きな声で話してほしいんだ。最初に聞きたいのは、君と例の暴力団のつながりのこと。君もやっぱり、覚せい剤の売買に手を染めていたのかな?」
安藤の顔色が一瞬変わったように見えた。
ちなみに僕は安藤の前方30メートルほど。
倉庫の奥、安藤からは離れた場所に立っている。
安藤はすぐにいつもの顔に戻ると、困ったような顔で答えた。
「何の話ですか?今度は暴力団?よく分かりませんが…」
「分からない?今世間でこんなに話題になっているのに、知らないはずはないよね。覚せい剤を組織的に扱っていたとして話題になっている暴力団のお話だよ。ワイドショーなんかで、毎日流れているよね。君もよく知っているはず、いや、知っているどころか君もそのお仲間のはずだと思うんだけれど」
「今度は暴力団ですか?勘弁してくださいよ」
安藤の張り付いた笑顔は動かない。
気弱な仮面をかぶったまま。
こいつも羊の皮をかぶったオオカミなのか?
みんなどうしてそんなにうまく化けの皮をかぶれるんだろう?
僕も見習いたいぞ!
違う、違う。話がそれた。
安藤のことだったね。
「仕方ない。それじゃあ恒例の犯罪者確定クイズ!その前にすべてを白状してくれるのなら、自首とみなして情状酌量もあるかも。さあ、話してごらん」
「僕は何も知りません!いいかげん警察がクイズで犯人を決めるのはやめてください」
「そうか。じゃあ仕方ないね。第一問。矢崎は警察から解放されたたった1日の猶予の日に、自宅で殺されました。どうして犯人はこんなにタイミングよく矢崎を殺せたのでしょう?」
「知りませんよ。ずっと矢崎を殺すタイミングを見計らっていたんじゃないですか?」
「それにしても、警察に目をつけられていて、次の日には矢崎は逮捕状が出されて、逮捕される状態だった。あの日しかなかったというタイミングなんだよ。そういえば、あの日、僕は君に矢崎の代わりに犯人になってくれるようお願いしたよね」
「そうでしたか?よく覚えていませんが」
「そうだよ。走れメロスばりの友情で矢崎を救ってあげよう、って僕がお願いしたのに、泣いて拒否してたじゃないか」
「そんなこともありましたかね」
「そう。だから君は矢崎が一時的に釈放されたものの、次の日にはまた逮捕されることを知っていた。それで、あせっているかのように、矢崎はその日に拷問されて殺された」
「知らない、知らない。僕は関係ないです。偶然だ」
あくまで仮面の表情は変わらない。
気弱な男の仮面だ。
「仕方ない。では第二問。矢崎が殺された直後、矢崎の元恋人であるてるみちゃんまで襲われました。さて、彼らはなぜ矢崎に親しい人間のひとり、てるみちゃんを知っていたのでしょう?」
「そんなこと、僕に分かるわけないでしょう?調べたんじゃないですか?」
「調べるにしても矢崎を殺してから、すぐその直後だよ。あらかじめ知っていたとしか思えない。そうだとしたら、どうしてそんな矢崎の周辺の情報に詳しかったのか?あらかじめ矢崎に身近な人間が、情報を流していたとしか思えない」
「そんなこと僕は知らない。矢崎さんとてるみさんのことなんて、店のバイトの人間ならみんな知っていましたよ」
「いーや。聞いてみたよ。ほとんど知られていなかったね。なかには『本当ですか?全然つりあわない』って驚く人も多数。僕だってそう思うよ。どうしてあのかわいいてるみちゃんが中年のおじさん、矢崎なんかと?ちなみに君は矢崎に取り入って、いろいろ話していたみたいだね」
「知らない、知らない。偶然です。たまたま矢崎さんから聞いたことがあっただけで、僕は無関係ですから」
「なるほど。ここまで偶然が重なるとまるで奇跡みたいだね」
「違う、奇跡じゃない!ただの陰謀だ。僕を犯人に仕立て上げるための陰謀だー!」
少し声が震えて余裕がなくなってきたかな。
「では、第三問。安藤が殺された翌日。警視庁で出会った君に僕は自首を勧めてあげたのに、君は答えた。『やめてください。だいたいあんな爪まで引き剥がすような拷問までして殺すようなマネ、僕には出来ませんよ』。どうして君は矢崎が『爪まで引き剥がすような拷問』をされて殺されたことを知っていたのかな?」
「それは…テレビなどで聞いたんじゃないかな?」
「いーや。テレビのワイドショーでも『残酷な殺人』とかいう表現は出てきても『拷問』なんていう言葉は1つも出てこない。警察もそこまで詳しい情報は流していない。ましてや、『爪まで引き剥がすような拷問』。何も知らない人間に、そこまで詳しい表現が出来るはずがない。こんな言葉が出てくるのは、矢崎を拷問して殺した犯人か、あるいはその犯人から直接聞いた人物、つまり犯人の一味の人間だけだね」
「……」
「さあ、クイズに答えてもらおうかな。どうして君は『爪まで引き剥がすような拷問』にて、矢崎が殺されたことを知っていたのかな?あ、制限時間内に答えられないと、殺人の共犯として裁判の権利プレゼント。副賞として無期限刑務所ツアーにご招待だよ。どうして?どうして知っていた?誰から聞いたのかな?」
安藤は青くなって震えているように見えた。
「答える時間がなくなるよ。3…2…1…0、はい、時間切れ。君が暴力団とつながって情報を流していたんだね。殺人の共犯決定!なんだ、最初から僕はあやしい人間を疑っていたんじゃないか。すごいぞ、僕の刑事のカン」
「何が『刑事のカン』なんですか。最初は瀬戸みさきさんの事件で片っ端から知り合いを呼びつけたくせに」
「そうそう、僕が知りたいのはその事件のことだったんだよね。まあ、都会の路上の惨殺と矢崎の拷問殺人は組織の犯行、そこに情報を流していたのは君で決定として。瀬戸みさきさんの殺人はどうなっているんだろう?あれも君の仕業?」
「違います、違います。それは本当に何も知らない」
「それはウソだね。君は『どちらかといえばみさきさんのほうからオーナーの矢崎さんに近づいていたように見えましたから』と言っていたんだ。つまり君は矢崎と瀬戸みさきの関係を知っていた。矢崎と瀬戸みさきの関係は?どうして瀬戸みさきは矢崎が必要だったのかな?」
「……」
「おやおや、ずいぶん無口になってきたね。表情も余裕がなくなって、悪人の顔になってきてる。僕から見てだいぶ理想の犯人の姿に近づいてきたよ。大丈夫、心配しなくても君のことは僕が責任を持って、確実に刑務所まで送りこんであげるからね。で、矢崎と瀬戸みさきの関係は?」
「知りませんよ。僕は何も知りません。それ以上聞きたいなら、証拠でも逮捕状でも持って来てください」
「おや、開き直りだね。犯人が最後の最後に見せるという悪あがきの象徴。あんな見苦しいのはテレビドラマの世界だけだと思っていたら、現実でも起こるんだね。仕方ない。君から言えないなら、僕から話そうか。瀬戸みさきは覚せい剤常用者だった。ところがみさきは覚せい剤を手に入れることが出来なくなった。おそらくみさきは覚せい剤を、路上で惨殺された男、三上と言ったかな、から買っていたんだね。そこでどうしても覚せい剤を新たに売ってくれる人物を探す必要があった。それで矢崎に目をつけて近づいたんだ。たぶんそのときに矢崎が覚せい剤の売人であることを教えたのは君だね、安藤」
「一方の矢崎は覚せい剤の売買から足を洗おうとしていた。だからみさきに頼まれても相手にしない。みさきから安藤に迫られていたように見えたのはこのためだ。そのうちにみさきが殺された。それも鉄アレイで殴られ、ロープで首を絞められ、ナイフで心臓を刺されてと念入りな方法でね。僕が聞きたいのはここなんだ。なぜみさきは殺されたんだろう?」
「知らない。それは本当に僕に関係がない」
「君に関係がない、それはこの事件が、覚せい剤売買を手がけた暴力団、組織とは関係がないということでいいのかな」
「……」
「黙り込むということはそういうことだね。僕もそう思うんだ。瀬戸みさきの事件と荒っぽい暴力団の犯行とはつながらない。なんだ、こっちの事件はまだ終わっていないのか」
完全に黙りがちになった安藤。
表情も暗く、凶悪犯を思い起こさせるような顔になっている。
とうとうクライマックス(?)。
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