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第34話 なんで善良な市民を悪党から守っただけの僕が、出世街道から外れるんだろう?(2)


 東京郊外のアパート。

 みさきが殺されていた部屋。


 僕はそこに寝転がって天井を眺めていた。

 サボってるわけじゃないよ。

 違うって言ってるだろ!


 始まりはみさきがここで殺されていたあの事件だった。

 今はきれいに片付いた部屋。

 みさきはこの場所で撲殺され、絞殺され、刺殺されて倒れていた。

 部屋には血がべったりのじゅうたんが敷かれ、隣の部屋には割れたお皿が散乱。


 ここに寝転がって、殺されたみさきの気持ちになってみれば、何か思い浮かぶかもしれないと思ったのだ。


 現場百遍って言うしね。

 ドラマなんかでは、行き詰ったら、現場検証にたちかえってヒントをゲット!

 事件解決につながったりしてるよね。


 そうは言っても、すでに片付いて、チリひとつ落ちていない部屋。


 今さら、「ああっ!こんなところに犯人が残したイヤリングが…」とか「ここに隠されたダイイングメッセージがぁ…」なんてことはやっぱりないよね。

 現実はそんなに都合よくいかない。


 仕方ないから、考えてみよう。

 どうしてみさきはこんな殺され方をしたのだろうか?

 鉄アレイで殴り殺した後、わざわざロープで首を絞め、ナイフで刺し殺す。

 そんな不自然なことをする理由がどこにあったのだろう?


 不自然といえばこれだけではない。午前1時の皿投げ合戦。

 あれも不自然極まりない。

 犯人はわざわざ「ここで今殺人が行われていますよ」と宣伝でもするかのように、夜中に大きな音をたてた。

 普通(?)なら、殺人なんて静かに厳かに行いたいに違いないだろうに。


 不自然に不自然を重ねて作られた、作為的な殺人。

 なぜこうなったのだろう?


 きっと犯人は何かをごまかしたかったのだ。

 不都合な部分から目をそらさせる。

 そのためにこんなややこしい殺人が生まれた。

 そうだとしたら、何をごまかしたかったのか?


 ありきたりに考えると、やっぱりアリバイだよね。

 容疑者だった矢崎が午前1時ごろまで新宿にいたというアリバイ。

 それがごまかしだというのだろうか?

 例えば実際にはみさきが死んだのは2時ごろで、それなら矢崎にも殺せる。


 でも、死亡推定時刻も出ているから、みさきが死んだのは午前1時ごろで間違いない。

 確かにみさきはに午前1時ごろに死亡していて、ちょうどその時間、皿投げ合戦でそれを宣伝するかのように犯人は大きな物音をたてた。

 なぜそんなことをしたのだろうか?


 正直、まったく分からない。

 ああ、なんてエリート刑事っぽくない言葉だ。

 悲しい…。


 あきらめてもう1つの疑問へ。

 みさきはなぜ撲殺された上で、さらに絞殺、刺殺と3つもの方法で殺されたのか?


 単純に考えるなら、犯人はみさきによっぽど恨みを持っていた。

 だから、撲殺だけでは飽き足らず、さらに計3つの方法で殺しつくしたというもの。

 でも、それほどに恨んでいるのなら、何度も何度も殴りつけ、それからナイフで全身刺しまくるような死体のほうが自然に思える。

 今回の殺し方は、冷静な犯人が計画的に犯行に及んだような不気味さがある。

 それなら、こんな殺し方をして、犯人は何をごまかそうとしたのだろうか?


 そうだ。普通に考えたら、犯人はみさきの知人で、恨みを持つものの犯行に見える。

 これが犯人の狙いだとしたら。

 実際には犯人はまったくみさきの知らない赤の他人だった。

 例えば日常に不満を抱えた人間が、ストレス解消のためみさきの部屋に忍び込んで皿投げ合戦。

 そこで日常のストレスを解消をした。

 そこへみさきが帰ってきて、あせった犯人はみさきをあやまって殴り殺してしまう。

 このままでは偶発的な殺人がばれてしまうと恐れた犯人は、ロープで絞め殺し、さらにナイフでとどめ。

 入念に殺しつくして、恨みを持つものによる犯行だと見せかけた…。


 それとも実は事故だったという考えはどうだろう?

 屋根裏に鉄アレイをおいていたみさき。

 部屋でストレッチでもしている最中に、ちょうど屋根裏をねずみが走り抜けて、鉄アレイが落下。みさきの後頭部に命中して死亡する。


 え?そうだとしたら、その後首を絞められて、ナイフで刺されたのはどうするって?

 きっとねずみがこれまた屋根裏にあったロープでもくわえて走り回っているうちに、首が絞まってしまったんじゃないかな?

 ナイフ?ねずみの尻尾に絡まったナイフが…(以下略)…。


 分かってる、分かってるよ。

 そんな適当ででたらめなお話があるわけないだろっと言いたいんだよね。

 知ってるよ。

 こんなめちゃくちゃな可能性の話まで始めてしまったら、なんだってありになるよね。

 誰でも犯人に出来ちゃう。

 例えば僕の大嫌いな係長が犯人ってことさえ。


 普段から女性に人気のない係長は、覚せい剤がらみの事件かなにかでみさきと知り合う。

 脅迫してでも付き合わさせようとせまった係長は、みさきに冷たくされて鉄アレイで撲殺。

 もちろんそんなありきたりな殺人の方法で納得するような係長ではない。

 さらに、ロープで絞め殺して、ナイフで刺して、恨みを持つ知人の犯行に見せかけた。


 そうだ、係長が犯人だ。

 だからあの日、二係の優秀な刑事さんたちが出払ったあとで、新人の僕とともに自分であの事件を担当したんだ。

 ひとつには現場で自分が犯人である証拠を残していないことを確認するため。ふたつめには捜査を関係のないほう方向へと振り向け、かく乱するため。


 そうか、だからあの日、係長は車の中でも極端に無口だったんだな。

 うっかりしゃべってしまうと、自分が真犯人であるというボロを出してしまうかもしれないから。

 犯人は係長だ!係長で決定!

 これで事件は解決。

 都内の平和は守られるとともに、僕の天敵、係長も消滅!

 僕もノビノビした警察ライフをエンジョイできて一石二鳥!

 ばんざーい!もしかしたら、係長亡き後、僕が新しい係長になることもあるかも。

 ……。


 あれ?何のお話だっけ?

 むなしい…。

 結局何も分からない。


 だいたい無理なんだよ。

 事件の現場を見ただけで、事件の真相を当てることなんて無理、無理!

 だって、例えば野球の試合が終わった後、誰もいなくなった球場のグラウンドを見て、「その野球が何対何でどちらが勝ったのか」なんて分かるわけないだろう!


 現場百遍なんてまったく役に立たない妄言だね。

 その点、われらが「イケイケ刑事」はあやしいと思ったら、証拠なんてなくても、悪党の事務所に乗り込んで、拳銃を片手に悪人を逮捕。

 「容疑者100人に拳銃を突きつけて(犯罪の真相を)聞きました」。

 これが正しい捜査方法だね。


 そうそう。後から見ただけで分かるはずがない。

 そんなことが出来るのなら、例えば誰かに会って相手を見ただけで、その人が昨日何をしていたかまで分かることになっちゃう。

 そんなの無理だよね?


 え?シャーロックホームズはやっていた?

 あれはフィクション!お話の世界。

 われらが「イケイケ刑事」こそ現実の捜査(?)を映し出しているんだい。


 でも、見ただけで相手が何をしていたら、何を考えていたのかが分かったらちょっといいなあ。

 そうしたら、てるみちゃんのハートももっと簡単にゲットできるかも。

 シャーロックホームズの真髄まで達すれば僕にも出来るかな?

 また話が脱線している?


 結局僕は何の収穫もないまま、そのアパートを後にしたのだった。

 早く帰って、「イケイケ刑事」を見て、正しい捜査を学ばなきゃいけないからね。


 ……




 教訓:「現場百遍」はどこかの都市伝説です。よいこの刑事さんたちは「イケイケ刑事」にて正しい捜査方法を学びましょう。



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