第31話 白馬の騎士が現れてお姫様を救出!めでたく2人は恋に落ちるのって定番中の定番だよね(3)
都心、渋谷のゲームセンター。
最近のゲームセンターはクレーンゲームや音ゲー、プリクラなど女の子にも人気なんだよね。
ということで、今回の事情聴取はゲームセンター。
女の子は意外とゲームセンター好きらしい(如月紫音調べ。サンプルデータ数が少なすぎるのはご愛嬌)。
「女の子ひとりだと、なかなか来にくいんだよね。あ、大きなぬいぐるみ。かわいい」
てるみちゃんもはしゃいでいるぞ。かわいい。
でも、今日はかわいいぬいぐるみも、華やかな音ゲーもひとまずおいておいて、まずは格闘ゲームコーナーへ。
なぜって?僕に考えがあるんだね。
「まあまあ。まずはそこに座って。はい、適当にキャラクター選んでやってみようね。とりあえずガチャガチャしながらボタン押せば、パンチやキックが出来るからね」
とまどいながらもガチャガチャキャラクターを操るてるみちゃん。
やっぱり選んだキャラクターもかわいいやつだね。
当然のように、あっという間に相手にノックアウトされて、終わってしまうてるみちゃん。
「ああー。負けちゃったね。大丈夫、僕がやり返してあげるからね」
変わった僕が相手をボコボコにするぞ。
名づけて「バーチャル白馬の騎士作戦」。
本当はリアルに白馬の騎士作戦をやりたかった。
でもてるみちゃんに襲い掛かる役を安藤やかすみさんに断られてしまったからね。
ゲームの世界で我慢しよう。
幸い格闘ゲームなら自信がある。
大学生の頃、授業も行かずに、ゲームセンターに通ったからね。エヘン!
てるみちゃんのかたきだ!
強いキャラクターで相手をボコボコにする僕。
てるみちゃん、ちゃんと見ていてね。
僕が君を助ける白馬の騎士だよ。
少し時間はかかったものの、なんとか相手をノックアウトした僕。
あきらめの悪い相手に2度、3度と挑まれたけれど、そのたびに返り討ちにしてやった。
あ、やりすぎた。
相手が直接僕のほうにやって来て、リアルにバトルを挑んでくる気配。
こんな状況も昔はどうにもならなかったけれども、今なら大丈夫。
ポケットの警察手帳をチラ。
「署まで来てもらうぞ」低い声を出せば、相手は一目散に逃げていった。
よし。強いぞ、僕!
そんな僕にてるみちゃんも「素敵!」って抱きつきたくなるはず。
抱きつきたくなるはず…。
抱きつきたくなる…はず?
あれ?てるみちゃんが微妙な顔をしている。
苦笑い?
そんな表情をして僕を見ているような。
そのままてるみちゃんは音ゲーのコーナーに行ってしまった。
おかしいなあ。女の子は自分を守ってくれる強い白馬の騎士にあこがれているはずなのに。
なんとなくバーチャル白馬の騎士作戦は失敗したようだ。
どうして?
どうやらバーチャルでは効果がないらしい。
うーん、悲しい。
これも悪役を断った安藤のせいだ。
安藤が悪い。
こうなったら安藤を意地でも犯人にしてやるぞ。
「あー、あと少し!もうちょっとなのに」
少し機嫌もよくなって、はしゃいでいるてるみちゃん。
僕はクレーンゲームにて大きなオオカミのぬいぐるみをゲットしようとしていた。
「なつかしいね。大学の頃、よくこうやってクレーンゲームしていたよね」
「そうだね。あの頃はもっと景品も小さくて、簡単に取れたよね」
「私には全然簡単じゃなかった。いつも紫音に取ってもらっていた」
そうだった。
あの頃、いくつもの小さなぬいぐるみをゲットしては、てるみちゃんにあげていたものだった。
「今でも全部持っているよ。ウサギにクマさん。キャラクターものからマグカップまで。大事な思い出においてある」
僕にとってはうれしい言葉だ。
最近のクレーンゲームは景品も大きくなって、簡単には取れない。
でも、少しづつずらして、あと少しというところまで来ていた。
是非ともこれはゲットするぞ。
ちなみに景品は大きなオオカミのぬいぐるみ。
このオオカミをゲットしててるみちゃんにプレゼント。
テンションもあがったてるみちゃんを前に、今夜は僕もオオカミになるんだ!
「あのオオカミをゲットしたら、僕もオオカミになるんだ」
「何の話?」
「ううん、独り言、独り言」
あぶない、あぶない。
ついつい心のセリフがポロリと。
ところが、あと少しというところでオオカミの顔がバーに挟まってしまった。
何度もクレーンの本体で押して落とそうとしたけど、それ以上ピクリとも進まない。
終わった。
僕のオオカミ作戦もここまでか?
やっぱり僕はオオカミにはなれない運命なのか?
どうしよう?
店員さんと「平和な話し合い」(簡単に言うと「恐喝」)で解決しようかな?
でも、てるみちゃんの目の前でそれをやるのは、さすがにイメージが悪くなるので無理だよな。
てるみちゃん、ちょっと目をつぶってどこかに行っていてくれないかな。
残念ながら、すぐそばにぴったりくっついて、離れないてるみちゃん。
「ああー。もう少しなのにもう動かないね」
「うーん。最近のクレーンゲームは大きくて、難しいね」
「あ、向こうに取りやすそうなぬいぐるみがあるよ」
状況を察してくれたのか、てるみちゃんは小走りで反対側のクレーンゲームに走り寄っていた。
昔ながらの小さなぬいぐるみがたくさん詰まれたクレーンゲーム。
「ほら、これだったら紫音、得意だよね」
確かにこれなら得意だ。
でもそのクレーンゲームの景品は、小さなかわいいニワトリのぬいぐるみだった。
複雑な気分だ。
はしゃいでいるてるみちゃんの顔を見ると、チャレンジしないわけにもいかない。
よし、このクレーンならコツを覚えているぞ。
たった2回でニワトリのぬいぐるみをゲットする僕。
それをもらっておおげさに喜んでくれるてるみちゃん。
複雑な気分だ。
やっぱり僕はチキンな運命なのか?
オオカミにはなれないのか?
「うれしい。紫音から久しぶりにもらったプレゼントだからすごくうれしい。大事にするね」
僕の心を知ってか知らずにか、てるみちゃんは無邪気に喜んでいた。
ああ、神様。
僕の欲しいのは小さなチキンの心ではなく、大きなオオカミの勇気なのです。
どうしよう?
やはり店員さんと話し合うしかないのかな?
「てるみちゃん、ちょっと先に行って、外で待っていてくれないかな。僕は忘れ物をしたみたいだから取りに行ってくる」
そう言って、僕はてるみちゃんに先に外に行ってもらった。
もちろん、忘れ物なんてない。
すぐにオオカミのぬいぐるみについて話し合いをするため、店員さんを探した。
あ、いたいた。あとはどうやってお願いすれば、オオカミのぬいぐるみを渡してくれる気になるかな。
警察手帳を見せて、重要事件の参考にしたいからと言い張って貰い受けるか?
それとも景品が取れないのは詐欺罪の疑いがある、と正面から脅して奪うか?
こういう方法ならいくらでも頭に思い浮かんでしまうのが、悲しい刑事の性だね。
いわゆる「職業病」っていうやつかな(全然違う!)。
でも、結局僕はそれをあきらめた。
なぜって?
そうやって手に入れてプレゼントしても、なんだか心が晴れない気がしたのだ。
てるみちゃんのために、てるみちゃんのためだから、自分の力で勝ち取りたかった。
たかがクレーンゲームの景品だけど、このときはやっぱり自分の力でゲットして、堂々とてるみちゃんにプレゼントしようと思ったのだ。
店員さんに声をかけるのはやめて、僕はそのまま外へとゆっくり歩き出す。
てるみちゃんが待っているはずの外へと。
そのときの僕は、てるみちゃんからちょっと目を離したせいで、これほど大きな事件が起こるとはこれっぽっちも思っていなかった。




