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第30話 白馬の騎士が現れてお姫様を救出!めでたく2人は恋に落ちるのって定番中の定番だよね(2)


 ふあー!眠い、眠い。


 次の日の朝。

 刑事課では昨日徹夜でお仕事だったからといって、次の日はゆっくり寝ていてかまわないなんてことはもちろんない。

 そんな中でも、刑事課の皆さんはいつもどおりテキパキお仕事している。

 えらい、えらい。でも見習いたくないー。


 朱に交われば赤くなる?

 いやだー!

 僕は是非とも腐ったみかんになって、みんなも腐らせて、ゆるゆるでダメダメな刑事課を作るんだい!

 ぜひ皆様もご協力を(よいこのみんなはこんな大人になっちゃダメだよ)。


 結局、矢崎の死因は出血多量。

 部屋からかすかな覚せい剤反応。

 覚せい剤や矢崎とつながりのあった暴力団を中心に徹底した捜査が行われるらしい(もちろん僕以外の刑事課の優秀な刑事さんの手で)。


 そんな中、僕も事件ファイルを垂直に立てて、ピクリとも微動だにせず事件を考え中。と見せかけて、奪われた睡眠の補充中。

 ファイルを立てているのは、寝ているのを見られないようにという僕なりの配慮だね。


 ふあー。てるみちゃーん。

 寝ぼけまなこでも浮かんでくるのは、相変わらずのてるみちゃんの笑顔。

 昨日ももうちょっと(?)というところで邪魔が入ってしまった。

 天敵、係長ももう少し空気を読んでくれないかなあ。


 でもこのままではてるみちゃんとの関係はぜんぜん進展しないぞ。

 なんとか無理やりにでも二人の仲を急接近させるいい方法はないだろうか?


 そんなことを考えているとき、見知った顔が刑事課の部屋へとやってきた。


 おずおずと刑事部に入ってきて、キョロキョロとあたりを見回す男。

 あ、あのひょろっとした男は安藤だ。

 僕が捜査中の瀬戸みさき殺し。

 矢崎亡き後、有力な犯人候補に一気に躍り出たよね。


 僕は笑顔で近づいていって、声をかける。


「やあ、犯人君。これで瀬戸みさき殺しは君しか犯人がいなくなったね。自白する気になったかな?」


 僕の声に、安藤のみならずまわりの刑事さんたちもいっせいにこっちを向く。


「やめてください。僕は犯人じゃありません。こんなところで、誤解を招くようなことを言わないで」


「それなら誰が犯人なんだよ?他にいないじゃないか」


「それを調べるのがあなたの仕事でしょう」


「えー。もう君が犯人ってことで確定にしたいんだけれどな。そろそろ犯人逮捕しておかないと世間の目も厳しくなるころだし。今なら矢崎の拷問殺人までセットでプレゼント。いっきに2つの事件が解決!おいしいなあ」


「やめてください。だいたいあんな爪まで引き剥がすような拷問までして殺すようなマネ、僕には出来ませんよ」


「そうかなあ。死刑台直行。苦しまずに死ねると評判の、日本お得意の死刑体験の大チャンスだと思うんだけどな」


「うれしくない、うれしくない。そんな体験一生いりません」


 2人きりの取調室なら、記憶が変わるまで殴って、犯人決定してあげるところだけれど、ここではみんなの目もあるし。

 それに今この事件を解決してしまうと、てるみちゃんと会えなくなっちゃうしね。


 うーん、なんとかかっこよく事件を解決しつつ、てるみちゃんにいいところを見せ、二人は結ばれてハッピーエンドとなる大技はないものか?

 よーく考えよう。

 あ、最高の方法があるじゃないか。


「ねえ、犯人君。ちょっとお願いがあるんだけれど…」


「いやだ!聞かなくてもろくな話じゃないことぐらい分かる。そのうさんくさい笑顔は危険だ」


「何を言っているのかな?僕は君のためを思って精一杯の提案をしようと思っているのに」


「君のためを思ってっていうのは、詐欺師がよく使う言葉ランキング第1位の言葉ですからね」


「いやだなあ。僕は詐欺師どころか、世界一まじめで誠実な刑事なのに(ただしちょっぴりウソツキ)。ということで犯人君。君には犯人としてなるべく派手に僕に捕まってほしいんだ」


「だから僕は犯人じゃないですって。もう決めてかかるのはやめてください」


「そんなあ。最初にとりあえず犯人候補にしておくから、他に犯人がいなくなったらちゃんと逮捕されてね。よろしくってお願いしておいたのに」


「意味が分からない。なぜそんなに犯人が簡単に変わるんですか?」


「仕方ないよね。有力候補の矢崎が殺されたことだし。大丈夫。自首扱いにしてあげるから、死刑になることもないよ」


「そういうことじゃないです!なんで僕が犯人ということで話が進んでいるんですか?」


「だって、他にいないからね。ということで、計画を話すよ。犯人の君は僕に犯行を見破られて逃亡。街中で僕に追われる」


「見破られるもなにも、犯行なんて何もしていないです。冤罪だー」


「まあまあ。それで最後は僕に捕まって、かっこよく投げ飛ばされて、手錠をかけられると。キメ台詞セリフ『僕の目の黒いうち、悪党どもはゆるさねえ』って僕が言うから、そこで『恐れ入りました』って神妙に頭を下げるんだよ」


「いやだー!もう僕が逮捕される前提で話が進んでいるじゃないですか。やめて、やめて!」


「ダメ。これが最善の方法なんだよ。ポイントはこの逮捕劇をてるみちゃんが目の前で見ているところで行うところ。これでてるみちゃんも『キャー!紫音かっこいい』となって、2人の距離は急接近。君も自首扱いで刑も軽くしてもらえるからみんなハッピー!これこそベストな方法だと思うよね」


「思わない!思わない!無実の罪で刑を軽くしてもらってもちっともうれしくない」


「そのかわり僕とてるみちゃんは深い愛で結ばれるから。大丈夫。僕たちが君の分まで幸せになってあげるよ」


「ちっともうれしくない!絶対にイヤです」


「ダメ?どうしても?」


「当たり前です」


 おかしいなあ。せっかくみんなが幸せになれる方法を考えたのに。


 仕方ない。

 安藤がここまで本気で拒否するなら、プランBに変更かな。


「それなら仕方ない。計画変更。じゃあ、君は街中、僕の目の前でてるみちゃんに襲い掛かる」


「今度は何ですか?」


「で、僕がそれを阻止しててるみちゃんを救い出すと。まあ、昔からありふれた方法だけど、この際仕方ないよね。通称『白馬の騎士』作戦。女の子は自分を守ってくれる白馬の騎士を待っているものだよ」


「イヤです。だいたい僕のことは、てるみさんも知っているんだから、そんなことをしても不自然極まりない。バレバレですよ」


「あ、そうか。じゃあ、覆面でもかぶってみる?」


「そういう問題じゃないです。絶対に僕はやりませんからね」


 安藤が逃げるように去ってしまった。

 あーあ。せっかく罪が軽くなるチャンスをあげたのになあ。


 でもどうしよう?

 これで僕の白馬の騎士計画が白紙に。

 誰か騎士に退治される悪党役やってくれないかなあ。

 みなさーん、重要キャスト募集中ですよ。


 そんなとき、目にとまったのがお茶を運んでいる高橋かすみさん。

 そうだ、かすみさんなら暴力も得意(?)だし、この悪党役にぴったりかも。


「かすみさーん!」


「なによ?」


 かすみさんの僕を見る目はどことなくまだとげとげしい。

 いやだなあ。

 僕はもっともっとかすみさんと仲良くしたいのに。


「かすみさーん。僕のこの胸の痛みはかすみさんにしか癒せないのに。だからちょっと協力してほしいんだけれどな」


 捨てられた子猫のように、弱々しく媚びた表情を作るのがポイント。

 これでかすみさんもいつまでもツンツンしていられないよね。


 ほら、かすみさんの表情がちょっとゆるんだぞ。


「なにを?」


「実は白馬の騎士計画というプランがあってね。かすみさんにぴったりの役があるんだ」


「白馬の騎士計画?」


「そう。まあ、難しいことは考えないで、かすみさんにはある女の子に襲い掛かってほしいんだよね。かすみさんなら暴力も慣れているし、うまく出来るんじゃないかな。そこへ僕がさっそうと現れて、女の子を助け出すと。迫真の演技が大事だよね」


 ウギャー!

 いきなりナイフが飛んできたぞ。

 危ない。

 本気で顔の真ん中に命中するところだったじゃないか。


「危ない!もうちょっとで死んじゃうところだったじゃないか…。キャー!ちょっと待って!待って!」


「動かないで!確実に顔の真ん中に一撃でしとめてあげるから。迫真の演技で襲い掛かるのなら、まずは紫音でしっかり練習しないといけないよね」


「ちょっと待って!その本気の目は何?もっと軽くていいんだよ。警棒で軽くポカリ…ぐらいで。(グサッ!)キャー!やめて、やめて!ロミオとジュリエットになっちゃう。本物の悲劇が生まれるからやめて!」


「こうしてロミオとジュリエットは、あの世で仲良く暮らしましたとさ。めでたし、めでたし」

「めでたくないー!」


 僕は必死で走って逃げ出した。

 うまくいかないなあ。

 かすみさんにお願いすると確実に殺人事件の1つや2つ起こってしまいそうだね。

 仕方ない。何かほかの手を考えるか。


 待っててね、てるみちゃん。

 昨日の埋め合わせは必ずするからね。



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