第29話 白馬の騎士が現れてお姫様を救出!めでたく2人は恋に落ちるのって定番中の定番だよね(1)
夜の住宅街。数台のパトカーのランプだけが赤々とともっている。
見るからに高級そうな家が並ぶ一画。
こんな場所に矢崎は住んでいたらしい。うらやましい。
広い家に入ると、まっすぐ続く廊下。
奥にリビングルーム。
部屋はいたるところ散らかっていた。
本棚も引き出しも。あらゆるものが外に出されて、何かを探したようなあとだった。
リビングのみならず、あらゆる部屋が同様だ。
矢崎が殺されていたのは2階の寝室。
そこも部屋中、散らかったままだが、それ以上に矢崎の凄惨な殺され方が目を引いた。
矢崎は裸の状態で、手足をしばられ、目隠しされていた。
体中ナイフで傷つけられた跡。
手足のみならず、腹も背も顔も。あらゆるところ傷だらけ。
さらには手足のつめまでもがむごく引き剥がされている。
さすがに気持ち悪くなって目を背ける僕。
前言撤回。全然うらやましくない。
「ものすごい殺され方だな。大丈夫か?」
さすがの係長も少し青い顔をしている。
「これだけひどい殺され方は珍しいな。やっぱり暴力団かなにかの犯行か?これも見せしめなのか?」
「いいえ、部屋の中で殺されたら、見せしめにはなりません」
「だったら、相当被害者を恨んでいた人物の犯行か?」
「恨んでいても、つめまで引き剥がすというのはどうでしょう?ナイフも全身めった刺しにして殺されていたのなら分かりますが、これは手足、お腹などいちいちナイフで傷つけた感じです」
「それならなんなんだ?」
家中散らかされた様子。
体中傷つけ、つめまで引き剥がした死体。
「普通に考えれば、拷問のように思えます。つめを引き剥がすのは典型的な拷問方法のひとつですよね」
「なぜそんなことをした?」
「矢崎から何かを聞きだす必要があったんでしょう。そこで犯人たちは矢崎を縛り上げて、白状させようとした。もちろん、1人ではこんな犯行は無理です。複数人で縛り上げて、家中を探し回りながら、拷問する」
そうだ。犯人たちはこの家にある何かを探していたのだ。
その場所を聞き出すため、矢崎を拷問した。
だからこんな死体になったのだ。
「それで犯人たちは、矢崎の口を割らせて、目的のものを手に入れたんだろうか?」
「それは無理だったみたいですね。もしも手に入れていたなら、そこで家捜しは終了。部屋という部屋がこんなに荒らされた状態のままということはありません。これは最後までイライラしながら探し回った跡に思えます」
ここまでされても矢崎は口を割らなかったということになる。
もしくは知らなかったのか?
どちらにしても地獄の苦痛だっただろう。黙祷。
かわいそうに。
ちゃんと君の分まで僕が幸せになってあげるからね。
「犯人たちが探していたものとはなんだったんだろう?」
「そこまでは分かりません。矢崎の身辺をしっかり調べてからでないと」
気がつくと、他の二係の刑事の刑事さんの姿もちらほら見えた。
二係だけではない。他の課の刑事さんもいる。
「矢崎は暴力団との関係があったようだ。覚せい剤の売買に絡んでいたという情報があがっている」
言ったのは他の課の刑事さん。
「だったら、探していたのも覚せい剤?」
「それはない。ただの売人がそこまでの量の覚せい剤を家においておくとは思えない。そういえば、君は別件で早くから矢崎に目をつけていたらしいな。どうして?」
「ええ、まあいろいろ調べていたら、矢崎につき当たったみたいな感じですかね」
あいまいに答える僕。
適当に被害者の知り合いを呼び出して、怪しいから犯人にしてみたとは言えない。
夜遅いのに続々と刑事が集まってくる。
これだけ人がいるのなら、僕は帰ってもいいんじゃないかな?
普通の考えなのに、みんなが一生懸命仕事していると言い出せない。
これが雰囲気というやつだ。
ああ、空気を読める大人になんてなりたくない。
「結局、お前の事件、瀬戸みさき殺しも犯人は矢崎ではなかったということなのか?」
再び戻ってきた係長が僕に聞く。
「分かりません。分かりませんが、矢崎にはアリバイがありました。そのアリバイのウラも取れました。例の焼肉屋さんにいたという相手が判明したんです」
「だったら、真犯人は他にいるということだな」
そうだ。これで事件は続行。
てるみちゃんとの事情聴取も続行だ。
壮絶な死体を見て悪くなった気分が、少し良くなった。
よし、なくなった矢崎のためにもてるみちゃんともっと仲良くなって、2人で幸せにならなきゃね。がんばるぞ。
なんか違うって?いーや、何も違わない。
いつだって最後には愛が勝つんだよ。
それにしてもこの実況見分はいつまで続くんだろう。
もう終わりにして、家に帰りたいな。
僕の願いもむなしく、結局この捜査はなんと朝方まで徹夜で続いたのだった。




