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第28話 完璧な作戦!名付けて「赤ずきんちゃんをオオカミさんの巣に呼んでくればいいじゃん」(4)


 さらにてるみちゃんが何かを言おうとしたその瞬間、携帯電話の音が鳴り響いた。


 チッ!誰だよ?

 今最高にいい場面なのに。

 ゲッ!係長からだ。

 だめだ!こんな時間から電話。いいお話であるわけがない。


 無視!無視!

 僕は気づかなかったんだ。

 携帯の呼び出しが聞こえなくて、気づかないままでいることってよくあるよね。


「携帯電話が鳴っているみたいだけれど、いいの?」


「大丈夫。大丈夫。たまたま僕が携帯を置いてどこかに行った時に鳴ったんだ。だから、気づかなかったらしい」


「え?どういうこと?」


 違った。違った。これは僕の心の声だった。


「いや、僕もこれでもキャリア刑事だからさ。些細なことでも部下たちがいちいち電話してくるんだよ。全部相手していたら、身がもたない。彼らにも自分で考えて成長してもらわないとね」


 きまった。

 かっこいいセリフでポイントアップ!

 これでこのあとすぐ下のホテルにて、一泊二日、オオカミさんと赤ずきんちゃん体験ツアーにペアでご招待!って出来るくらいのポイントはたまったかな?


 しつこく鳴り続ける携帯とにらめっこしながら、鳴り止むのをじっと待つ。

 ガチャ切りしたり、電源を切ったりしないのがポイント。

 「気づかなかった」って言い訳が出来なくなるからね。


 やがて鳴り止んだ携帯を即効でマナーモードにして、対策バッチリ。

 こうして僕はてるみちゃんとの平和な夜を取り戻した。

 これも二人の愛の力だね。

 さあ、さっきの続き、続き。


「こういうのをみると、紫音が本当に刑事になったんだなあって実感するなあ。ねえ、刑事の仕事って大変?」


「うーん。それほどでもないよ。まあ、みんな考え方が甘いから、僕が事件の核心ををズバズバ指摘してあげるんだけどね」


 ちがーう!今したい話はこんな話じゃなーい!

 もっと甘くてスイートな二人の関係をもっと進める、できればそれも ×エロエロな方向へ ○ちょっぴりアダルトな方向へと二人の関係を持ち込めるお話がいいのに。


「すごーい!かっこいいね。例えばどんなふうに?」


「いや、今日だって今話題の都会の惨殺事件で、精神異常者の犯行とか言っていたから、違う、これは暴力団とか組織の争いだって教えてあげたんだ」


「その事件って、道路の真ん中で血だらけの男の死体があったってやつだよね。あれはどういうことなの?」


 残念ながら、僕の思惑とは全然違う方向へと話は勝手に進んでいく。

 行かないで!あの甘い会話をもう一度!


 僕の願いもむなしく、お話はどんどん殺伐とした方向へと進んでいくのだった。


 ああ。「一瞬で2人の関係をオトナにする会話術」って本でも売ってないかな。

 役に立たない雑談力「し・た・し・き・な・か・に」の本より数百倍売れると思うんだけれどな。


 こうして漠然とした話をしながら、また時間が過ぎた。

 まあ、これも悪いことばかりではないかも。

 そう、確実に終電の時間は近づいている。


 しばらくして、また携帯が鳴った。

 今度はマナーモードなので、ブーンというかすかな音だけだ。


「大丈夫?また携帯が鳴っているみたいだけれど?」


「平気!平気!どうせまた部下からの報告とか相談だよ」


「でも、大事な話や事件かもしれないよ」


 あ?これはチャンスかもしれない。あのあまーい会話を取り戻すぞ!


「たとえそうだとしても、部下たちもいつまでも僕にばかり頼っていてはいけない。彼らもちゃんと独り立ちしないとね。それに…」


「それに?」


 注意を引くために少し間をおく。

 それからてるみちゃんの目を見て言う。


「僕にとってはてるみちゃんより大事なものなんてない。てるみちゃんとの時間よりも大事な話なんてありえないから!」


 完璧!これでてるみちゃんの瞳がハートマークに!


 こうして、ついにいくつもの障害を乗り越えて、愛し合うロミオとジュリエットは仲良く赤ずきんちゃんとオオカミさん体験ツアーにエントリー!末永く幸せに暮らしましたとさ。めでたし、めでたし。


「よーく分かった。お前だけは永遠に独り立ちさせちゃいけないことが。これからは常に目の届くところに置いておいて、監視。徹底的に再教育してやらなきゃな」


 あれ?この場に似つかわしくない低くて太い声がすぐ後ろで鳴り響いたぞ。


 聞き覚えのあるこの声!

 いやーな殺気!

 振り向きたくない。振り向く勇気なんてない!


 おびえてかたまる僕の頭をガシッとつかんで強制的に振り向かされた目の前。

 いつもの鬼の係長がさらに赤みを増して登場。

 パワーアップでもしたのかな?


 いやだー!

 やっとのことでここまでもってきた僕の夢の時間を奪わないで!

 だいたいどうして係長がこんなところに?


 考えろ!考えるんだ!

 どうやってこの窮地を乗り切って、再びてるみちゃんとの甘くて切ない時間を取り戻すのかを。


「ど、ど、どちらさまでしょうか?僕はどこにでもいる都会の普通の会社員Aです。だ、だ、誰かと人違いでもしていらっしゃいませんか?」


 堂々と平気な顔で言い切れるかが勝負の分かれ目だね。

 え?声が震えてるって?


「ほう、お前は俺がよく知っているクズな新人刑事ではないと。何度携帯にかけても出ないで、こんなところでデートしているバカな新人刑事じゃないと?」


「何を言っているんですか?世の中には自分とそっくりな人が3人はいるって言いますしね。それに携帯を置き忘れて、鳴っているのに気づかないこともよくありますよね」


 あ、係長が携帯を取り出して、どこかに電話しているぞ。

 ゲッ!僕の胸で激しく携帯がバイブしてる。


「その胸で振動している携帯を見せてもらおうか。まさかそれだけ振動していて気づかなかったとは言わせないぞ」


 キャー!終わった。

 後ろからがっしり首を絞められて、死にそうになった。

 いや、一瞬あの世が見えた。本当に。


 首根っこ捕まえられて、連行されていく僕。

 てるみちゃんが同情(?)するような目でこっちを見ている。


「でも、どうして僕がここにいると分かったんですか?」


「刑事に渡される携帯電話にはGPSがついているんだ。当たり前だろう!」


「人権侵害だ!プライバシー権の尊重を。個人活動の自由を守れー!だいたいもう仕事の時間はとっくに終わっていますよね」


「刑事にプライバシーも何もない。事件に朝も夜もない。特に今の場合は。実はお前に関係のある重大事件が起きたんだ」


「重大事件ってなんですか?もう一度言いますが、もう僕の勤務時間は終わっていますからね」


 僕が念押しした言葉も、当然のように係長は無視。


「矢崎が殺された。お前の事件の容疑者だった矢崎が自宅で殺された」


「えっ?」


 さすがにちょっと驚いて抵抗がとまる。後ろのほうでも同じようにてるみちゃんが驚いた声を上げていた。


「全身切り刻まれて、矢崎が無残に殺されたらしい。すぐに現場にいくぞ」


 こうして無慈悲な人間につかまった哀れなオオカミさんは、事件現場に連行されました。

 赤ずきんちゃんの純潔は守られましたとさ。

 めでたし、めでたし。ん?めでたくないー!


 ……



 教訓:デートのときは確実に携帯電話の電源は切っておきましょう。「気づかなかったフリ」で乗り切ろうとすると大ケガをすることがあります。特に最近の携帯はGPSなんていう迷惑なものがついているからね。

 




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