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第26話 完璧な作戦!名付けて「赤ずきんちゃんをオオカミさんの巣に呼んでくればいいじゃん」(2)

 矢崎の無実を証明するために奔走する僕。


「ということなんだよ、安藤君。是非とも君たちの美しい友情を見せて欲しいんだ。『僕が真犯人です。矢崎さんは無実です。釈放してあげてください』って君が名乗り出るだけですべて解決!」


「意味が分からない。どうして僕がやってもいない殺人の犯人として名乗りをあげなければいけないんですか?」


 服屋さんに寄るついでにやってきた安藤のいる居酒屋さん。

 そこで僕は安藤を説得していた。


 どうして?

 もちろん、矢崎を助けるための身代わりをお願いするためだよね。


「あれ?話を聞いていたよね。このままだと矢崎は明日にも逮捕されてしまう。そこで事件も終了。そんなことは正義のためにも、僕たちの愛のためにも許されない。そこで安藤君。君の出番だよ。ここで君が犯人役をかってでれば、矢崎は釈放。君たちの美しい友情に感動した裁判官も情状酌量してくれるかも。いや、情状酌量してくれるに違いない。ね、ベストな解決法だと思わない?」


 ついでに美しい友情に感動したあの係長すら、「信頼」の力を認めて丸くなってくれるかも。

 完璧なプランだ。頭いい、僕!


 でも、安藤は僕の完璧なプランを素直に受け入れてはくれなかった。


「思うわけないでしょう。だいたい僕は何の関係もありませんよね。そもそも僕と矢崎さんの間に友情なんて最初からありません。なぜ僕が矢崎さんを助けるために、わざわざそんなことをしなければならないんですか?」


「つれないなあ。『走れメロス』ってお話はもちろん知っているよね。メロスの身代わりになった親友のセリヌンティウス。その親友を助けるために一生懸命走って、約束を守ったメロス。その友情に感動して、王はすべてを許して仲間になったのです。ああ、美しい。なんて美しいお話なんだろう。ほら、安藤君。君もそんな奇跡を起こしたくなったでしょう」


「全然なりません。そもそも犯人だなんて名乗り出て、本当に死刑になったらどうしてくれるんですか?」


「大丈夫!君だけにこっそり教えてあげるけれど、日本の絞首刑は足場がなくなった瞬間に首の骨が折れて、意識がなくなるんだ。だから、苦しまずにあっという間に死ねるんだよ」


「いやだー!死にたくないー!というか、なんで僕が無実なのに死刑になる前提なんですか?」


「だから、それは美しい友情の力を見せつけるためだよ。メロスとセリヌンティウスがどうなったかよーく考えてみよう」


「あれはお話です。フィクションなんです。僕が今名乗り出たら、確実に刑務所行きです。犬死ですから。だいたい友情だとか『走れメロス』だとか言うのなら、刑事さんがやればいいんですよ。刑事さんが『真犯人は僕です』って名乗り出て、矢崎さんは釈放される。これで完璧。言ったはずですが、そもそも僕と矢崎さんの間に友情なんてこれっぽっちもありませんからね」


「残念ながら、僕にはてるみちゃんを幸せにするという大事な人生のミッションが残っているからね。その点、安藤君なら大丈夫。死刑になっても悲しむ人もいないよね。いや、いない(断定)!」


「失礼な!いったい僕の何を知っているというんですか?ダメですよ。絶対にイヤです。僕は身代わりになんてなりませんからね」


 かたくなに拒否する安藤。

 おかしいなあ。みんなが幸せになれる完璧な案だと思ったんだけれどもなあ。


 これなら日ごろから愛想なくて、人間らしい心なんて一ミリも持たない係長だって大感激。

 まるで走れメロスの王のように、人間らしい心を取り戻してめでたしめでたし、のはずなんだけれどもなあ。


 いや、あきらめちゃいけない。方向性を変えよう。

 僕が誠心誠意、心から説得すれば、安藤だって人間らしい心を取り戻して、このすばらしい計画に協力してくれるに違いないよね。


「ねえ、安藤君。『情けは人のためならず』って言葉の意味を知っているかな?」


「ああ、もう言いたいことは分かりました。もうそれ以上何も言わなくていいです。聞きたくない!」


 耳をふさいで絶叫する安藤。

 ここまで頑なになるなんて、今までどんなつらい人生を送ってきたのかな?


「まあまあ。この言葉の意味を間違えている人が多いんだけれど…」


「知ってますよ!情けをかけるのは他人のためじゃない。まわりまわって自分のところに帰って来るんだよ。だから僕が矢崎さんを助けるのも自分のためだって言いたいんでしょう。その情けで僕が刑務所に入れられたら誰が責任とってくれるんですか(怒)!」


「うーん。まあ、僕はもちろん、関係者みんなで君の分まで精一杯幸せになって、これからの人生を楽しく生きることで責任をとる…かな?」


「どうしてみんなの幸せのために僕が死刑にならなきゃいけないんですか?」


「まあまあ、死刑になると決まったわけじゃないし。そうだ、この作戦が成功すれば、裁判官だってきっと情状酌量で無期懲役ぐらいにはしてくれるはず!」


「絶対イヤです。もうあなたの言うことは一言たりとも聞きたくない!帰って!帰ってください!」


 あーあ。

 結局、安藤に本気の剣幕で追い出されてしまった。

 警察に協力することは市民の義務なのにね。


 まあ、仕方ないか。

 日ごろから友情を育んでこなかった矢崎が悪い。

 僕は全力を尽くしたもんね。


 ごめんよ、矢崎。

 僕は一生懸命、本当に一生懸命君を救い出そうとしたんだからね。

 あと一歩、ホントにあと一歩及ばなかっただけなんだ。

 だから、死刑になっても僕を恨むんじゃないよ。

 恨むのならヒーロー役を断った安藤を恨んで化けて出てくれたまえ。


 あ、もうこんな時間だ。

 こうしちゃいられない。

 てるみちゃんとの事情聴取デートの時間だ。


 僕もこれでもうあとがなくなった。

 なんとしてでも今日中にてるみちゃんのハートをゲットしなければ。


 大丈夫、大丈夫!準備はバッチリ!

 あの日から毎日ステーキ食べて、いつでも肉食系オオカミに変身できるようにしてきたからね。

 今日こそてるみちゃんの身も心も僕のものにするぞ、ガオー!


 ……



 教訓:いつでも「走れメロス」ごっこが出来るように、日ごろから友情を大切にしましょう。でないと、係長の心はいつまでたってもすさんだままです。


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