第25話 完璧な作戦!名付けて「赤ずきんちゃんをオオカミさんの巣に呼んでくればいいじゃん」(1)
「で、この供述調書はなんだ?」
係長の引きつった笑顔が、逆に恐さを引き立てていた。
「いえいえ。僕の正義感がさらに捜査を続けるという英断をくださせたんです」
僕も負けない引きつった笑顔で答えた。
いつもの二係のデスク。
僕はあとのない戦いに挑んでいた。
正義のために、そして僕とてるみちゃんの愛のためにもこの戦いは負けられない。
「例えば『容疑者の矢崎は1年ほど前に、偶然にも事件に使われたのと同じタイプのナイフや鉄アレイ、ロープを買ってしまっただけで、事件とは何の関係もない』とか。偶然のはずないだろう」
「いえ、同じタイプのナイフなんて日本全国探せばごまんとありますからね。どう考えても偶然です」
「しかも『ナイフも鉄アレイもすでに失くしてしまったと供述しているので、今回の犯行に使われたものではない』と。犯人の供述を頭から信じてどうする?」
「だったら、係長は例えば1年前に買ったボールペンがどこにあるかきっちり覚えていますか?思い出せない経験ありますよね。今回のナイフと鉄アレイも同じです」
「同じじゃない!ボールペンと殺人事件に使われた凶器を一緒にするな!」
「でも、彼の目はウソをついているようには見えませんでした。係長、本当にいい仕事は疑いよりも信頼から生まれるものです」
「状況を考えろ!それは警視庁のそれも取調室で使う言葉じゃない。しかもアリバイが『誰かと焼肉屋にいた』だと。誰かって誰だよ?」」
「人間、人に言えない秘密の1つや2つ持っているものです。矢崎が我々には言えない誰かと焼肉を食べていても、少しも不思議じゃありません」
「だからそれじゃあ殺人事件のアリバイにならないだろう。どうみても矢崎が犯人だな。逮捕状とるぞ」
係長のわからずや。
仕方ない、最後の手段だ。
「係長。でも、僕には矢崎が犯人じゃないということは分かるんです」
「なぜだ?」
一呼吸おいて注意を引く。
それからゆっくりと係長の目を見て答える。
「それは、刑事のカンというやつです。彼に殺人なんて出来ません」
真剣な顔で言い切るところがポイントだね。
係長も僕の真剣な表情にうなずいて、『わかった。お前を信じよう』と言ってくれるはず…あれ?係長。
どうして電話で逮捕状の請求を頼もうとしてるんですか?
僕の話を聞いてました?
「矢崎が真犯人で決まり…」
「係長。それは偏見です。我々は先入観にとらわれない捜査をしなければなりません。無実の人を逮捕してしまったら、その人の人生は大きく狂ってしまうんですよ。慎重にも慎重を重ねて、逮捕すべきです。疑わしきは罰せず!」
「だったら、刑事になるな!だいたいその疑わしきは罰せずって弁護士が使う言葉だろうが。これで逮捕できないって言うなら、世の中の容疑者全員釈放になるぞ」
だんだん係長の声が大きくなる。
正義を貫くというのは大変なことだよね。
あのガンジーだって、最初はなかなかみんなに理解してもらえなかったらしいからね。
「分かりました。だったらあと1週間。せめて1週間だけ待ってください。その間に矢崎が真犯人ではないという証拠を探してきます」
「意味が分からない!なぜ刑事が犯人である証拠じゃなくて、犯人じゃない証拠を探してくるんだよ?」
「正義を貫くためです」
僕のかっこいいセリフはもちろん無視。
結局、矢崎の犯人確定までの執行猶予はたった1日ということで決まった。
今日中に矢崎が犯人でない証拠を僕が見つけて来れなければ、逮捕状請求。
かわいそうな矢崎はそのまま逮捕される。
走れメロスみたいだね。
ああ、矢崎。君の運命はあと1日。でも僕は今日1日、一生懸命走り回って君が犯人じゃない証拠を探してくるからね。
ちゃんと僕を信じて待ってるんだよ。
では早速、てるみちゃんの事情聴取から取り掛かろう。
今日こそてるみちゃんのハートを確実にゲットするんだ。
あれ?これ、今日中にてるみちゃんのハートをゲットすれば、すべて解決しない?
だって僕たちの愛は永遠になるんだから。
そうしたら、別に矢崎が犯人でもどっちでもいいよね。
なんだ、簡単な話じゃないか。
よし、まずは服屋さんに行って、バッチリきめてくるところからだ。
大事な事情聴取だからね。
念には念をいれてと。
そのついでに、仕方ないから、矢崎を助け出すための努力はしてみようかな。
プランはあるのかって?
バッチリだよ!
メロスも真っ青な愛と友情の物語をみせてやるぞ!
待っててね、矢崎。




