第23話 事件解決?!いやだね、そんなことしたら、てるみちゃんとあーんなことやこんなこと…(以下略)…(4)
取調べの極意といえば、昔から「アメとムチ」って決まってるよね。
恐い刑事さんがバンバンとテーブルをたたいて脅かし、「まあまあ」と優しい刑事さんが割って入って、自白を促すあれ。
今日は僕一人だから、自分で恐い刑事と優しい刑事一人二役。
まずはムチ。
上から目線で高圧的に相手を見下すところがポイントだね。
「ほら。すべて分かってるんだよ!全部しゃべちまいな!」
声を張り上げて、机をバーン!
あれ?これ、結構気持ちいいな。
「どうした、だんまりか?てめえみたいな悪人に人権なんてないぞ。バカ!クズ!」
人の悪口ってどうしてこんなに快感なんだろう?
「オラ、顔を上げるんだよ。とっとと自白しろ!ノロマ!カス!ブス!」
「てめえ、調子にのるなよ。それ、ただの悪口で事件と全然関係ないだろ!」
あ、犯人君が真っ赤になって、胸倉をつかんできた。
うーん、やはりこれぐらいでは極悪人はビクともしないか。
仕方ない、もう少し恐がらせて、分からせてやらないといけないな。
ちょっと落ち着いて、僕は静かに諭すように話し始める。
「犯人君。日本の検事は優秀でね。実に逮捕者の9割以上が有罪になって刑務所行きになるんだって」
「何の話だよ?俺はやってないって言ってるだろう」
「やったかやっていないかは問題じゃないんだ。実に9割の人間が有罪判決になるんだよ」
「いやいや、やったかやってないかが一番問題だろう?そこが違ったら、冤罪じゃないか」
「冤罪かどうかなんて誰にも分からない。ばれなきゃ冤罪じゃないよね」
「それ、警察が一番言っちゃいけない言葉だろっ!正義はどこに行った?」
「自分が正しいと思うことをするのが正義なんだよ。僕は正しい!」
ふっ、きまったな。まだまだ青い、犯人君。
社会の荒波というやつが分かっていないようだね。
「おかしい!かっこいいこと言っているようなフリをしているけど、それ、最初から最後までおかしいから」
ようやく事態を分かってくれたらしい。
犯人君がすこしおびえ始めたようだぞ。
ここがチャンス!もう一押し!
「特に日本人は反省とか情というのが大好きだからね。反省しない殺人犯とか最悪。死刑まっしぐら!」
「おい!どうして俺が犯人なの前提で話が進んでるんだ?」
「知ってる?首を絞められて死ぬって、異常なほど苦しい死に方なんだって。時間が永遠にも感じるらしいよ。ずっとずっと苦しいのに死ねないって。よく走馬灯とかって言うけれど、あれは死ぬときの苦しさは異常に長く感じるっていうことだからね。一生を何度も何度も最初から振り返るくらいずーっと苦しみが続くと…」
「ちょっと待て!ちゃんと俺の話を聞いていたか?なぜ俺の話を無視する?いやだー!助けてくれー!」
ちなみにホントは日本の死刑は足場がなくなって落ちた瞬間に首の骨が折れて、苦しむことなく絶命できるんだよ。
よいこのみんなは安心して(?)死刑になっても平気だよ。
ようやく犯人君も分かってくれたようだ。
青ざめた顔でブルブル震えているぞ。
よし、これなら優しい刑事さんに変身しても、素直に協力してくれるよね。
「僕だって、君をそんな目にあわせたくない。ねえ、僕たちは協力して最悪の結果を避けるべきだと思うんだ」
「……」
うーん。まだ疑いの目で僕を見ているような気がする。
せっかく僕は一生懸命犯人君を助けてあげようとしているのに。
「だったら、死刑まっしぐら!あの世まで片道ノンストップジェットコースターの旅ご招待…」
「やめて!やめて!」
「だったら、素直に答えようね。あの日、あなたはナイフとロープと鉄アレイを持って、被害者のアパートに行った」
「違う!違う!俺は殺していない」
強情なやつだ。
「ねえ。事件を考えるときには、犯人の立場になって考えると、真相に近づきやすいんだって。一緒に真相を考えてみようか」
「その笑顔がものすごいワナにしか思えないぞ!」
「まあまあ。あの日犯人はナイフとロープと鉄アレイを持って、みさきのアパートに行った。さあ、想像してみよう」
よしよし。
ちゃんと思い浮かべてるね。
「犯人は瀬戸みさきに殺意を抱いていた。動機はなんだろう?」
「知るかよ。俺は犯人じゃない」
「まだまだ想像が足りないな。相手は若い女。犯人はさえない中年男と」
「待て!なんで犯人が中年男って決まってるんだよ?」
「いやいや。全然深い意味はないよ。その方が矢崎さんが想像しやすいだろうと思って。さあ、動機は…。相手は女。犯人は飲食店のオーナーと従業員の関係を使って、無理やり関係を迫ったと」
「おい!それ完全に俺が犯人ってことに決め付けてるだろ!」
「そんなことないって。一般的なよくある殺人事件の動機の例だって。ほらほら。だったら、矢崎さんはどう思う?動機は?」
「俺が犯人じゃないんだから、知るわけないだろう」
「だったら、動機は関係を迫った飲食店オーナーとの関係のもつれで決定!」
「ちょっと待て!だいたい俺は彼女に関係を迫ったりしない。むしろ追い回されていたんだ」
「若い彼女があなたを追い回していたと。その設定はリアリティないなあ。まあいいや、そうしたら動機は?彼女がうっとうしくなったので、殺したと」
「違う!俺は殺していない!」
何度やっても、矢崎は自分は殺していないと言い張るばかりだった。
だめだ。らちがあかないや。
動機は後回し。
次は犯行に使った凶器だね。
「それでは恒例の殺害方法クイズ!さて、みさきさんの死因は次のうち…。あ、ちょっと待って!」
そうだ。殺害方法はもう確定したんだった。
死因は鉄アレイで殴られたこと。
どれでも正解というわけにはいかないぞ。
真犯人の矢崎には是非とも正解を答えてもらわなきゃね。
「ところでこれは独り言なんだけど、首を絞められて死ぬのも苦しいらしいけど、ナイフで刺殺されるのも最悪なんだって。血がダラダラ出て、いつ死ねるかも分からず、延々と苦しみが続く。こんな殺し方をしたら、裁判官の心象も悪いだろうなあ。その点、鈍器で撲殺ならあっという間だね」
「何が言いたい?」
「別に意味のないただの独り言だってば。ではお待たせしました。殺害方法クイズ!みさきさんの死因は次のうちどれ?①ナイフで刺殺、②ロープで絞殺、③鉄アレイで撲殺。よーく考えて答えようね」
僕は興味津々の瞳で、矢崎の答えを待つ。
ババ抜きで、一枚だけジョーカーを上に出して抜きやすくするあれと一緒だね。
これで矢崎が正解の③を答えやすくなったはず。
さあ…。
「俺はみさきを鉄アレイで殴り殺したりしてないぞ!」
あれ?
質問と答えがずれているぞ。
「もう一度考えよう。ナイフとかロープは心象悪いよねえ。そうしたら、答えはどれだ?」
「だから、俺はみさきを鉄アレイで撲殺したりしていない。鉄アレイで殴り殺したって言わせたいのがバレバレなんだよ」
うーん。
どこで気づかれたんだろう?
ノリが悪いなあ。
それにしても矢崎はどこまでも非協力的だ。
せっかく僕がこれだけ罪を軽くするために協力してあげようとしているのに。
仕方ない。とっておきの証拠の出番か。




