第22話 事件解決?!いやだね、そんなことしたら、てるみちゃんとあーんなことやこんなこと…(以下略)…(3)
眠い…。
もう数え切れないほどのあくびをしながら、僕は机に積み上げられたファイルをパラパラめくっていた。
二係がかかえる殺人事件の概要。
一応、係長代理の僕は二係の事件をすべて把握して、捜査の指示を出す…ということになっているらしい。
1ページ目から飛び込んできた衝撃的な写真。
目も当てられないほどに体中切り刻まれた、ホラーな死体が写っていた。
こんなむごい死体が、なんと都会のど真ん中に放置されていたということで、警視庁のみならず世間でも話題になっている、今一番ホットな殺人事件。
二係の優秀な刑事さんがただ今鋭意捜査中だ。
「その事件。とりあえず精神異常者の犯行を頭において、ローラー作戦で聞き込み中だが、さっぱり進展しない。どう思う?」
いつの間にか係長が戻ってきていた。
「はあ。とても恐ろしい事件だと思います。一刻も早く解決して、市民に平和を取り戻しましょう」
「なめてるのか?誰がそんな小学生のような感想を聞きたいと思ってるんだ?事件解決につながる意見を言え!」
今パラパラとファイルを見たぐらいで事件が解決できるくらいなら、警察はいらない。
「今、俺のことを無能扱いするような目で見たな。だったらお前にはさぞかし有能な考えがあるんだろうな?」
いきなり胸倉をつかまれた。
えーっ!何も言ってないのに。
いやいやながら、もう一度ホラーな死体の写真を見てみる。
いかつい屈強そうな男がナイフで刺しまくられて道路の真ん中に横たわる凄惨な現場。
ん?こんな恐そうなお兄さんを、精神異常者がめった刺しにするだろうか?
彼らなら、もっと弱そうな子供や女の人を相手にする気がする。
「精神異常者の犯行とは思えません。彼らは子供や女の人など弱いものには手を出すかもしれません。でも、こんなに恐そうなお兄さんに手を出す勇気はないでしょう」
「だったら、誰が何のために、都会の真ん中でこんな死体を置き去りにしたんだ?」
なぜ?どうみてもかたぎには見えないお兄さん。
でも、暴力団とか組織の人間なら、殺すにしてももっとうまくやるだろう。
山に埋める、海に沈める。文字通り、闇に葬るはずだ。
だったら、なぜ都会の真ん中にこんな死体が残されていたのか?
それもまるで見せしめにでもするかのように、全身ナイフでめった刺しにされて…。
あ、見せしめか。
拷問でもしたかのような殺害。
わざわざ話題になるように都会の真ん中に死体を置いていく。
これは見せしめなのだ。
きっと組織を裏切ったか何かで、その人間がどうなるかを宣伝して、関係者を恐怖に陥れたかったのだろう。
「これは暴力団とか組織の争いです。おそらく被害者も加害者もそれにつながりのある人間です。被害者は組織同士の争い、あるいは裏切りによって敵対する勢力に殺された。その際、被害者の仲間に警告するために、こんな大げさな殺し方をしたのです。いわゆるみせしめのためですね」
係長が珍しく、僕の言うことを素直に聞いて考えているぞ。
そのとき、二係の刑事さんが戻ってきて係長と話し始めた。
どうやら、都会の惨殺、被害者の家から覚せい剤が見つかったらしい。
さらには他の係の人間までやって来て話が広がってゆく。
被害者と覚せい剤、暴力団とのつながりなど。
しばらくの話し合い。
結局、暴力団、組織の覚せい剤がらみの争いということで捜査は進むことになったらしい。
ほらね。やっぱりそうじゃん。
僕の言ったとおりだね。
ちょっと得意になって胸をそらしてみたけど、相変わらず係長の僕を見る目は険しいまま。
ほら、ほら。もっとほめて、ほめて!
僕はほめられて伸びるタイプだよ。
「そういえば、お前と一緒に行ったアパートの殺し。あれも被害者の女のアパートから覚せい剤が検出されたそうだ。あっちはどうなっている?」
「ああ、あの事件ならもう犯人確定。もうすぐ犯人が来るはずですから、きっちり取り調べて今日中にでも逮捕してやります」
「本当か?」
「ええ、被害者瀬戸みさきに付きまとっていた飲食店オーナー矢崎龍二。彼の犯行で間違いありません。証拠もバッチリ。取調べで自白させて、裁判に持ち込むところまでイメージトレーニング完璧です」
「しっかり頼むぞ。ちなみにあの事件の検死結果もすでに出ている。女の死亡時刻は午前1時ごろ。死因は鉄アレイで後頭部を殴ったことによる撲殺。鉄アレイはもちろん、そばにあったテーブルの角からも血痕が出た」
やはり死亡時刻は、あの皿投げ合戦の時間。午前1時過ぎと。
死因は撲殺か。
そうすると、犯人は鉄アレイで女を殴って殺害。
倒れるときに被害者はテーブルに頭をぶつけて血がついた。
その後、さらに犯人はロープで首を絞め、ナイフで心臓を突き刺したということになる。
なぜそこまで殺しつくす必要があったのだろう?
まあ、いいや。
これから来る犯人君に聞いてみよう(もう矢崎が犯人なのは決定!誰がなんと言おうと確定なんだってば!)。
でも犯人君が素直に自白してくれなかったらどうしようかな?
そのときは多少殴って記憶を置き換えてでも、自白してもらう必要があるよね。
そうだ、いいアイデアが浮かんだぞ。
「係長。ちょっと練習させてくれませんか?人間、どれくらいの勢いで殴りつけたら、記憶が置き換わるのか試してみたいんですよね」
「なんだ、それは?」
「いえ。この後の取調べで、もしも矢崎が往生際悪く『記憶にない』とか言い張ったら、記憶が変わるまで殴ってでも自白させなきゃいけないと思うんですよね。ですから、今のうちにどれくらいの力で殴ったら記憶が置き換わるのか知っておきたいと思いまして」
完璧!
これで合法的に、×係長に復讐 ○係長と取調べの練習 が出来るぞ。
すばらしいはずの僕のアイデア。
でも係長は指をポキポキ鳴らしながら、いつもの恐い表情で怒鳴り返してきた。
「まずはその間違った取調べの方法の記憶をなくすために、俺がお前を殴りつけるところから始めないとな。さっきのではまだ足りなかったようだな?」
あれ?
やっぱり僕が殴られる流れになっているぞ?
ちょうどそのとき、向こうのほうに矢崎の姿が見えた。
僕は飛ぶように駆け出して、彼を取調室へと案内したのだった。
待ってたよ、犯人君。
今日こそ認めてもらうからね。
ここまで読んでいただいて、ありがとうございます。
ボチボチこんなペースで続けていきますね。




