第21話 事件解決?!いやだね、そんなことしたら、てるみちゃんとあーんなことやこんなこと…(以下略)…(2)
珍しくも(?)、朝早くから警視庁の机に座ってため息の僕。
はあ、なんでてるみちゃんのことが頭から離れないんだろう。
なぜあのとき「好きだ!大好きだー」って言えなかったんだろう?
いったいどうしたんだ、僕。
そうだ。
かすみさんになら、ちゃんと言えるんだろうか?
試してみよう。
「かすみさーん。君こそ大西洋の真ん中でたった一人はぐれたけなげなミジンコで、この銀河系のかなたに輝く一等星シリウス。そして広い宇宙をさまよい続けるペルセウス流星群だ!」
「……」
微妙な顔のかすみさん。
違った、違った。
やっぱりこれはいまいち伝わらない告白(?)なんだな。
本物はもっとシンプルに。
真剣な顔でまっすぐに瞳を見つめて。
「かすみさん。好きだ!大好きだー!」
「え?そんな…」
かすみさんが顔を赤くして、挙動不審になっているぞ。
なんだ、ちゃんと言えるじゃないか。もうちょっと練習、練習。
「ようやく分かったよ。僕は君に会うためだけに、生きていたんだ。これまでの不幸も全部、君に会える幸せのための前フリだったんだね。ほら、人の幸せの量はみんな変わらないって言うじゃないか」
「そんなことを言われても…」
かすみさん、うれしそう。
顔を真っ赤にしてかわいいな。
よし、もう一声。
「僕の人生は君がそばにいたほうが絶対に楽しい。君のためなら、僕はどんな努力でもできる。だから、ずっとそばにいてくれませんか」
「キャー!」
かすみさんがはうれしそうに飛び上がって、それからどこかへ走っていってしまったぞ。
おや、得意の女子ネットワークが作動中。
時々「プロポーズ」とか「婚約」とか物騒な言葉が聞こえてくるような気がするけど気のせいだよね。
はあ。どうして昨日てるみちゃんには言えなかったんだろう?
「おかしいなあ。かすみさんにはちゃんと言えるんだけれどな。どうして…?」
「はあ(怒)?」
僕のつぶやきに過激に反応したのは、もちろんかすみさん。
そこには明らかにさっきとは違う意味で顔を真っ赤にしたかすみさんが立っていた。
おさえきれない殺気あふれる表情。
同じ人間がこれほど正反対の表情って出来るんだね。
猫をかぶっていたかすみさんが、鬼に変身してるぞ。どっちが本物なんだろう?
「かすみさんにはちゃんと言えるってなによ?」
そんなに恐い顔をして詰め寄らないで!
ああっ!首を絞めるのはやめて。
それ死んじゃうから。
「待って!待って!ちゃんと正直に話すから。ゲホッ!」
ようやく僕の首から手を離すかすみさん。
「怒らないから、ちゃんと全部話しなさい!」
いやだー!これ、どうやっても怒られるやつじゃん。
ほら、引きつった笑顔を見せながら、目はこれっぽっちも笑ってないぞ。
絶体絶命!
文字通り命まで絶たれたりしないよね。
「あのね、かすみさん。湖に鉄の斧を落としてしまった、お茶目で正直な少年のお話を知っているかな?」
「なーに?湖に鉄の斧を落としてしまった少年は、金の斧、銀の斧、鉄の斧と3つの斧で念入りに首を切り取られて惨殺されましたってやつだっけ?で、かすみさんにはちゃんと言えるっていうのは、どういう意味かな?」
いやすぎるー。
最初から殺すこと前提になっているし!
人間1回殺したら、もう2度と生き返らないんだよ。
逃げ道はすべてふさがれた。
追い詰められたネズミは猫を噛むって言うけど、すでに鬼に変身しちゃってるしなあ。
終わった。
仕方ない。覚悟を決めよう。
「これは悲劇の恋の物語なんだよ。昔々、ロミオこと僕と、ジュリエットことてるみちゃんという2人が運命の出会いを果たしました。でも、家柄の違いとか社会情勢、周りの嫉妬など、どうしようもない運命のせいで2人は結ばれることなく離れ離れに。ところが昨日、僕とてるみちゃんが運命の再開を果たしたんだよ。ね、2人の恋、誰だって応援したくなるでしょ?」
あれ?かすみさんが何の表情も持たない顔のまま、遠い目をしているぞ。恐い!
「それで昨日の別れ際、てるみちゃんから告白されたんだ。僕も『好きだ!大好きだー!』って言おうとしたのに、なぜだか胸がいっぱいになって言えなかったんだよ。どうして?いつもならスラスラと出てくるはずの告白がぜんぜん出来なくて。それでかすみさんになら言えるのかなってちょっと試してみたんだ。うん、かすみさんにはちゃんと言えたね。やっぱり僕はかすみさんのことも大好きなんだね。えへっ!」
僕に出来る精一杯の笑顔。
これで許してくれるよね。
あれ?
どこに行くの?かすみさん。
かすみさんは熱湯いっぱいのきゅうすと、警棒、雑巾を持って戻ってきた。
どうやら「嫌い→死ね」って思考回路が働いたとき、人は同じ行動を起こすらしい。
かすみさんは、まずきゅうすの熱湯を僕の頭からザーッ!
「アチッ!あついっ!」
飛び上がってうずくまった僕。
そのまま警棒を振り上げて、渾身の一撃を頭に振り下ろすかすみさん。
「イタイ!やめて!頭はやめて!ただでさえ、係長にボコボコにされてすでにたんこぶいっぱいなの。これ以上ボコボコにされたら、マンガみたいにたんこぶの上にたんこぶができちゃう」
虐殺が虐殺を呼ぶ悲劇の朝。
歴史は繰り返すってこういうことだね。
「こんなの、おかしい。悲劇の恋はみんなに大人気。ロミオとジュリエットは誰だって応援したくなるはずなのに」
「ロミオとジュリエットは最後に二人とも死んじゃうから、みんなに大人気なのよ。そういえば、ロミオって最後、短剣で刺されて死んだのだっけ?それとも毒薬を飲んで死んだのだったかな?どっちだろう?」
ちょっと、かすみさん。
どうして手に短剣と毒を持っているのかな?
しゃれにならないから、それ。
やめて!助けてー!
僕は命からがら逃げ出した。
一時撤退。とりあえず部屋の隅、机の下に隠れて避難、避難。
ん?「如月紫音に身も心ももてあそばれて、ポイ捨てされた」とか言いふらす声が聞こえるぞ。
やめて!あー、そんな情報、得意の女子ネットワークにまで流さないで。
朝から2度も物理的に抹殺されたのに、さらに社会的にまで僕を抹殺にかからないで。
こうして九時のチャイムが鳴る前に僕のヒットポイントは限りなく0になっていた。精神的にも肉体的にも。
……
教訓:「早起きは三文の得」とか言うのは、まったくのでたらめです。慣れない早起きは致命傷になりかねないダメージすら受けます。
読んでいただいてありがとうございます。
すこしでもいいなと思っていただけましたら、ブックマーク、高評価などしていただけますと、作者が喜びます。




