第2話 エリート刑事、如月紫音。警視庁捜査一課の中心で愛を叫ぶ(2)
再び静けさの戻ったフロア。
捜査2係からも、何人かの人がペアになって現場へと向かっていく。
僕の机は残念ながら、鬼の係長のすぐ目の前。
一応「係長代理」、階級にして警部補の僕は、係で2番目にえらいことになっている。
まあ、いわゆる日本独特の「キャリア制度」のおかげ。
国家公務員上級、警察庁採用の僕は、はじめからそれなりのポジションにて、捜査を指揮する…ということになっている。
誰だ?キャリア制度の弊害とか言ったのは。
キャリアはえらいんだい!
「係長代理、どうぞ」
吸い込まれるような笑顔とともに、お茶を運んでくれたのは高橋かすみさん。
まさしく彼女こそどんな断崖絶壁より不毛なこのフロアに咲く、一輪の殊勝でけなげなカスミソウ。
いや、まわりをまぶしいくらいに明るく照らすヒマワリ。
紅一点、誰もが見上げるバラの花。
うーん、なんだかけなげ感がなくなってしまったけど、彼女こそ愛想よくみんなの心を癒してくれる、このフロアのアイドル的存在だ。
傷ついた今の僕の心を癒してくれるのにぴったりの存在だね。
「かすみさーん!かすみさんだけだよ、僕の心を分かってくれるのは」
照れたような微笑を返してくれるかすみさん。
天使だ!
この殺伐とした世界に天使が舞い降りた。
「好き!大好き!さあ、一緒にあの大人のお城で本当の愛を確かめよう!」
あれ?
渾身の僕の愛の告白にも、かすみさんは渋い表情のまま。
照れているのかな?
「あのー。その言葉、昨日交通課の斉藤さんにもおっしゃっていたそうで…」
「ああ、あれは社交辞令。ほんのご挨拶だよ。だって僕の瞳にはかすみさんしか映らないんだから」
僕はかすみさんの瞳をじっと見つめて涼しい顔で返す。
真剣な顔で誠意を表すところがポイントだね。
「その『僕の瞳には○○さんしか映らない』というのも、生活安全課で七海さんに披露したところですよね」
きいい!
これだから情報化と女子ネットワークの発達した社会は嫌いだ!
かすみさんには是非とも発達した文明に踊らされない無色透明な存在でいてほしいのに…。
仕方ない!最後の手段!
僕はメガネをはずして、かすみさんの視線をまっすぐ受け止める。
「何を言っているんだ、かすみさん。君はこのフロアに咲く僕だけのけなげなカスミソウ!いや、まわりをまぶしいくらいに照らすヒマワリで、真っ赤なバラだ。僕が見ているのは君だけだよ。ほら、その証拠に僕がもう十回以上も告白したのは君だけだよ」
かすみさんの表情が和らぐ。
僕の誠意がようやく通じたらしい。
「そりゃあ、私とは毎日顔を合わせるけど、斉藤さんや七海さんとはめったに会わないですものね。それにカスミソウとヒマワリとバラってキャラクターぜんぜん違わないですか?」
まだ何か言っているようだけど、ここは反応しないのが一番。
人間、自分に都合のいいことだけ聞いて、都合の悪いことはスルーするのが精神衛生上一番いいんだよ。
「スルー力」って言葉を作り出した人偉い。
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