第18話 僕だけの女神、みつけた!運命の赤い糸を上手に手繰り寄せる方法(4)
てるみちゃんとの楽しい事情聴取の時間はあっという間に過ぎた。
すでに2時間以上たっているのに、体感ほんの3分ほど。
なぜだ?
係長と一緒だったあの時間は永遠よりも長かったのに、この違いはなんだ?
そうだ、この場に係長を連れてくれば、てるみちゃんとの楽しい時間を永遠にすごせるじゃないかと、本気で考えてしまった。
もちろん、この場が一瞬にして地獄に早変わりするだけだから、意味ないよね。
「あれ?もうこんな時間だ。もう帰らないと、終電なくなっちゃうなあ」
てるみちゃんが意味ありげにこちらをチラッと見る。
ん?なにか重要なフラグがたっているのか?
僕の頭の中の天使と悪魔が答えを探して激しくバトルをはじめたぞ。
天使:もちろんここは紳士に振舞って、礼儀正しく彼女を送り出す場面だよね。ありがとう、今日は楽しかったよって笑顔で手を振る一択。
悪魔:今こそチャーンス!赤ずきんちゃんは、ホントは送りオオカミさんを待ってるんだよ!終電さえ過ぎればあとは行くところはひとつ!
天使:いやいや、これまでそれでどれだけの失敗をしたの?学習機能ってやつはないんですか?
悪魔:今回だけは別なんだ!ほら、彼女のあの潤んだ瞳を見よ!ここは終電逃して送りオオカミ、ガオー!パターンと、もっと飲ませて意識を断ってからおいしくいただきまーす!パターンの二択しかありえない!
(選択肢)
①ありがとう!今日は楽しかったよ。終電に間に合うように出ようか?
②君があんまりきれいだから、今日は帰したくないな。もうちょっと飲もうか。
③今日はとことん付き合ってもらうよ。(彼女のグラスにワインをトク…トク…)
うーん?正解はどれだ?
いや、②?③?
どっちだ?送りオオカミになってガオー!は男の夢だよね。
でも酔いつぶれた彼女をお姫様抱っこでベッドへ運んでいただきまーす!も捨てがたい。
ああ、どちらがいいんだ?
さあ、言うぞ!②だ!いや③だ!
そうだ、男はみんなオオカミだ!
「てるみちゃん…」
彼女があまりにも透き通った瞳で僕を見ていた。
そんな目で僕を見ないで。
やましいことなんてこれっぽっちも考えていないからね。
そう、本能なんだ!
人間の本能だからね。
やましい気持ちなんて全然なくても、人は本能で行動してしまうんだよね。そうそう…。
ああ、そんなキラキラした瞳はやめて。
僕がまるで穢れてしまったみたいじゃないか。
そうだ、社会が悪いんだ。
僕をこんなに穢れた大人にしてしまった社会が悪いんだ。
だから僕はちっとも悪くない!
よし、言うぞ!②だ、いや③だ!
男はみんなオオカミだ!僕もオオカミになるぞー!
……。
てるみちゃんはまだ無邪気な瞳で僕の目を見ていた。
その瞳はあまりにキラキラしていて、僕の心と言葉の邪魔をした。
「ありがとう!今日は楽しかったよ。終電に間に合うように出ようか?」
ああ、僕のチキン!
僕は野菜ばかりで育った草食系ニワトリだった!
だめだあ。
あんな瞳で見つめられたら、オオカミになんてなれないやい。
くぅ…。明日からステーキ食べて、立派な肉食オオカミになるぞ、ガオー!
僕の心の負けオオカミの遠吠えは、てるみちゃんの心までは届かなかった。
手に入れたもの。
それなりの金額の領収書。草食系チキンの称号。てるみちゃんの好感度と信頼。
負け惜しみじゃないやい!ガオー!
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