第17話 僕だけの女神、みつけた!運命の赤い糸を上手に手繰り寄せる方法(3)
ちょっとおしゃれなスペイン料理のお店。
ワインの飲めるお店。
カウンターに僕、となりにてるみちゃん。
安藤との話し合いの結果、今日はてるみちゃんを一日借り受けた。
これで世界の平和と僕たちの愛は守られたのだ(ついでに安藤も、警察権力の強制調査や税務調査から守られた)。
仕方ないよね。
これも殺人事件の捜査だからね。
証人に話を聞くのは捜査の基本だもんね。
「紫音は変わったね。あのころのおどおどした様子が全然なくなった。かっこよくなった」
「てるみちゃんこそ、なんて言うのか、華やかになった。きれいになった。ううん、ずっとかわいいけど」
「ありがとう。ねえ、教えて。自分ではあのころからずいぶん変わったって思っていたんだけど。どうして私だってわかったの?」
「それは分かるよ。はにかんだ笑顔。誰かが困っているときに声をかけずにいられない性格。『なにか私にできること、ありますか?』って。あの部室で何度も聞いた言葉。僕の目から見たてるみちゃんは変わってないよ」
「うれしい。そんなこと、覚えてくれていたんだ」
喜んでくれているようだ。
ポイントアップ!よし。
「それだけじゃないよ。身長155センチ。血液型O型。誕生日3月27日のおひつじ座。キャベツが好きなのにレタスは嫌い。人ごみが嫌い。ビールよりワイン派。アイスはジェラートよりもソフトクリーム派。てるみちゃんのことなら、どんな細かいことだって全部覚えてる」
あれ?
なんだか若干引かれている気がするぞ。
どれだけてるみちゃんを気にかけていたかを示したはずなのになぜ?
「でも、紫音、本当に刑事になったんだね。すごい。ねえ、どうして刑事になったの?」
だって、エリート刑事になったら人生モテモテでウハウハだって聞いたから。
素直に答えそうになって、すぐに思い直す僕。
だって、これを言ってしまったらマイナスポイントだよな。
ちがう!もっとかっこいい理由を探すんだ!
女の子が「素敵!」って思わず抱きついてキスしたくなるような理由を!
ウソでもいい。
ううん、むしろウソのほうがいい(ホントの理由なんて言えないからね)。
刑事を志したかっこいい理由、理由っと。
よし、これだ!
「人のために何かがしたかったんだ。やっぱり市民の、国民の安全を守るのは男の夢でロマンだからね」
まじめな顔で言い切ってから、ウイスキーをクイッ!
(理想)完璧!これでかっこよくきまったな。てるみちゃんの瞳もハートマークに!
(現実)ゲホッ!ゲホッ!誰だよ、かっこつけてこんなきついお酒を頼んだ奴は。あ、自分だ。なんでいつもどおりのうすいサワーにしなかったんだ!
「むせてるけど大丈夫?」
心配そうに、僕の瞳をのぞきこんでくるてるみちゃん。
「平気!平気!おかしいなあ。いつもはこんなもの、ビンのままラッパ飲みしてるはずなのになあ。体調悪いのかな?」
男って女の子の前ではムダにかっこつけたくなる生き物だよね。
「でも、本当に刑事になるなんてすごいな。尊敬しちゃう!」
あれ、気のせいかな?
てるみちゃんの僕を見る瞳がハートマークになってるような気がする…。
いや、ワナだ!
これは僕がなんども陥ったトラップだ!
このトラップの後には必ず地獄が待っているんだ。
恐いお兄さんにとり囲まれて一晩中尋問されたあんな日や渋谷の町を全裸で放り出されたこんな記憶を思い出すんだ(何があったらこんな悲惨な出来事が起こるのかは、皆さんのご想像にお任せします)。
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