第16話 僕だけの女神、みつけた!運命の赤い糸を上手に手繰り寄せる方法(2)
あまりにかわいい女の子に見とれて、固まってしまう僕。
ちょうど店内にて、困ったようにキョロキョロしていた一人のおじさんがいた。
彼女はとっておきの笑顔で近づいていって、おじさんを席へと案内していた。
ああ、いいなあ。
僕もあんなふうに彼女に案内してもらいたいぞ。
後ろでまとめた髪。
そのうなじのほくろまでもが素敵だ!
ん?
頭の中で、何かが引っかかるぞ…。
僕も店の入り口に行って、キョロキョロしてみた。
もちろん彼女に案内してもらうため。
困ったような顔をして、近づいてくる彼女。
「なにか私にお手伝いできること、ありますか?」
かわいらしいその声を聴いた瞬間、僕の頭でなにかがはじけた。
はにかんだ笑顔。
うなじのほくろ。
「なにか私に出来ること、ありますか?」という口ぐせ。
ああっ!この人は…。
「てるみちゃーん!てるみちゃんだ!」
ぱっと見はずいぶんと変わっていた。
大きく見える瞳、派手な髪型と全体の印象。
でも、困ったように微笑むこの姿は間違いない!
「てるみちゃーん!逢坂てるみちゃんだね!久しぶり!紫音だよ。如月紫音。大学のときにサークルで一緒だった」
そう。忘れるはずがない。
ずいぶんと彼女の雰囲気は変わっていたけれど。
まだ大学生だったころの記憶。
お世辞にもきれいとはいえないサークル用の部屋。その片隅。
いつもニコニコと人の話を聞いているてるみちゃんは、おとなしい地味な存在だった。
真っ黒な髪。
おとなしい色の服。
彼女は、部屋の片隅、やはり大人しくて目立たない僕の隣によく座っていた。
ぽつり、ぽつり。ぎこちない会話。
まとめた髪の裏側。うなじのほくろが印象的だった。
そして彼女は僕が落ち込んでいるとき、いち早くそれに気づいて声をかけてくれる人だった。
バイトをクビになったとき。単位を落としたとき。
「なにか私にできること、ありますか?」
その言葉だけで、僕はどれだけ救われたのだろう。
今、目の前の彼女は明らかに困ったような、なにかを考え込むような顔をしていた。
かわいい。あのころよりずっとかわいい。
いや、あのころからずっとかわいかった。
僕の心をえぐるような微笑。
僕の女神。
やがて彼女はなにかを決めたかのように笑った。
「紫音!紫音なのね。久しぶり!どうしていたの?」
やっぱりそうだった!
二人の再会!これは運命だ!
これを運命と呼ばずして、なにを運命と呼ぶのか?
ああ、僕たちはやっぱり赤い糸でつながっていたんだね。
「ああ、てるみちゃん。君は僕だけのけなげなカスミソウ!いや、まわりをまぶしいくらいに照らすヒマワリで、真っ赤なバラ…」
いや、違う!
これじゃあ、普通の女の子じゃないか。
てるみちゃんこそ、全宇宙で一番の最高の女の子。
こんな告白でてるみちゃんのすばらしさは伝わらないぞ。
最高にけなげで、最高に明るく輝いていて、最高にはなやか。
そんな女の子を表すスケールの大きな告白にしなきゃ。
よーく考えよう。
できた!これが正解だ!
「てるみちゃん。君は大西洋の真ん中でたった一人はぐれたけなげなミジンコで、この銀河系のかなたに輝く一等星シリウス。そして広い宇宙をさまよい続けるペルセウス流星群だ!」
ふっ、完璧。
あれ?てるみちゃんが微妙な顔をして首をかしげているぞ。
おかしいな。
困った表情のてるみちゃん。
しばらくして、いたずらっぽく笑ったてるみちゃん。
瞳をうるませているてるみちゃん。
「紫音。会いたかった。ずっと会いたかったよ。大好き!」
キャアアアアア!
直球。弾丸、いやレールガンすらはるかおよばない速度で、言葉が僕の胸を貫いた。
妄想じゃないからね。
夢でもないぞ。
ホント?これ、現実だよね。
確かに現実の世界で、彼女が目の前にいた。
幸せだ!神様ありがとう!
そういえば、人生の幸せと不幸は最終的にはちょうどバランスが取れるというよね。
だから僕は最近係長にいじめられてばっかりで不幸だったのか。
全部布石だったんだ。
すべて、てるみちゃんに会うためだったんだね。
係長、ありがとう。僕も…。僕も…。
「そろそろお店込んできたから、仕事してくれないかな」
僕たちの運命の恋を、安藤の声が切り裂いた。
許せない!
僕たち二人を引き裂くものは、何者であっても許せない。
「犯人候補君!ちょっと話があるんだけど…」
僕は見えないところに安藤を連れ込んだ。
え?脅したりしないよ。
ちょっと友好的な話し合いをするだけだってば。
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