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第14話 犯人、だ・れ・に・し・よ・う・か・な…(3)

 それでは次の容疑者の方どうぞ!

 ということで、二番目にやってきた容疑者は、目つきの悪い小太りな中年。

 すばらしい、これぞ「ザ・殺人犯」という感じだ。

 これなら、犯人に仕立て上げるイメージトレーニングもバッチリだね!


「はい、この表を埋めてくださいね。あ、どう見ても、もうあなたが犯人に決まってますから、悪あがきしても無駄ですよ」

「なんの話だ。俺は何もしていないぞ」


 ふてぶてしく答えた彼の名は矢崎龍二。

 すばらしい。

 悪人らしいふてくされた態度。

 犯人確定!


 でも、彼も尋問表の最後の質問はやっぱりすべて(いいえ)だった。

 おかしいな。

 できるだけ自白しやすいように丁寧に誘導しているつもりなんだけれどなあ。


 まあ、書いてくれた尋問表は突っ込みどころ満載だからよしとするか。


「で、矢崎さん。犯人はあなたで決定だとして、動機は?」

「犯人?何を?俺は何も知らないし、何もしていないぞ」


 はいはい。真犯人はみんなそう言うんだよ。


 先ほどの安藤には、自白を誘導(強制?そんなことないやい。あくまであれは安藤が自分で自白したんだからね)する方向で進めたけれども、この矢崎には論理的に追い詰めて、自白してもらう方向に持っていくぞ。


 矢崎の尋問表にはつっこみどころがたくさんあるからね。


「だったら、被害者の瀬戸みさきとの関係が空白になっているのはなぜですか?」


 まずは気になる被害者、みさきとの関係から。


「それは…。説明がしにくかったからだ」

「何が説明しにくいんですか?言っておきますが、あなたはみさきを殺した容疑者です。いえ、あなたこそみさきを殺した犯人です。素直に自白したほうがあなたのためですよ」

「違う!違うんだ!彼女はただ俺につきまとっているストーカーだったんだ。それだけの関係なんだ」


 プッー、クスクス!

 笑いをこらえきれない。

 いやいや、言い訳にしてももう少しまともなウソをつきましょうよ。


「まだ若くてきれいなみさきさんが、中年なあなたにストーカーしていたと。ええ、素敵な作り話ですね」


 あ、思わず本音が漏れてしまった。

 まあいいか。


「ちがうんだ!ウソじゃない。本当に彼女のほうから俺に付きまとっていたんだ」


 必死で訴える矢崎。

 ちがう。

 僕のほしい供述はこんなのじゃない。


 うーん、なかなかうまく自白へと進めてくれないなあ。

 仕方ない。視点を変えてみよう。


「では、恒例の殺害方法クイズ!ズバリみさきさんが殺された方法は①鉄アレイで撲殺②ロープで扼殺③ナイフで刺殺。どれでしょう?」

「知るかよ。俺は殺してない」

「まあまあ。こういうのは勢いで答えることが大事ですよ。さあ、どれだ?」

「殺してないんだから、知るかよ」


 往生際が悪いなあ。

 彼が犯人に違いないのに、ちっとも自白しない。


 仕方がない。ここは改心して、自分が犯人だと認めたくなるよう僕が説得してあげなきゃね。


「こんなお話を知っていますか。昔々、少年が湖のほとりで一人、鉄の斧で遊んでいました」


「急に何の話だよ?」


「まあまあ。最後まで聞いてくださいね。少年はうっかり湖に斧を落としてしまいました。すると湖からなんと妖精さんが現れたのです。妖精さんの頭には落とした鉄の斧がざっくり刺さって、妖精さんは血まみれでした」


「どんなホラーだよ」


「まあまあ。そこで現れた妖精さんは少年に向かって言いました。『あなたが落としたのは今私の頭に刺さっている鉄の斧ですか?それとも銀の斧ですか?金の斧ですか?』。少年は正直に答えました。『僕が落としたのは鉄の斧です』。その結果、妖精さんは少年の正直さに感激してすべてを許してくれたのです。それだけでなく、妖精さんは持っていた金の斧と銀の斧もすべて少年にくれたのでした。こうして少年は幸せに暮らしましたとさ」


「……。どんな話だよ?」


「ということで、もう一度聞きます。あなたが殺しに使ったのは①鉄アレイ②ロープ③ナイフのどれですか?あ、答えはひとつとは限りませんからね。ちょっとでも心当たりがあるものはすべて答えてくださいね」


「意味が分からない!」


「はいはい。三択の問題ですから、必ず番号で答えてくださいね。さあ、どれにします?」


「だから俺は何もやってないって言っているだろう!」


 おかしい。

 せっかく正直が一番だよってお話をしてあげたのに、いっこうに素直に自白する気配がない。


「さあ、早く答えてください。答えないと犯人確定。あることないこと証拠にして、裁判所に送り込みますよ」


「ないことを証拠にしたら、ダメだろ!」


 せっかく自然な流れで、気持ちよく(?)自白できるように僕が誘導しているのに、矢崎は反発するばかり。


「大丈夫。裁判というのは一度決まってしまえば判決は覆らないのです。一事不審理って言うんですよね。でっちあげだと騒ごうにも、あなたはそのころ塀の中」


「いやだー!」


「いやですよね。だったらあなたも今のうちに正直にすべてを打ち明けましょう。さあ、正直な少年がどうなったか思い出しましょうね」


「違う!無実だ!冤罪だ!俺は殺していない」


 残念ながら、彼も最後まで自白しなかった。


 まあいいや、こうなったら意地でも証拠を創り上げて(漢字が「創造」の「創」になっていることに特に深い意味はないよ。ないってば)、めでたく彼を犯人にしてみせるぞ。


 あることないこと証拠にして、彼を裁判所まで僕が責任を持って送り込んであげるからね。

 よしよし、これで一件落着。

 日本の治安はまたひとつ守られるのだ(?)。


 とりあえずいったん彼は釈放して、帰ってもらうしかないか。

 拘留するとなると手続きも面倒だしね。


「あ、矢崎さんが助かる方法がたった一つ。それは今から大急ぎで荷物をまとめて、海外に高飛びすることだと思うな。なるべく怪しげに行動するのがコツですからね」


 最後に僕は彼にとって起きのアドバイスを送ってあげた。

 逃亡しようとしたという事実があれば、それだけで動かぬ犯人の証拠になるからね。


 猫に追い詰められたねずみのように、やはり大急ぎで逃げていく矢崎。

 さて、これからちょっと忙しくなるぞ。

 ……



 教訓:取調べでのポイントは相手を犯人だと決めてかかって尋問すること。脅迫、恐喝、詐欺などあらゆる手を使って自白を勝ち取りましょう。



読んでいただいてありがとうございます。


すこしでもいいなと思っていただけましたら、ブックマーク、高評価などしていただけますと、作者が喜びます。

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