初恋と誕生日
いよいよ5歳洗礼式まできました。
ライオネルが錬金術で作ったペンダントを首に掛け顔を赤らめて触れる2人の女の子。
私兵に連れられて父の元へ向かっていた。
「美しくもありとてもかっこよかったですね」
「ええ、中庭で本当に綺麗な華を見れて良かったわ」
「魔法を使っている彼凄くかっこよかったなぁ。あんな火柱見たことないよ」
「私は剣術をしている時の彼の方が素敵だと思いましたわ。」
実はこの2人、中庭での自由時間に隣の部屋から聞こえる音に気がつき訓練中のライオネルを見ていた為、父から逸れてしまったのだ。
「その後、お話も出来てプレゼントまで貰ってしまいました。夢見心ですわ」
「本当ね。でも、名前を聞くのを忘れていました」
2人の一目惚れ、初恋である。
私兵に連れられた2人は城内の司令室へ。
「お嬢様方を連れて参りました」
「おお、ありがとう。ご苦労様。」
「ありがとうございます」
「それでこの子達をどこで見つけた?」
「はい。中庭で男の子と談笑していました」
「なに?男だと・・・それは誰だ?」
「いえ誰かまではわかりませんでした」
「すまない兵士よ。その子はお嬢様方と変わらない年頃で防具を身に着けていたかね?」
カールが尋ねる。
実はネイラ、カールはお嬢様捜索の為駆り出されたのだ。
「はい。その通りです」
「そうか。ありがとう」
すると大男が
「娘を誑かす男を知っているのか?」
「誑かすとは・・・いくら閣下であろうとも首が飛びますよ」
「どう言うことだ?」
「その男の子はライオネル殿下だと思われます。先程までの時間、私とネイラは殿下の家庭教師を中庭隣の訓練施設で行っておりました」
「そうかライオネル殿下であったか」
ライオネル殿下・・・
あの人は王子だったのですね。
次は5歳の洗礼式後のパーティーでお会い出来る。
2人がそんな事を考えていると、宰相の目に首からキラキラと光る物が目に止まる。
「ベティー、その首から下げているのはネックレスか?そんな物どこで?」
「あっマリアもぶら下げてるじゃないか?」
父達の数時間にも及ぶ追及に観念した2人は洗いざらい答えてしまったのだ。
「あれは・・・錬金術と呼ばれるスキルよ。殿下が大地に手を当て直ぐに2つのお揃いのペンダントが出来上がったわ。土から鉄や金が液体となって形付くのもみたわ」
あぁ約束破ってしまったわ
もう合わす顔がない・・・。
するとネイラ、カールも口にする。
「私は魔法強化系のスキルを持っていると確信していました。でないと初めての魔法であそこまでの威力にはなりません」
「威力と言うと」
「ライオネル殿下の魔法強化スキルレベルは高位です。もしかするとそれ以上かもしれません。私だってあんな巨大で高火力な火柱・・・。」
「私もスキルについてですが、剣術強化系スキルだと思いました。私が受けて辛く感じる程の剣を・・・。剣を握ることが初めてと言っていたのでレベルの高いスキルだと感じました」
「これはライオネル殿下を調べてみましょうか?それに陛下の耳にも入れないといけません。ライオネル殿下のスキルに心を痛め続けていますからね」
こうしてライオネルの秘密が明らかになってしまった。
その後、国王も話を聞いて鑑定が間違ったのかもしれないと安堵した。
錬金術に関して言えばライオネルの名前を頂いた3代国王が唯一のスキル保持者だった。
「ライオネルと名付けて間違いではなかったな」
それからライオネルは今までのスキル1つ王子を返上し貴族や兵士から声を掛けられるようになった。
訓練も兵士達が気軽に相手をしてくれて、今まで以上に楽しい転生ライフを送っていた。
父達に錬金術を見せて純金インゴットをホイホイ出したら腰を抜かしてたな。
母や姉には貴金属を作らされたり、兄達には特製の剣を作らされた。
自分様に刀を作った。
錬金術は金属だけでなく木や布、火薬まで作れてしまう。
それを利用して日本刀を作ったり、構造が分からなかったので簡易火縄銃を作って皆んなを驚かせたりした。
そんな楽しい時間はあっという間に過ぎて、4歳最後の日になった。
「ライオネル殿下。ま、参りました」
「さて、これで20連勝。次はネイラ先生?」
「わかった。私が行きましょう」
「始め!」
「えっ・・・!?ま、参りました」
決着はあっという間だった。
兵士の始めの言葉に最初に動いた、それよりも前に動いていたのはネイラだった。
上位魔法の凪で魔法を隠蔽し土と水の合成魔法、植物操作。
エルフの得意な合成魔法、エルフの血が入っているネイラには簡単な魔法。
だが植物を操作するので魔力は感知されにくくそれに凪で隠蔽すると必ず決まる、まして不意打ち。
決定打だったのにライオネルは背後の攻撃を避けたのだ。
ライオネルも始まる前から準備万端やはり凪で隠蔽した虚空の中で火魔法上位炎と同系列最上位爆を合わせ爆炎を作り出してそこに大量の水魔法をかけたのだ。
あとは水蒸気爆発を起こした虚空をネイラの背後に設置する。
虚空の入口を開くと水蒸気はネイラの視界を奪い、刹那剣を彼女の首に触れさせた。
一瞬だった。
誰も理解出来ない程のことが起きたのだ。
「次は私だな」
カールは宣言して僕の前に立つ。
「は、始め!」
今度は両者魔法を使わず同時に間合いを詰めた。
剣と剣がぶつかる度、火花が舞い散る。
幾つかのぶつかり合いの後両者間合いを取った。
カールは堪らず火を剣に纏わせた。
それを確認するとライオネルは剣に炎を纏わせる。
「おいおい嘘だろ。基本だけじゃないのかよ。こりゃ勝てないな」
そう呟くと風魔法で間合いを詰めてライオネルを捕らえる。
ライオネルは冷静だった。
バックステップでカールの剣先を避け、その剣を追う様に自分の剣に風を纏わせ走らせた。
後ろから追ってくる剣に弾かれカールの剣は宙に舞う。
剣が地面に刺さる前にライオネルは剣をカールに突き立てた。
「参りました」
この日22戦22勝。
もう大将級でないとライオネルに勝てない。
中将級に勝ち続け明後日以降から大将級と試合をする事になったのだ。
「よし、今日はここまでにしよう。夜は1日早い誕生日会なのだ」
明日は洗礼式。
その後、今年5歳の子達が集まるパーティーだ。
家に戻り夕飯の時間まで時間があったので着替えて少し仮眠を取った。
明日は僕のスキルが分かる。
楽しみであるが、本当にスキル1つだったらと思うとなかなか緊張して仮眠どごろではない。
考えても答えは明日まで出ないのだ。
時間までまだ時間がるので風呂に入ろう。
風呂場の脱衣所で服を脱いで身体を流す。
風呂場のマナーは前世と同じだ。
王族だからと使用人に至れり尽くせりとはいかない。
この国の王族は基本的に自分のことは自分でやるスタンスなのだ。
入浴も1人だ。
可愛いメイドに身体を洗ってもらえるなんて・・・ちょっと憧れる。
ゆっくりと入浴を終えると夕食の時間になる。
誕生日の夕食は主役が最後に部屋に入る。
年に一度国王を部屋で待たせる特別な日である。
特に5歳7歳12歳16歳は特別である。
洗礼式、初等教育、高等教育、成人となる年だ。
初等教育はそれぞれ学業、魔法、剣術、スキルでクラス分けして勉強や訓練をする。
マスタング王国は初等教育に関しては義務教育であり王族、貴族以外無料である。
高等教育は王族、貴族は入学必須ある、高等教育を受けない者は貴族になれず成人すると貴族の籍を外れる。
成績評価なので落ちる者も多々いる。
その他、初等教育で優秀だった者が入学する。
こちらは低所得者のみ無料になる。
高等教育まで進んだ者は国の中枢を担う為の教育をされ優秀な者は成人してから爵位を与えられ貴族になる者さえいるのだ。
皆死に物狂いで勉強、魔法、剣術を頑張る。
これを取り入れてからマスタング王国は大陸の覇者になったと言われる。
一般国民に至るまで知識に力があるのだ。
こんな国は他には無い。
他の国が初めても効果が現れるのは随分先なのだ、まして帝国は民を蔑ろにする傾向があるので尚更ある。
成人は16歳。
これは少し早いとも思った。
結婚や飲酒も16歳解禁である。
トントン
「はい」
「皆様ご用意が出来ました」
「わかりました。行きます」
誕生日会が始まる。
ダイニングに入ると。
「ライオネルおめでとう」
家族からの祝福。
「ライオネル殿下、この度はおめでとうございます」
城、特に僕達家族に使える使用人、コック達からも祝福される。
「今日はありがとうございます。いよいよ洗礼式の歳になりました。ここまで病気もせず元気に過ごせたのは家族や使えてくれる皆のお陰です。これからもよろしくお願いします」
挨拶を終えると夕食の時間。
誕生日の僕から配膳されるのだ。
いつも最後の僕にとって一番は嬉しい。
「それでは頂こう」
父の合図により夕食が始まった。
いつもより少し豪華で僕の好物が盛り込まれている。
食事を楽しんだ後は母と義母作の誕生日ケーキの時間。
どうやらこのケーキ作りは母達が僕の1歳の誕生日から始めたのだ。
こういうのは王家の伝統になると面白いと父も絶賛である。
母達がケーキを運んでくるとプレゼントを貰える時間。
まずは父から順に
中身は明日の正装とサインをする為の王家の紋章入り高級万年筆だった。
母からは明日のパーティー用正装とアクセサリー。
義母からは正装用の靴
長男ルーカスから本
次男ランスロッドから剣や防具のメンテナンス用品
長女シルビアから綺麗な紅茶ポット、カップセット
「ありがとうございます。大切に使わさせて頂きます」
礼を言うと紅茶、ケーキが並ぶ。
「では頂こう」
父の合図で夕食後のティーパーティーが始まる。
「お母様に義母上。とても美味しいケーキありがとうございます」
礼を言う。
母達のケーキは絶品なのだ。
子供達の誕生日しか食べられない絶品ケーキを堪能する。
時間もあっという間に過ぎる。
「ライオネル。明日の洗礼式は帯剣するので忘れずにな。パーティーも会食までは帯剣すること」
「はい。わかりました」
「そう言えばあの刀とか言う剣を使うと決めたのか?」
「はい。決めました」
「わかった。では洗礼式の時、剣も洗礼してもらう様伝えておく。これから剣を変えるたび洗礼はする様に」
「わかりました」
「後はパーティーでは愛想よく挨拶をすること。ただし女の子には気をつけなさいね」
母から釘を刺された。
「余り他の貴族の子と接点がないとは思うが、気になる子はおらぬのか?洗礼式後から婚約する者が増える。ライオにも話がくるだろう。受ける受けないはお前に任せるが10歳までには1人でもいい婚約者を決めてくれ。」
父にそう言われた。
確かに王族や貴族は跡取りの為の必要なことと理解出来るが、こんな若さで婚約者と言われてもピンと来ない。
「わかりました」
そう答えるとふと2人の女の子を思い出した。
また会えるかな?
時間が経ち誕生日会はお開きとなった。
部屋に戻り明日の準備をする。
寝るまで時間があるので兄から貰った本を読む。
ライオネル国王の英雄譚だ。
とても面白い物語だ。
読み進めるも睡魔に襲われる。
栞を挟んで本を閉じた。
「さて寝るか」
ベッドに入るとすぐ夢の中に落ちた。
朝の光が眩しく目が覚めた。
目覚めは良好。
執事のベッテルを呼んで紅茶をシルビー姉様に貰ったポットに淹れてもらった。
カップに注ぐと朝食までの時間ゆっくり紅茶を楽しみながら本の続きを読んで過ごした。
朝食が済むと普段着から正装に着替える。
王家の紋章が入った正装に初めて袖を通す。
王家の紋章は装飾された王冠や剣、盾が書かれたエンブレムを左右からグリフォン、上からドラゴンが持つ。
国旗にも描かれる初代国王から代々使われている歴史のある紋章なのだ。
この紋章を見るとグリフォンやドラゴンに乗りたいと思うのだ。
この国にも山岳地帯に存在していると聞いた時には心が踊った。
だが強さの象徴だけあって眷属スキルレベル5でも眷属させられないと聞いた。
話がズレたが正装に着替え帯剣する。
日本刀は腰の左に帯執で固定。
普段は柄を右向きに後ろに帯執を一点で留めて三角になる様ぶら下げている。
左に固定すると子供の僕には抜けないのだ。
抜けるサイズだと大人相手には厳しいので後ろで腰から固定せずに一点留めだと紐が三角になるので水平は保て、抜刀際自由が効くのだ。
抜刀は逆手で行う、余裕があれば持ち変えるが不意打ちの防御が早いなどの利点もある。
門前で待つ豪華な紋章付き馬車。
これは行事等正式な場のみ使用する馬車だ。
僕は馬車の前で父と母を待つ。
すぐに父と母が門に着き馬車に乗り込む。
近くの教会ではなく王都から離れた王族専用の教会へ向かう。
数時間馬車に揺られると目的の教会が見えて来る。
とても大きく綺麗な教会だった。
歴代の国王、王妃が眠る場所でもある。
教会に入ると1人の神父が父に膝を付く。
父は顔を上げるよう伝えると神父は立ち上がり僕を見る。
「さてライオネル殿下。お初にお目にかかります。私はアンダルシア教国から参りました司祭マーク=ビギンズと申します。私が今日の洗礼式を執り行います。よろしくお願い申し上げます」
アンダルシア教国、七聖教の教皇が国を治める宗教国家である。
現在は大陸全土で崇拝されているが100年程前までは宗教戦争が頻発し信者同士の内紛まで起きていた。
マスタング王国と七聖教、アンダルシア教国は親密な関係であり、王子の洗礼式に司祭が来る。
この王族専用の教会もアンダルシア教国が建築し人員を送って守っている。
マスタング王国は七聖教の発祥とされ発祥の地聖地と宗教戦争で勝ち得た土地をマスタング王国を盾に独立した国家である。
その後、司祭から式中の所作を教授された。
先ずは受付に昨晩もらった万年筆でサインをする。
次に7柱の神像が並ぶ式場で片膝を付き祈る。
司祭が祈りの言葉を始めると僕を呼ぶ声が聞こえる。
・・・こ、これはテンプレ展開の神様がいるパターンか?
目を開けるとそこには
読んで頂きありがとうございました。
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