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百足
夜明けの境目を這う影
地を揺らすほどの静寂を背負い
ひとつの胴に連なった無数の意志が
石畳の罅へと吸い込まれてゆく
踏み潰されても終わらない
失われた肢が疼くたび
別の場所で新しい足が芽吹く
記憶すら再生する生き物
人はその形を忌み
その執念を恐れ
畏怖を祈りに変えた
だが 百足は笑っている
闇の奥で 数え切れぬ足をそろえ
音もなく あなたの夢の縁を渡っていく
今夜 あなたが寝返りを打つと
布団の中の温もりに 何かが混じる
背筋を這い上がる柔らかな節と節
息を飲む前に 足音は皮膚の下へ沈み
あなたの心臓の鼓動と同期して
永遠に続く行進が始まる




