永遠に続くお別れの唄
第12幕という名の最終幕が開かれた──
「あーあ、初めて想い人ができたと思ったのにな。振られちゃった……」
暗闇の中で彼女は叫ぶ。
もう、彼女は、私を求めることは、出来ない。
そう、それが人間。
時間に流され、空間と記憶の封は、二度と開かない……
神と人間では時の流れが違いすぎる。けれど、〈ある〉と〈ない〉とでは全く違う。確かに私には想い人がいた。
そこに時間は関係無い。
「私の本質って、実は魅力のないものなのかなぁ?」
そんな事はない。教えて欲しい事はいっぱいある。
「私なんて居なければよかったのかな?」
でも、私は今、おかげでこうして生きている。
たった一度切りの人生と言うが、そんなもの棒に振ってもかまうものか。けれどソレを投げ捨てるわけにはいかない。
振る事のできる棒。その棒を振り終える事が自分の答えだった。
だから、今の私の答えは棒を振り続ける事。
棒をオールのように漕いで、漕いで、漕いで、漕いで、
呼び寄せるのではなく、今度は私が君を迎えに行く。
彼女はあの光り輝く世界に戻り、一人静かに詩を唄い始めた。
降ることのない世界に雨が降り注ぎ、彼女は傘をゆっくりと回しながら唄は続く。
3.14159265358979323846264338327950288419716939937510582097494459230781640……
永遠に続く一節のほんの少しの出来事だった。それはあまりにも短く、儚い一瞬だった。
「けれどきっと、この長い長い詩がぐるりと一周回る時、私達も再び巡り会えるはずだから。そのときは、もっともっとたくさんおしゃべりできるはずだから……」
そしてこの短かな短かな短編小説の幕は降ろされた。
僕はこうしてこの世界に産まれた。
冷たい空気が雨上がりの湿気を消すように吹いていて、
電線の隙間から見える夕日はなんだか夜明けのようにも見えた。
そう、僕は、生まれる前の事も、死んだ後の事も知らない。
でもそれを忘れてはいない。
かといって生まれ変わりや死後の世界なんてあるわけがない。
僕が見たものは、ほんの白昼夢にしか過ぎないのだから──