魔法使いの弟子だけど師匠のせいで修行が進まない件
初めての投稿です。箸休めくらいにお読みください。
あたしの名前はレニス。一人前の魔法使いを目指す平凡な女の子です。本当に!平凡なんです!顔はとりたてるような容姿でなく、頭の出来も可もなく不可もなくと先生に告げられ。身長も平均的、発育も目立つところはない。それなのに!
「レニス。 俺のレニス。 今日も俺を惑わすような美しさだな。 蝋のような肌、血色の良い唇を見るたびに俺はお前に触れられずにはいられない」
この物好きなレクス師匠はあたしを毎日口説いてくる。とりあえず触られたくないので距離をとる。
そんな愛の告白よりも魔法のことを教えてほしい、と訴えるも
「そうか。 しかし、魔法の使い方等よりも俺の想いにまず耳を傾けるべきだ。 そうすればお前のためになる」
意味わからないことを言い出す。
ちなみにどこでどう使うか少し気になる。
「これから先、他者になにを言われようと、どんなことをされようと、どんな場所にいようと、脳裏に俺が焼きつくようにすることで、お前が俺を忘れない。 それがお前を助けるだろう」
どこがためになるのかちっとも理解できないから!むしろレクス師匠を場面問わず四六時中想い続けるとか利益がない!こんな師匠だと知ってたら来なかった!紹介してくれた故郷の先生を恨みます!
「まあいい。 時間をかけて理解させてやろう。 あと当面は一人での外出は禁じる。 物騒な事件が続いているからな」
……それはもしや、ミイラのような遺体が発見されている件だろうか? 魔法使いの仕業でないかと噂されていて、街の人の目が厳しい。 それとも狙われるかもと考えているのだろうか。 この師匠は、心配してくれているのだろうか?
「事件がずっと続けばお前を外に出さずに済むんだが……」
あ、違う。この人、事件にかこつけて自分の欲望叶えたいだけだ!少しは思いやる気持ちあると淡い期待するんじゃなかった!
そもそもずっとは無理だ。自給自足できているわけではないから買い出しは必要だ。
「ああ、だから俺とならば許可しよう。 愛弟子の一人守る力はあるからな」
なら安心だ。こんな身勝手な人ではあるが魔法の腕は確かなのだ。 そうそう何も起きないだろうな。
「お前達がミイラ事件の犯人なんじゃねぇのか?!」
1時間前の自分を殴りたい!町に着くなりミイラの遺体がまた発見され、たまたま通りかかったら犯人扱いとか有り得ない!
なんて考える内に野次馬も集まってきて注目の的になってる!どうしてくれるこのハゲ男!
「落ち着けレニス。 あまり興奮しては体に毒だ」
さすが師匠、こんな時でも冷静!
レクス師匠はあたしを庇うように前に出た。
「どんな根拠があって私達が犯人と断定したのか、お伺いしても?」
丁寧な言葉遣いと人畜無害そうな綺麗な顔に周りの女性達が色めき立つ。己の容姿を活用し、柔らかな物腰と言葉を最大限に使ったレクス師匠の外面に、男はたじろぎながらも答えた。
「お前達は最近きたばかりのよそ者、しかもアンタは闇魔法ができんだろ?」
「そうですが、それだけで犯人だと決めつけるのですか?」
「ああ。闇魔法なんていうくらいだからこんな恐ろしいことができるんだろ?」
この人、属性魔法の特性を知らないから決めつけてるんだ。
師匠はそっと溜息を吐いてから魔法使いの常識を説明しだした。
「違います。闇魔法は主に影を操ったり、とある手段を用いて過去と未来を占う魔法です。ミイラにするならば他に適した属性魔法がありますよ」
その通りだ。ミイラにするということは体中の水分と体液を奪えばいい。そしてそれを可能にするのは――
。
「――そちらにいる貴方のような水魔法を扱える方とか」
レクス師匠が指さした先は、野次馬の人垣。ひょろ長い男がそこにいた。
「貴方でしょう?関係のない人々から血液を抜き去った犯人は」
「なっ!いきなり失礼だろ!人を犯人扱いしやがって!」
「いえいえ、犯人扱いではありません。犯人は貴方です」
うっすら微笑む師匠だがその目は冷ややかだ。対称に犯人の男は顔を真っ赤にしている。
「どこに証拠がある?!まさか水魔法使えるだけで疑ってんのか!?」
「そうですね……証拠はありませんが証言なら聞かせられますよ」
「は?」
「今までの犠牲者からですよ」
パチン、と師匠が指をならすと僅かに空気が震えた。
「な、何を言って――ひッ!!!」
『ヨクも……』
ざっ、ざっ、ざっ
人垣を割ってそれは犯人に近寄ってくる。周りの野次馬はパニックに陥っていたが、師匠は平然どころか愉しそうに眺めている。
「きゃああああ!!」
「なんだ一体!」
「なんで死体が動いてんだよ!」
先程まで横たわっていた遺体は師匠の魔法によって仮初めの命を注がれた。
過去と未来を知る手段に用いられる闇魔法、即ち死者との交信。故人の肉体に死者の霊を降ろし、過去を知ることやその肉体を操ることができる。闇魔法でも難しく忌避される魔法こそレクス師匠の得意魔法だ。
『ヨクも、ヨクモぉ、殺シてクレタ、なぁ……!』
「やめろ! くるな!」
男は近寄るミイラに向かって水の魔法を放つ。水の玉はミイラの体を貫通し穴をいくつも作る。しかしミイラの歩みは止まらず男と距離を詰める。
「仕方なかったんだ! 俺のせいじゃない! なぁ、アンタ! 助けてくれ!」
「そうですねぇ……。貴方が警備隊に投降し、包み隠さず真実を告げれば襲うことはやめてくれると思いますよ。もっとも、恨みはその限りではありません」
――冗談じゃない!殺しても死なないような奴らに恨まれ続けるなんて有り得ないあり得ないありえないありえてたまるものか!人質とってこの場から逃げてあの大金で国外に行けばどうにかなる!
男の思考が理解できたと同時に私と目が合った。どうやら人質にするのはあたしのようだ。
男が走って来る。大丈夫、相手がどんな手を使ってくるかはわかっている。対処するために魔法を放つ準備をした。が、
「――俺のモノに触れるな」
地を這うような声とともに無数の影が男を縛り地面に縫い付ける。あたしの魔法よりもレクス師匠の方が早かった。
「自分の過ちで他人に、しかも俺のモノまだ巻き込まないでもらおう。精々、牢の中で亡霊と共に静かに過ごせ」
さて、あの後騒ぎを聞きつけた警備隊によって男は捕まった。あたし達も騒ぎを大きくしたとして事情聴取された。細かく、嫌味混じり、長く!解放された頃には夜遅くで、心身共に疲れていた。
そもそもここまで長引くなら少しくらい事の顛末を知りたかったものだ。
「だが、読み取れたのだろう?」
師匠の問いに頷く。
あたしの魔法は無属性。思考を読み取り、伝える魔法を常に使っている。声が出ないあたしにとって、意思疎通の手段は魔法。この魔法で犯人もわかったし、師匠に伝えたのもあたしだ。まさかあんな人がたくさんいるところで犯人を明かしたのには驚いたけど、そのおかげで犯人の動機がわかった。
全容はこうだ。
男のテーブルにいきなり手紙と小包が現れた。その手紙には人の血を集めてほしい、と書かれていた。小包には大金があり、前金だと書かれていた。受け取るつもりはなかったのだが、毎日のように催促の手紙が置かれ、ついにはやらなければ殺すと脅迫文に変わっていった。折れた男はとうとう犯行に及んだ。
「その血の受け取り方法も魔法か?」
レクス師匠は頭の回転が早い。
皮袋に入れた血はいつの間にか消えていた。確実に魔法だろうけど、そんな魔法聞いたこともない。
「魔法協会に登録されていない野良魔法使いか、もしくは他国の魔法使いか。 そのあたりは警備隊に所属する魔法使いが調べるだろう」
それもそうだ。あたし達が知ったところでこれ以上何か出来ることはない。自衛しておくくらいだ。
ただ、おきた顛末を知りたくなる性分なのだ。一番の野次馬は自分だと自負できる。
「お前の気が済んだならば、あんな真似をして正解だな」
そう言ってあたしの髪を撫でる手つきがいやらしく、思わず手を叩いて距離を取る。
短い間であたしのことを把握しているならば、あたしの気持ちを察してほしい。そう伝えると師匠はキョトンとした後に首を傾げた。
「? こうして察しているが?」
察してるというよりもあたしが晒してるんだけど?!真意を汲み取ってくれる?!
「そもそも人にやめろと言われても、好意が消えることはない。お前の美しさがなくなるわけでない。拗れておかしな真似をされるよりはこのままの方がお前にとっては最善だろう?」
くっ、確かに!気待ちが募って変なこと暴走されたらあたしが被害にあうだけ!手詰まりだ!
忌々しい師匠を睨み付けると、クスリと蠱惑的に微笑まれた。
「そうだ、俺の言葉を甘受しろ。俺の思考も好きなだけ読み取るといい。お前に対して偽りなどないのだから」
だから余計にタチが悪い!心の底からあたしを愛していることがわかるから師匠の気持ちは読みたくない。そもそもあたしは師匠のこと好きかわからないし諦めてほしい。というかそもそも。
『いい加減、修行させてください!』
読んでくださりありがとうございました。




