蛙と夜
小さいな事が大きくみえる。
大きなことが小さくみえる。
ただゆっくりと、それはポツリと空から落ちるように、地面に浸る小さな水溜まりに浮かんだ。
***はその場に腰を下ろして手に握っていた棒でそれを突付いた。
軽く突付くと、それは踊るようにクルクル回り水面を移動した。
キャキャとその動きを楽しみながら、***は声をあげた。
***はそれを棒に突き刺して、空に高々と掲げて腕を振り回した。
ヒュンヒュンという風の切る音と共に***は駆け足で走り出した。
小さな曲がり角を曲がって大きな道路にでると、まばらにいる人を丁寧にさけながら***は疾走する。正面に見える赤いポストの目の前までくると、とんっと一つ飛んで、綺麗にグリコのポーズを決める。
そしてニへっと笑って、くるりと一回転をしてさらにポーズを決めた。
***を中心に雲が咲けるように広がり、見えない囲いをつくりだす。
風が踊り雲が流れ、やがてその囲いは形を失い、川の流れのように綺麗な直線を作り出した。
流れた雲の狭間から真っ赤な太陽が顔をだし、小さな瞳が微かに歪む。
しばらく太陽を眺めていた***はカラリ、と棒を手から離して上を向いたまま歩き出した。
ただひたすらに前を向いて、ただひたすらに無言で、ただひたすらに無表情で歩き出した。歩くテンポは始めこそ単調で定期的なリズムを奏でたが、次第にそれはリズムがズレはじめた。
カツコツカツコツ カッコツ カッコツ カッカツ コツカッ カコツ カッ
***の足が弾み、水溜りにとんっと足をついては、水が踊り跳ねた。
その様子が楽しいのか、***は嬉々として笑い声を上げて辺りの水溜りに足を踏み入れた。
足を踏み入れた一つの水溜りにいた蛙が、驚いたようにその場から飛び出した。
***はまた新しいおもちゃを見つけて、今度を蛙を追いかけまわすように走り始めた。
蛙はひたすらに逃げ、***ただ逃げる蛙を追いかけまわした。
太陽の色は黄色い光から赤いオレンジ色に光にかわり、冷たい風が吹き始めた。
それでも***ただひたすらに蛙を追いかけまわした。
そして――――。
周りを木々に囲まれた茂みの中で、蛙を見逃した。
ようやっと逃げ延びれた蛙は安堵の息を漏らし、 ***は見覚えのない景色に初めて恐怖した。
太陽は沈み、木々の葉で月の明かりは***の元まで届かない。
***はその場で小さくうずくまり、小さな啜り声を上げた。
そこに始めの笑顔はなく、歪に歪んだ顔にただ、目から零れた涙が顔をぬらした。
蛙は素知らぬ顔で鳴き。
***はただひたすらに嗚咽を漏らした。
おしまい。