8話 クールな彼女
パシィ!
「お、捕球上手だな」
カーン。
「お、ミートうまい」
ファーストへの難しいショートバウンドをあっさり捌き、打撃練習も適確にバットに当てる少女が友人の目についた。
「あの先輩でレギュラーの紹介は最後だね。田岡椿先輩だよ。クールでかっこいいんだ」
いわゆる見た目がボーイッシュな感じで、髪も肩まで届かない短めの茶髪である。
「とにかく淡々としてるけど、けっこう顔には出やすいよ」
コツン。
「ふっ」
ミートでセンター方向に3連発すると、口元を少し緩めてクールに笑う。
パシン。
難しいバウンドを取ると、クールに笑う。
フォアボール!
粘ってフォアボールを決めるとクールに笑う。
「というか全部ドヤ顔だ」
完全にどうだ! という顔で、微妙にクールとは異なる。
「あれは何だ? 鏡?」
今度は鏡に向かって何かチェックをしている。
「普段は杏先輩がシャドウピッチングとかに使うけど、決め顔の練習に椿先輩も使うんだって」
「完全にナルシストじゃないか」
「……ナルシストとは失礼だね……。表情やしぐさで余裕を見せつけ相手にプレッシャーを与える、これも大事なことさ。これくらいいつでもできるんだよ、という余裕を見せ付けてね。というか君は誰だい? 女子野球部のグラウンドに男子がいるのはいただけないね」
「あ、俺はマネージャーとして仮入部している野津友人といいます」
「あ、そうなのか。ここにはマネージャーがいなかったからね。これも運命の導きというやつか。いいだろう、私は田岡椿、是非君が入ってくれることを願うよ。マネージャーの不在は厳しいからね。縁が得られるなら、私のことは椿と呼んでくれたまえ。それじゃあね」
「……なんというか、濃いな……」
いわゆる痛い人にも見えるが、そこそこ似合っていて、絵になるのがいいのだろうと友人は思った。
【田岡椿と出会った】
田岡椿
日比野高校2年生。打順は1番でポジションはファースト。右投左打。
出塁率と盗塁成功率に優れる理想的な1番打者。
女子野球部のメンバーの中で1番足が綺麗。