41話 弱さを見せること
(よし、これで)
生粋は自分の手元にくるフライをとれる位置についた。
(うっ)
しかし上を見上げた瞬間に生粋に目に太陽の光が入る。
生粋は外野を始めたのは2年生。安定した守備力を見せてはいたが、長年内野手だったのだ。センスがあっても、これだけは経験不足が露呈した。
パン!
そして、打球は生粋のグラブの土手に当たり、落球となる!
ワァァァァ!
一瞬の静寂からの歓声。ツーアウトのためランナーはすでにスタートしており、2塁ランナーがホームインして逆転される。
「バックホーム!」
全員が生粋のミスに驚愕し、動けない中、陽奈だけがカバーに入り、キャッチャーに投げる。
「アウト!」
生還を狙った1塁ランナーはアウトになった。陽奈の相変わらず目立たないが、ファインプレーである。
しかし、甲子園決定から、一転、敗北が近づいてしまった。
「…………」
常に声を出している生粋が顔を俯けたまま、ベンチに下がり、ベンチ裏に行ってしまった。。
そして周りのメンバーも責めることも励ますこともできずに困惑してた。
その精神状況ではとても勝つことなどできない。敗色濃厚となった。
「どうしよう私のせいで……」
生粋は1人でベンチ裏でうなだれていた。
「……安心しました」
誰も声をかけることのできないはずだった雰囲気の中、ベンチ裏に行って話しかける男がいた。野津友人である。
「……友人君」
生粋は誰も来るはずがなかったと思っていたのか、涙を流していた。いつもほのかに笑みを浮かべていた生粋からは考えられない表情であった。
「俺は正直おせっかいなので、いろいろなメンバーに余計なことも余計じゃないことも言いました。でも生粋先輩にだけは何も言いませんでしたね。あなたはそれでもこなしていましたから」
「……」
「でも1つだけ言いました。本当に大変そうなときだけは支えると。そして今がそうだと思ってます。俺すごく安心してるんです。生粋先輩もやっぱり人間なんだなって思いまして。困ったり弱ったりすることもあるんですって。大丈夫ですよ、まだ挽回できるじゃないですか。この回に点取ればいいんです。終わりじゃないんです」
「友人君……」
「生粋先輩」
友人はそう言って、生粋の手を両手で握る。
「大丈夫です。誰もあなたを責める人はいません。でも生粋先輩がいつもの自信ある姿勢でいてくれてこそです。つらいときは支えます。ですけど今はいつもの頼れる先輩でいてください!」
「……ええ、そうね。私が間違っていたわ。試合は終わってない。ええ」
涙で濁っていた目に力が戻る。
「みんなごめんなさい。私のミスでいきなりピンチになってしまった……。でもわがままを言わせてほしい。この試合に勝ちたい! だからみんなの力を貸して!」
生粋が立ち直りみんなに声をかける。
「……生粋にそう言われちゃね……、当然頑張るだけさ」
「ここであきらめるのは非合理的です」
「私が打って見せます」
「もう1本くらい打てますわ」
「データはそろった」
「スーパーショットを打つぞ!」
「多分私には回ってこないけど!」
「じゃあまずは私ね」
この回の攻撃は9番杏から。うまく回せばクリーンナップにチャンスで回る。
「これはうまくいけば生粋先輩にチャンスで回りますね! そして汚名返上です!」
そしてそれをあえて言うのが友人である。でも今回は空気が読めていた。
【全員のやる気が上がった】
女子野球部のウワサ
生粋の発言はみんなに響くらしい




