39話 初見
「今日の相手のピッチャー……、私のデータにないピッチャーだよ」
ベスト8をかけた1戦。日々野高校の相手は白天高校。別段実績のあるチームではない。
凪のデータも特に目立った選手はいなかったのだが、いわゆる隠し玉ピッチャーである。
そのフォームは現状男子のプロ野球でも数の少ないアンダースローである。
アンダースローは絶対数が少ないため、その独特の球筋を実践できるピッチングマシンもないため、初見で打つのはかなり難しいのである。
「ストライク! バッターアウト!」
「ほら見て。粘り強い椿があっさり三振しちゃってる」
試合が始まって日比野高校の先攻で試合がはじまったのだが、椿がいきない三振してしまった。
その後も、理論派冬香、天才バッター京里も三振してしまった。
「球種は?」
「ストレートはそこまで速くないですが、スローカーブとチェンジアップがかなり厳しいです。下から上がってきて、また下がるみたいな変化球が独特すぎて難しいですね」
冬香の分析で、相手ピッチャーの球種は理解する。
ところが、分かっていても、これを打ち崩せずに試合は膠着状態になる。
「…………」
そのまま回は5回まで進み0-0のままであった。
しかし、出塁は少しあったものの、まともなヒットが出ておらず、ベンチの空気は重くなっていた。
こちらも杏の好投で失点こそしていないが、ストレートの伸びが悪く、三振がとれていない。
打たせて取っているため、どうしても内野の間を抜ける当たりもあって、三塁までランナーが2回進んでいる。流れは悪かった。
「皆さん、いい感じですね!」
ところがそこで空気が読めないのが友人。明らかに違う発言をする。
「どこがいい感じなのよ! 全然打ててないじゃん!」
京里が友人に反論する。
ほかのメンバーも何を言っているのかという顔をするのだが、クラスが同じで唯一出塁をしている京里だけが発言できたというわけだ。
「え? だって失点してないじゃん」
「でもこっちも点が取れてない……」
「そんな心配はいらないじゃん。杏先輩球数少ないですし、打たれませんよね?」
友人が杏を見て真顔で尋ねる。
「え、え、ええ。もちろん! 1点も取られないわ!」
急に話が飛んできて慌てるが、彼女の性格上それを否定できるはずもない。
「じゃあいいじゃないですか。相手のピッチャーは球数が多くなってますし、あれだけ練習してる皆さんがこのまま1点も取れないことなんてないでしょう? だったら勝てます!}
「……凪。相手の打者のデータをもう1回見直しましょう。打者の度にポジショニングを調整しましょう。あとみんな早打ちしないでもっと球を見ていきましょう」
生粋の激励に全員が答える。
「ありがとう友人君」
「え、お礼ですか? なぜ」
「わかってないならそれでいいわよ……。全くそんなに落ち込んでたなんて……。そうじゃん。なんで1点も取られてないのに私が落ち込まなきゃいけないのよ」
生粋のお礼の意味が分からなかった友人だが、その様子を見て杏が発言する。
そして試合は最終回の7回表。
「フォアボール!」
この回先頭打者の椿が9球粘って出塁する。
京里以外で初めての出塁である。
「セーフ!」
するとすかさず椿は盗塁を決める。
速球派のピッチャーと強肩のキャッチャーがそろっても簡単には椿を刺すことはできないのだ。
アンダースローの難点は球速が遅くなりがちなことと、フォームが大きくなるのでクイックが難しい。
そのため出塁されると盗塁されやすいのである。
それをすかさず、冬香が送り、1アウト3塁の状況を作り出す。
カキン!
そして京里があっさりレフトに犠牲フライを上げて、1点を先制する。
いまだにヒットは出ていないが、理想的な点の取り方である。
「これでもう勝ったわ。私は点を与えないから!」
「……でも次への流れが悪いわね……」
杏が1点入って気合を入れたが、凪がやや不安げである。
この試合に勝てたとしても、全くヒットの出ていない状態で次の試合になるのはあまり良いことではない。
カキーン!
「あ」
しかしそのような空気はなんのその。生粋が緩いカーブを捉えてホームランを打った。これで2-0である。
「ナイスバッティング! さすが生粋ね」
「配球を読んだだけなんだけどね。うまいこと飛んでっちゃったわ」
カキーン!
「あ、弥生も打った」
気落ちしたピッチャーは絶妙なコントロールがずれて、失投となり、弥生がホームランを打つ。
そしてそのまま打線はつながり結局苦戦を強いられながらも8-0で勝利となった。
【打線のつながりが上がった】
女子野球部のウワサ
ビッグイニングが多いらしい




