37話 1回戦
「さて、いよいよ公式試合だね」
「ああ、落ち着けよ飛鳥。どこかで出番があるかもしれないんだぞ」
「う、うん。私は落ち着いてるから……、ゆーじん君おちついて、目がすごいことになってる」
「あ、ああ。大丈夫だ」
「ふぅ、友人、ドリンク頂戴」
「あ、はい。いつものですよ。あれ? 試合は? こっちが後攻でしたよね」
この試合は日比野高校が後攻なので、ピッチャーである杏は今投げていなければならないはずであった。
「何言ってんの? 私が三者連続三球三振で終わらせたじゃん。見てなかったの?」
「はやー!」
「あんまり見てても面倒くさいけど、ちゃんと試合は見てなさいよ。心配しすぎ」
「あ、はいちゃんと見ます」
杏に友人がまともに説教される。割と珍しい光景であった。
「ストライク! ボール! ファール! ボール! ボール! ファール! ファール! ファール!」
そして日比野高校の攻撃で、1番は椿。おなじみの選球眼とバットに当てるスキルで球数を稼ぐ。
データがほとんどない相手で、初見の変化球でも完璧に対応する。
これだけやられると、もう投手は丸裸になってしまう。
「ボール! フォアボール!」
結局11球粘ってフォアボール。そして1塁まで歩いて、いつものクールな笑顔をベンチに向ける。
そして次の打者は冬香。
しかしピッチャーはランナーで出ている椿を警戒して牽制球を3球続ける。しかし、大きいリードに対して、まったく余裕で牽制球をかわしてしまう。椿の盗塁技術の高さはここにもある。単純に足が速いだけでなく、並外れた瞬発力でスタートも早いのだが、それは戻るのにも生かされる。椿をけん制で刺すのは相当
難しいのである。
(椿さんの足を警戒して初球は外しますね)
冷静な判断をして冬香はあっさり見逃す。
だが椿は走らない。
(2球は外せない。でも椿さんを警戒して変化球は難しい、となると)
カキン!
次の球にストレートが来ることを読み切りややおっつけてライトに流し打ちする。
緩いゴロを一二塁間に流して、ライト前に運ぶ。遅めのゴロだったので、椿は三塁まえ進んだ。これでノーアウトランナー三塁一塁の大チャンスになった。
(あの2人はさすが。これで私も気楽に打てる)
1年生ながら3番打者に抜擢された京里、さすがに緊張する場面ではあるが、これはかなり気楽な場面である。
相手の守備も序盤の1点は仕方ないとして無理な前進守備を取らずに、併殺打をとれる守備位置をとっている。これなら、野手の正面をつくライナーか三振か内野フライでなければ点が入る場面になる。
最悪併殺打でも先制点としての1点が入ることは流れとしては悪くない。それこそ点にならなくても、次の打者は得点圏の鬼である生粋。3番打者は重要な打順ではあるが、後ろを打っているのが生粋というのはそこまでプレッシャーを感じる必要はないのであった。
カキン!
そして初球。きれいにセンター前にヒットを打って先制点となった。
(いい感じね。私も打たなくっちゃ)
生粋がノーアウトランナー二塁一塁で打席に立つ。
投手からは明らかな動揺がうかがえた。
先頭打者に11球投げて四球。次の打者にはほぼエンドランを決められ、そしてタイムリー。ここで得点圏を大得意とする生粋。もうどうすればいいかわからなくなる。
カキーン!
その状態で厳しいところに投げられるはずもなく、ノーストライクツーボールからストライクを狙った甘い球をとらえられて、ホームラン。これで4対0になった。
「ナイスバッティング! でも生粋にしちゃ珍しいな。あんなに大きい当たりは」
投球練習をしていた杏が生粋にハイタッチをする。
「場面が気楽すぎて、外野まで飛ばそうかなって思ってたら、飛んでちゃった」
カキーン。
「あ、弥生も打った」
続く弥生もホームラン。その後も連打が続き、初回にいきなり8点を先制した。
そのまま加点が続き、日比野高校は1回戦を16-0で制した。
【全体的にレベルが上がった】
女子野球部のウワサ
ファンからの差し入れがものすごく多いらしい。




