36話 抽選会
時期は7月、本日は全国女子高校野球部の予選の抽選会である。
32チームがエントリーした大会でトーナメントで行われる。
この大会でベスト4に残ったチームだけが、高校球児のあこがれである甲子園に足を進めることができるのである。
32チームで戦うため、どの位置に入っても戦う回数は変わらないのだが、それでも有利不利が出るようになっている。
なぜなら昨年のベスト4は絶対に準決勝までお互い当たらないようになっているためだ。
左側から8チームずつA,B,C,Dに別れ、各ブロックにベスト4がこちらも抽選で入る。
このシステムのため上位4つの高校の牙城が崩れることはまれではある。
女子野球部は数が少ないこともあり、少数精鋭ではあるためにおこることであり、特にここ5年は不動である。
女子野球部の三大王者はこの四高校である。
女子野球部のプロを輩出し投打に圧倒的な選手が育つ強豪。過去12大会でベスト4落ちは0回で、優勝は1~3大会、5、7、8大会、10~12大会の9回の絶対王者、『天神山高校』。
この絶対王者に唯一勝率3割越。毎年ダブルエースを従え投手力を生かした戦いをする。優勝は4大会と9大会の2回のこちらも名門。『小田井高校』。
抜群の打撃力で打ち勝つ野球、大味な試合で勝つにしても負けるにしても最後まで楽しませる打の高校。打撃力が大爆発した6大会では優勝し、優勝が当たり前、準優勝で失態とも言われる天神山高校を唯一ベスト4どまりにした実績があり。『桜花高校』
スタメンから控えまでバランスよく揃え、安定した守備と一芸を自慢。優勝こそ0回だが、実力は他3校に劣ることなし。『赤が丘高校』。
事実上天神山高校のいるブロックにあたれば、ベスト4は不可能に近い。
まだ隙があるほかの3校にしてもほとんど落ちることはない。
12大会あるので、ベスト4に進んだ高校はのべ48校あるのだが、そのうち40校はこの四高校が独占していて、準優勝に至っては1校が奇跡的に上がったくらいなのである。
「なるほど、じゃあとりあえずはくじ運ですね。
「ええ、目指すは優勝だからどこでも関係ない。100%勝てるチームなんてない。ベスト4進出率が100%の天神山高校だって、戦えば絶対はないわ」
「とは言いましても……」
抽選会には全員が来ていて、キャプテンである生粋が票を引く。
メンバー含めてマネージャーである友人も来ているのだが、友人は独特の緊張感に誰よりも緊張していた。
「……本当はここ私たちも緊張する場面だよね」
「ゆーじん君はそういうタイプだから……」
昨年参加していた2年生はもちろん落ち着いているのだが、本来緊張する京里と飛鳥は緊張できずに呆れ顔である。
そして、抽選が終わる。
「やりましたね! 赤が丘高校のブロックじゃないですか」
友人は小声ではあるが、露骨に笑顔で生粋に伝える。
ほかのメンバーはその顔を見てあきれ顔である。
友人は決して空気が読めないわけではないのだが、体育会系ではないためそのあたりの空気は読めていないようである。
その露骨な笑顔に他校の生徒も少しイライラしたという話でもある。
「そうは言っても、赤が丘高校は昨年私たちの甲子園行きを阻止したチームよ。それに、ある意味ではいいとも言えないわ」
帰りの電車の中で、生粋が友人に説明する。
「どうしてです? ベスト4では1番弱いんですよね?」
「確かに優勝回数やベスト4を逃してる回数だけを言うならそうね。でもそれはあくまでベスト4の中で戦う場合の話。私たちはその枠とは別よ。実は赤が丘高校は正直に言うと天神山高校の次にぶつかりたくなかったわ」
「?」
友人は納得できないようで、腕を組んで頭をかしげる。
「えーとね。赤が丘高校は私たちとチームの方向性が近いの。同じように総合力で戦うチームだから」
「一緒じゃいけないんですか?」
「小田井高校は投手は素晴らしいけど、打力はそこまで。桜花高校は逆で打力はトップクラスだけど投手力と守備は大味で隙があるの。そこを突けば可能性があるの」
「赤が丘高校は隙がないんですか?」
「さっきチームの方向性が近いって言ったけど、正確には私たちより全体的に少し上というのが正しいわ。小田井高校相手なら、打力、桜花高校相手なら投手力と守備力で勝ってるけど、赤が丘高校はすべての面で少しだけ負けてると思うわ。少なくとも昨年負けたのはそのわずかな差よ」
「なんとなくわかりました。じゃあ勝てないんですか?」
「いいえ、ただ油断をしちゃいけないっていうだけのこと。今年は京里の加入も含めて昨年より全体的にパワーアップしたわ。赤が丘高校が上位互換だというのはあくまでも3月までの話。言ったでしょ。相手が誰でも勝つだけって」
「はい!」
友人は赤が丘高校の説明を受けた。
開会式がつつがなく終わり、ついに試合がはじまる。
1回戦の相手は高上高校というチームに決まっていた。
「高上高校については、目立って何かあるというわけじゃないけどどうにもデータが少ないから、よく分からない感じね。だから、全力で行きましょう」
このチームではデータを担当するのは捕手の凪である。相手チームのデータを叩き込んでそれをみんなに伝えている。
「相手が誰でもここで負けることはありえないから。私の投球できりきり舞いさせるわ」
杏はかなり気合が入っていて、いつも以上にせいが出ていて、以前の彼女とは別の意味で誰も近づかなかった。
「あ、杏先輩。今日はアイシングとかはどうしておきます?」
「そう、アイシング投球で……、って、こんな時までマウンドにきて話しかけんな!」
ただ1人、空気の読めない男子を除いてだが。
「殴ることはないと思いますが……、ちゃんとグラブでたたいてるのはいいですけど……」
以前注意した通りに手で殴るのではないだけ彼女も成長しているということだ。
【試合開始】
女子野球部のウワサ
サインを求められる回数は最も多いらしい。




