33話 理屈だけで生きていくのは難しい
「あ! 友人。ちょっと来てくれ」
とある昼休み。友人が昼食を終えて、のんびりと歩いていると、花香に出会い、手を引かれた。
「どうしました?」
「黙ってついてきてほしい。駄目か?」
「別にいいんですけど……」
花香の真剣な様子に、友人は疑問を持たずについていった。
「ここだ」
花香と友人が到着したのは、この時間は人気の少ない体育館の近くの階段。
「ここで何が?」
「いや、実はな。冬香がクラスの男子と揉めて、男子3人と一緒に教室を出て行ったんだ。そのときの会話がちょっと聞こえて、ここだというのが分かった」
「なんで揉めたんです?」
「勉強のことについてだ。あの3人組が眼鏡男子に宿題をやらせようとしてたから、それを非合理的だとか、無意味とかで完全に論破しちゃったんだ」
「あの人は相変わらずですね」
野球をやっているときも、激しい動きながら、とにかく合理性を気にしてプレーを行い、休憩などもかなり理論的に行う。それは普段も同じのようだ。
「野球ならいい。でも日常生活には、合理的だとか、理論的だとかそれを持ち出すとトラブルの種になる。でも冬香は自分の正義を曲げないから、ときどきこういうことがある」
「何話してるんでしょうね?」
友人は耳を傾けた。
「なんでお前はいつも俺達の邪魔をする? お前の言う理論的じゃない行動を取っていないやつはいくらでもいるだろう。そっちに言わないのは不公平じゃないのか?」
「違います。確かに私の考えでは理解できぬ行動を取る人もいますし、そのようなことを知らなくてよく高校生をやっているというほど無知で無能な人もいらっしゃいます。ですが、それは本人にしか迷惑をかけていらっしゃらないからです。あなた達は、クラスメイトに勉強を押し付け、部活動や勉強にいそしむわけでもないのに、掃除をやらない、簡単に言いますと、人に迷惑をかけているからです。自分の行動で自分が迷惑を受けるのは仕方ありませんし、そのようなことにいちいち目くじらを立てていては、逆に非合理的です。簡単に言いますと、幼稚園児でも分かることですよ。人に迷惑をかけるなということです」
相手の台詞に対して、何倍も長い言葉で淡々と返されて、男子3人は全く二の句が告げなくなってしまう。
「ちっ、うっせーな」
ブン!
すると1人が手を出そうとする。
バシ!
「へ?」
だが、その拳はあっさり冬香に止められる。
「言葉で言い返せない人間のする非論理的な行動などお見通しです。こうなることが多いので、私はある程度の護身術は学んでおります。暴力に訴えられて理論が負けるなどあってはなりませんから」
「い、いててて!」
あっさり腕を決めて、男子を地面に突っ伏す。
「すごいですね。冬香先輩あんなに強かったんですか」
「うん、理論を成立させるためには、ある一定の暴力も必要って考えだから。下手に私がついてくと、私は喧嘩全然だから、かえって足引っ張っちゃうからついてかないぞ。でも今日は3人だから、万が一がないようにだけな。でも大丈夫そうだ。ありがと、戻ろう」
花香が安心して階段の影から去ろうとし、友人もそれについていこうとしたところで、なんとなく冬香のほうを振り返った。
「!」
そして友人が見たのは、階段の踊り場にいた冬香が後ろから押されて宙に浮いている光景だった。
「冬香先輩!」
友人はその落下地点に一直線に向かった。
ドスン!
「あ……、友人さん……? 花香さんも」
友人は冬香を何とか受け止め、その腕に抱いていた。友人の声に気づいた花香が後ろから支えたため、衝撃も和らぎ、友人も倒れずにすんだ。
「だ、大丈夫ですか……」
「あ、はい……、私は……どうして?」
いつもは冷静な冬香もさすがに、動揺が隠せずに冷静な表情を崩していた。
「こらー! お前らなんてことしてんだ! 私達が証人だからな! 絶対いいつけてやる!」
花香が大声で叫ぶと、3人組は逃げていった。
「怪我がなさそうでよかったです。あまり無茶はしないでくださいね」
「で、ですがあの人達が非論理的なことを……」
「それで大変なことになってたらそれこそ非論理的ですよ。論理と力があるだけじゃ、同い年の男の人は女の人に論破されるのはやっぱりプライドが傷つくものです。直接的ではなく、味方を増やしていくほうがいいです。少なくとも冬香先輩には、花香先輩がいるわけですし、野球部の仲間もいます。自分の意見をときには疑うのもいいと思います」
「……やはり男の人なんですね。友人さんも」
「へ?」
普通の話に男の話を持ち出されて友人は混乱した。
「いえ、一般的には、男性は理論的、女性は感情的に生きていると言われます。私は女性ですが、理論的に生きています。ですが、あなたに簡単に理論を論破されてしまいました。それでやはり男の人は論理的だと思いました」
「そ、そうですか……、それは分かったということでいいんですかね?」
「はい、もう少し気をつけるようにします。せっかく友人さんがサポートしてくれているのに、私がご迷惑をおかけしては悪いですしね」
「おーい、いつまでそのまま冬香を抱きしめたままなんですかー」
花香が突っ込みをいれる。実は友人が冬香を落下から助けてから、ずっと友人は自分の胸に冬香を抱きしめたままだった。
「あ、すいません。離しますね」
友人は失礼をしたと思い、冬香を開放する。
「では俺は戻りますので、花香先輩お願いします」
「OKだ! ありがとな」
そして、友人は1人で戻っていった。
「さて、私達も戻ろう。そしてあの3人をぼこぼこに論破してやろうぜ!」
「……不可解。非理解……。不覚?」
「どうした? やっぱりどっか痛かったのか? 顔赤いぞ?」
冬香の様子はそのまま1日中不調のままで、エラーも多くその日は彼女は早引きとなった。
冬香の評価が上がった可能性がある。
冬香のウワサ③
勘と運には全く恵まれないので、理論を大事にするらしい。




