23話 小器用な飛鳥
「飛鳥ちゃんかー。キャッチャーが増えるのはありがたいけど、1番向いてなさそうじゃない?」
友人の提案を受けて、飛鳥同伴で凪のところに相談を生粋は持ちかけたが凪は苦笑いだ。
飛鳥は1年生のメンバーの中では最も体格が小さい。2年生を含めると花香のほうが小さいのでブービーだが。
一般的にキャッチャーのポジションは体格が大きめのがっちりした人がすることの多いポジションである。
「凪先輩もけっこう細く見えますけどね」
「おっ、嬉しいことを言ってくれるねぇ。でも肩とか触ってみると、がっしりしてるんだよこれが」
凪が肩をパンパンと叩く。
「凪はいわゆるスリムだけど筋肉質な体格をしてるの。体脂肪率はチームで1番低いわ。見た目にだまされてると、男子でも普通に力負けするわよ」
「すごいっすね。でもやっぱり怪我とかのリスクありますし、いずれキャッチャーが必要なら覚えといていいんじゃないですか。他の子は一応経験者でもうポジションが固まってますし、未経験の飛鳥なら、余計な前知識がありませんから、割とスムーズにいけるかもしれませんよ。というか、もう普通に飛鳥やるきマンマンですよ」
「あら?」
「さて! 球受けますよ」
3人で話している間に、飛鳥はマスクやレガースを装着していた。
「しかも普通にちゃんとつけれてるし、器用ね~」
「飛鳥は基本的になにやらしてもある程度はできますから」
「じゃあ杏に何球か投げてもらおうかしら。杏!」
「聞いてた。本当に大丈夫なのか?」
杏はすでに話を理解していたが、どうも表情はいぶかしげである。
「ちゃんと防具はつけてるし、ケガの心配はないわ。杏もちゃんと投げていいわよ。飛鳥ちゃん、いいわね」
「はい、大丈夫でーす」
「じゃあ飛鳥ちゃん、内角高めに構えて」
捕手の構えをした飛鳥の後ろに審判の立ち位置で生粋が立つ。
「えーとこんな感じですかね」
「もうちょっと腰を降ろして、動かさないようにね」
「杏はきちんと構えたところに投げてね」
「言われなくてもやる。というか、私の売りそれだし」
杏が振りかぶってストレートを投げる。
バシン!
「…………」
「…………」
「…………」
「あれ? どうしました?」
飛鳥のミットに球が収まると、静寂になり、生粋、凪、杏全員が黙ったので、不安になって飛鳥が訪ねた。
「いえ、驚いてるの。捕手初めてなんだよね」
「あ、はい」
「捕手どころか、野球経験も高校までなかったんだよね。それが1回でアジャストするなんて」
「めちゃ気持ちいい音した……、偶然じゃないの?」
杏だけはやや首をかしげたが、それでもやや認めているのは表情から分かった。
「あと何球か投げてみればわかりますよ」
友人だけは笑顔でうなづいている。野球には詳しくないが、飛鳥との付き合いは長い。彼女が何をしても、そつなくこなせる器用な女子であることはよくわかっていた。
そのあとも、何球かストレートを投げたが、すべて完璧にアジャストした。
抜群のコントロールを持っている杏が構えたところにほぼ同じ速度で投げているとはいえ、ほぼ初挑戦でそのキャッチングはやはりセンスをうかがわせた。
「すごい……」
「確かにすごいけど、でも変化球が取れなくちゃ意味がないわよ」
杏もキャッチングのうまさに驚嘆はしていたが、彼女の不安は変化球にあった。
コントロール自慢の杏は変化球も交えた技巧派ピッチャーでストレートの割合は女子野球の平均と比べるとかなり低く、ストレートの制度が低いときは変化球のほうが割合が大きいくらいなのだ。
ストレートと変化球ではかなり捕球のタイミングも異なり、ただその場所に構えればいいというわけでもない。
「確かにね……ストライクを取るための小さい変化をするカットボールとフォークはある程度構えてくれればいいけど、決め球のスライダーとフォークはたまにワンバウンドもするし」
「その辺りはおいおい試していきましょう。まだ飛鳥ちゃんはキャッチャーが初めてだし、初日でこれだけできれば、そのセンスがあることはわかるわ。試合展開がかなり有利になったら、試してみましょう」
「はい!」
飛鳥は元気よく返事をして、生粋に答えた。
【飛鳥に捕手適正がついた】
飛鳥のウワサ②
今でも友人の家にお泊りすることがあるらしい




