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009 帰還

 








 ──光が、泉から天に伸びた。その光は、雲を越え空を越え、天まで届けと言わんばかりに、何処までも何処までも、力強く伸びていった。


「──これは!!······なんとも、なんとも美しいことか」


 ソウレスは見た、この世の神秘を。未来永劫語り継がれることとなる英雄譚の一節を、伝説を、目の前で。

 ソウレスは、自分でも分からぬままに涙していた。

 そして、光の柱の中に人影を見つける。

 その男は、一歩、また一歩と、確かな足取りで歩いて来る。

 光から抜け出した男は、右目上部の髪を白く染め、決意ある顔で言った。


「ただいま、みんな」


 その言葉に、十数人はいるであろうギャラリーが湧いた。その集団は大半が女性で、皆一様にメイド服を着ている。

 そして顔には歓喜、羨望(せんぼう)、安堵、期待、それぞれがそれぞれの表情を写しており、その光景は(まさ)しく十人十色(じゆうにんといろ)だ。

 そして、誰かが男の名を叫んだ。そう、〝清水蒼流〟という、未来の英雄の名を。

 蒼流は柔らかい微笑みで返す。


「──いや、誰?君達」


 俺はこの世界に来てからまだ、シルとソウレスさんの二人にしか会っていない。──ならばッ!!この人達は誰だ?答えは簡単、知らない誰かだ!!


 完璧過ぎる迷推理に、蒼流は満足感を貪る。


 やれやれ、また一つこの世の謎を解き明かしてしまった。


 謎のテンションの蒼流に、金髪の見知らぬ女が前に出てきた。


「お初にお目にかかります、私の運命のひ······コホン、勇者様。私の名前は、ヤミリー・ヴィール・コンスタンティン。ここキャメロットの第一王女でございます♡」


 ──ん?アレー?何かとても嫌な予感がするぞー?


 ヒラヒラの付いた白いドレスに身を包み、その上からでも分かる豊富なバスト。長い髪の毛を腰まで伸ばしており、顔の造形もとても整っている。まさに、スタイル抜群ルックス完璧の美少女で、シルにすら遅れはとらないだろう。さらに、(うやうや)しく礼をすると、前屈みになり、携えた二つの巨峰(むね)が一層強調される。


 美しい。ああ、確かにとても美しい。天使とはこの人のことを言うのだろう。──だが、それが何故、瞳の奥にハートを浮かべているんですかねぇ!?この人絶対ヤバいよ!笑顔が狂気的だもん!!


「ああ、勇者様がこちらを見ている。うふ、うふふふふ、幸せぇ······おっと、いけないいけない。我を忘れてしまいました」


 怖い怖い!!我を忘れるって何!?


「それで、ここに居るのは全員王城の従者です。ソウレスから通信魔法で連絡が入ったので、目に入った方々を適当に連れて来ました」

「ソウレスさんが?」


 蒼流がヤミリーの左にたっているソウレスに目線を移す。


「はい、私なりの出迎えです。それより蒼流殿、このソウレス、大変感動致しました」


 ソウレスが顔を上げ、静かに涙を流しているこの光景は、何故かとても絵になる。


「あんま泣かないで下さい」


 この人はこんなにも俺のことを思っていてくれたのか。


 一人しんみりとする蒼流にソウレスが白いハンカチで涙を拭きながら天を仰ぐ。


「なんといてもとても久しぶりの出番ですからな」

「そういう理由!?俺の感動を返せ!!」


  そこでふと蒼流の頭に疑問が浮かんだ。


「──そういやシルは?久しぶりの出番って言ったらアイツもだろ」


 辺りを見回すと、ギャラリーの最前列の端っこに、体育座りをして顔を伏せているシルがいた。

 蒼流はシルに近づいて行き、シルと一緒の目線になるように片膝をついた。


「何やってんだ?こんなところ────ひいッ!!」

「蒼流何処?一人は嫌だ。助けて蒼流。嫌いにならないで。ごめんなさい。いい子にするから。私を捨てないで。蒼流蒼流蒼流蒼流蒼流蒼流蒼流蒼流蒼流蒼流蒼流蒼流蒼流蒼流蒼流」


 さて、今の状況を一言でまとめてみよう。

 即ち〝闇〟だ。──いや、〝病み〟と言った方がいいだろうか。


 いやあああああ!!怖い怖い怖い怖い!これだから最近の若いのは!!おおおち着け、落ち着けシルと俺。こういうときは深呼吸だな。は〜い吸ってー、吐いてー・・・・・・スーハースーハー。よしっ!いくぞ!!・・・・・・これホントにいかなきゃダメ?


「おおおおいシル?おれはこ、ここにいるぞ?」


 蒼流が決死の覚悟でシルの肩を揺らす。


「蒼流蒼流蒼流蒼流蒼流蒼流蒼流蒼流蒼流」

「あっれー?おっかしいなー、盛大に無視されたぞー?────でも諦めない!!だって主人公だもの!!」


 おかしなところで強靭な精神を見せる蒼流が、唐突に立ち上がり、掌を裏返しにして額に当てる。


「ちいーーーっす。蒼流で〜〜〜す。YO・RO・SHI・KU〜〜〜」

「蒼流蒼流蒼流蒼流蒼流蒼流蒼流蒼流蒼流」

「いや確かに俺も少しは調子に乗ったよ?でも無視しなくたっていいじゃん。はいはい僕が悪かったですよ。所詮僕は勇者の器じゃないってことですね。だって童貞だもんね。クズだもんね」


 決死の覚悟をいとも容易く折られ、シルの隣に体育座りして俯く蒼流を見てギャラリーの人々は思った。


 ──もしかして彼は馬鹿なのではないだろうか。


 しかし、そこに、救いの手が差し伸べられる!!


「蒼流蒼流蒼流蒼流蒼流······ん?────ッ!?······あ、れ?······そう、りゅう······?」


  やっと気づいたシルが驚愕に目を見開き、()いで抱きついた。


「蒼流、ひぐっ、良がっだ。ひぐっ。もうっ、いなくならないで!ひっ、うぐ、ああぁぁああぁあぁあ!!」

「ああ、他人に認識されるって、こんなに嬉しいことだったんだなぁ。いけない、涙が・・・・・・」


  子供の様な大泣きに、蒼流は自らの涙を誤魔化すようにシルの背中に手を回し頭を撫でる。この行為はシルを気遣ってのものであり、前からやってみたかったわけではない。・・・・・・やってみたかったわけではない。


  ■■■


「うん。もう、だい、じょーぶ」


 泣き止むのに数分を要したシルが、自分の目元を腕で擦る。その仕草は何処か子供っぽさを含んでおり、蒼流の口元を無意識の内に緩ませる。


 ふぅ、何とか泣き止んだな。それじゃ、撫でるのも()めていいか。


「────あっ。」

「ん?どうした?」


 蒼流が頭から手を退()けると、シルが声を漏らした。

 抱きついた体制のまま、もじもじと赤面しながら上目遣いにこちらを見つめてくる。


  ──ブフォッ!······こいつ、できる!!


 シルの攻撃(うわめずかい)がクリティカルヒットし、鼻血を吹き出す蒼流。

 シルが素早く蒼流の手を握り、自らの頭にぐりぐりと押し付ける。


 ああ、頭を撫でて欲しいのか。シルちゃんは可愛いなあ。


「──あ、ん······ふわぁぁぁぁ」


 親ごころとはこういうことを言うのだろうと思いながら、蒼流が頭を撫でてやると、今まで無表情を貫いていたシルが、これ以上ないほどに(とろ)けてしまった。しかし、シルは蒼流の胸に顔を押し付けているため、幸いその情けない顔を誰かが目撃することはなかった。


 蒼流がしばらく撫で続けていると、シルは全身の力を抜き、己の全てを蒼流に(ゆだ)ねてきた。そのことに気恥(きはずか)しさと少しの嬉しさを感じながら、蒼流は右手に握るエクスカリバーを見やる。


 剣なんて今まで一度も持ったことなかったけど、驚くほど手に馴染むな。これもあの変な契約のおかげなのか?


 そこで蒼流はふと思い立つ。意識世界で出会ったエクスカリバーはは今手の中にある。──ならば、()()()()、マーリンはどうしたのか。

 蒼流が注意深く周囲を見回すがあの長身見当たらない。百八十後半であろう彼の身長では、この殆どが若い女性メイドの集団の中で目立たないようにするのは至難(しなん)を極めるだろう。


 そもそも、アーサー王のいた時代の人物である筈のマーリンが(いま)だ生きているのだろう。どうやってエクスカリバーの意識世界に入ったのだろう。いや、もしかしたらあれも魔法で、本当のマーリンは(すで)にこの世にはいないのではないか。

 次から次へと湧き出てくる疑問の数々に気を滅入(めい)らせながら蒼流は空を仰ぐ。


 ──そういや、アイツ(なん)で野球のこと知ってたんだ?こっちの世界にもあんのかな······。





  ■■■





  ──???──


 色とりどり四角い家が並び、太い大通りが前方に見える巨大なレンガ造りの屋敷まで伸びている。規模の小さい街。住人も少ないのか大通りを歩くのは四、五人だ。

 屋敷の中、玄関の大広間の真正面にどっしりと構える階段を登った先、マホガニーブラウンの立派な扉を叩く人影が一つ。


「どうぞ」


 中から声が響く。それを合図に扉を開けた。

 そこには黒い髪で右目を隠した少年が、窓際の丸いテーブルにチェス(ばん)を広げて右手で黒のキングを(もてあそ)んでいる。

 部屋に入って来た男が口を開く。


「やあ、〝彼〟と会ってきたよ」

「おう、お疲れさんマーリン。で、どうだった?」

「あれはとんでもない才能だよ。──ただ」

「ただ?」

()()()()から来たせいか(いささ)か心が弱いね。──でも、芯はしっかりとあるから大丈夫だと思うよ」

「······そうか。聞けば聞くほどアイツに似てるな」


 そう言って彼は窓の外を眺める。

 雲一つない蒼色の空に、爛々と輝く太陽を捉え、目を細める。


「あと少し、あと少しで始まる」

「そうだね。──でも、ここまでする必要があるのかい?戦力的にはもう充分なんじゃ・・・・・・」

「戦力は高けりゃ高いほど良い。負けるわけにはいかねえんだ。俺はその為に、()()()()()()()()()()()()


 そう言って男は、左手に真剣な眼差しを向ける。そこには青い宝石のついた指輪が一つ。

 その様子を見てマーリンが顔を(ほころ)ばせる。


「ああ、見せてくれ、その先の未来を、君の言う人間の可能性を。なあ、()()()













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