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007 大魔導士マーリン








  照りつける太陽と円状に選手を囲む観客席。

  一人と一本の間に走る緊迫した空気。その後ろで静かにグローブを構える長身の男。

  五角形、その名を〝ホームベース〟という。それのすぐ横に立ち、青い球体が埋め込まれた東洋を思わせる灯台の様な形の杖を縦に持つ男が前方を睨む。

  そこには黄金に輝く一本の剣が切っ先を向けて空中静止している。

  形こそ違うが、見るものが見ればわかる。この空気、まさしく〝野球〟、それも甲子園である。

  しかし、明らかに異様な光景だ。なにしろバットが童話の魔術師が持っている様な杖なだけでなく、本来ピッチャーがいる筈の場所に剣が浮いているのだから。

  ──だが、ここではそんなこと日常茶飯事······


  「──何やってんだ俺達!?」


  な訳ではなかった。


  「前回結構シリアスな展開だったじゃん!何で急に野球!?」


  バッターの男、清水蒼流が握りしめていた杖を地面に叩きつけ叫ぶ。


  「まあまあ、どうせ読者もシリアス展開に飽きてるよ」


  キャッチャーの男、マーリンがなだめるようにメタい発言をぶち込む。


  「汝よ、何事にも息抜きは必要だぞ」


  ──トドメと言わんばかりにピッチャー、むしろ球そのもののエクスカリバーがギャグに迷走する。


  「お前までボケちゃったよ!少しはマトモだと思ったのに──!!」


  ······どうしてこうなったのか。蒼流はほんの数分前を遠い目で思い出す。






  ■■■






  コツコツと音を立てて歩いてきたのは、かのアーサー王伝説に登場する宮廷魔導師マーリン。

  大昔の人物が何故ここにいるのか?という疑問に至る前にマーリンが口を開く。


  「そこまでだ。お前だって丸腰の相手を刺し殺すなんて騎士道に背く行いはしたくないだろう?なんたって君は騎士王の剣だからね」

  「相変わらず神出鬼没な男だ。因みに我も丸腰だぞ。まあ、確かに後味は悪い。だが、こやつは我を愚弄した、生かしてはおけぬ。それとも、他に事情があるのか?」


  蒼流にはついていけない話。ここまで来てとてつもないはぶられ感だが、自分の命はこのマーリンに託されたということは理解した為黙っておく。決して、お前それで丸腰なの!?というツッコミを入れたいなど思っていない。──そう、決して。


  「──え?お前それで丸腰なの!?」


  まるで心を読んだかの様なタイミングでマーリンが目を剥く。


  ────こいつ、できる!!


  蒼流はマーリンに尊敬の眼差しを向けるが、次の一言でその想いは霧散した。


  「まあそれは置いといて。事情ならあるよ、それはね・・・・・・正直作者が飽きちゃったんだ!!」


  死んだ。どうやら俺はエクスカリバー激おこからの即死ルートに入ってしまったみたいだ。──お父さん、お母さん、シル、ソウレスさん、今日僕は二度目の死を迎えます。


  笑顔で真っ白に染まる蒼流。そこにエクスカリバーが運命の一言を放つ。


  「そうか、ならば仕方ない」


  ······そこに、静寂が落ちた。

  数秒か、数分か、時間の感覚さえ忘れさせる圧倒的な静寂。

  ──しかし、そんな永遠とも思える時間を、一人の男の呟きが終わらせた。


  「────ああ、うん、そだね······」


  次から次へと押し寄せるボケの波に、ついに蒼流は、ツッコミという取り柄を諦めてしまった。


  「君の取り柄とかどうでもいいから話を戻すよ。これから君たちには公平な勝負をしてもらう。それに勝った方が負けた方に一つだけ命令できるってことで」

  「どうでもいいってなんだよ!こちとら唯一の長所手放しかけたんだぞ!?」

  「まあまあ落ち着いて、君は他にも良いところが沢山あるよ」

  「へ、へ〜。まあ、な?」


  鼻に指をあて、顔を軽く赤く染める蒼流をマーリンが満面の笑みで突き落とす。


  「君、騙され易いってよく言われない?」

  「──お前ほんと嫌な奴だな······」

  「それで勝負とは何をするのだ?」


  明後日の方向に突き進む会話をエクスカリバーが無理矢理引き戻す。

  するとマーリンが左手の人差し指を自分の顔の前に立てる。


  「ああ、それはね······〝野球〟だよ」


  ──一瞬、そう、まさしく一瞬だった。

  マーリンが言葉を発したその瞬間、世界が光に包まれ、気づいた頃には床も壁もなかった白い世界が、土と観客席で彩られていた。

  蒼流は足に土の確かな感触を感じながら天を仰ぐ。

  そこには、空があった。あの無機質な空間を、蒼流のよく知る野球場に変化させる。

  ツッコミを入れるタイミングすらない。

  その絶技に、蒼流は絶句した。







  ────これが······これが〝魔法〟というものか······。














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