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057 ストーカー被害in王城

遅くなってぇ、ほんどうにぃ、ずいまぜんでしたぁ!!(最早お家芸)

10月いっぱいまで忙しいのです。申し訳ございません。
















 ドラゴン戦から数日。

 聞けば、ヤミリー・サミ・リリエル組とクーラ・ディラン組もそれぞれ半狂化した大型魔獣を討伐したらしい。

 しかし大型魔獣ともなれば彼らも苦戦したようで、もし少し遅れて完全に狂化していたら、と思うと冷や汗が垂れる。


 先日の死闘を思い出しながら、相変わらずだだっ広い王城の廊下を意味もなく徘徊する。いわく気分転換と言うやつだ。



 ······さて、


「そこだっ!!」


 唐突に勢いよく後ろに首を回す。

 と同時に視界の先で黒い影が曲がり角に吸い込まれた。

 数秒後角から薄緑のアホ毛らしき物が顔を出す。

 ピョンピョンと上下に跳ねる様は見ていて愛くるしくも感じるが、俺の胸に湧き上がってきたのは、またか、と言う呆れであった。


 薄緑のアホ毛何て持っているのは一人だけ。

 現魔王であるクーラ・イズナム。

 ドラゴン戦の更に前からずっと尾行されている。

 本人は上手く隠れているつもりだろうが、毎度アホ毛が彼女の存在を知らしめている。

 だがクーラは、自分のアホ毛が壁から突き出ていることに気がついてないらしい。


「あら、蒼流様おはようございます」


 さり気なく何度か後ろを確認しながら廊下を進んでいると、前からヤミリーが歩いてきた。


「こんな朝からお会いできるなんて光栄の極み──おや?」


 ヤミリーの瞳が俺の後ろの柱から伸びるアホ毛をはっきり捉えた。


「······お近ずきの印にハグしちゃいます!」


 ヤミリーは勢いよく俺の胸にダイブしてきた。わぁーい、ふくよか。

 こいつ、わざとクーラを煽ってやがる。


 胸板に頬を押し付けるヤミリーを引き剥がす。

 不満そうな顔を見せながらも、用事があると言って去っていった。

 ······なんだろう。後ろから瘴気が漏れ出てる気がする。


 背中に冷や汗を伝らせていると、タイミング悪くメイドさんが話しかけてきた。

 話すのは事務的な内容だが、その最中にもドンドン瘴気の濃度が増していく。

 メイドさんもやっと気づいたのか、一瞬で顔を青く染めると、話を強引に切り上げて一礼、すぐさま小走りで駆けて行ってしまった。


 この薄情者!見捨てやがったな!ヤミえもんに言いつけ───るのは血が流れそうなので勘弁してあげましょう。


 無言の講義をメイドの背に叩きつける。



「────蒼流さん」



 瘴気の根源が、真後ろにいた。


「ヒィッ!!」


 ほぼ反射で振り返ると、瞳の光が抜け落ちたクーラさん。

 一人称ホラーゲームみたい。


 衝撃と重圧。

 天井が回る。

 重力に従って身体が傾く。



 気づけば俺は、クーラに押し倒されていた。






 ■■■






 私の名前はクーラ。魔王なんて肩書きが着いているものの、殆どお飾りの様なものだ。

 私には日課がある。

 勇者清水蒼流さんの観察だ。

 これを始めたのは蒼流さんに頭を撫でられた次の日からふぁ。

 あの時からずっと胸の奥で燻っている感情を確かめたい。

 そうして今日も影から蒼流さんを観察する。


 ······いえ、断じてストーカーではありません!


「──そこだっ!!」

「ッ!?」


 思考の海を漂っていると、急に蒼流さんが振り向いてきた。

 なんとか曲がり角に身を放ることに成功、あと一瞬でも遅かったらバレていたことでしょう。(※バレてます)

 しかし我ながら完璧な尾行ですね······あっ、いえ観察ですけどね。(※バレてます)

 私にこんな才能があったとは驚きです。(※だからバレてます)


「あら、蒼流様おはようございます」


 壁に張り付いて息を殺していたら、不意に声が響いてきた。


 ············女の声だ······。


 胸の奥で燻りが熱を帯びた。

 憎悪の炎だ。

 いや落ち着け、深呼吸だ。ここで飛び出しても蒼流さんに迷惑がかかるだけだ。

 爪が食い込んだ拳をゆっくりと(ほど)く。


「······お近ずきの印にハグしちゃいます!」







 ──────は?








 脳を直接鈍器で殴られたような錯覚。

 何をしている?あの女は。穢れた体で蒼流さんに触れるだと?


 分からない。ただただ理解できない。その行為が。

 あのふしだらな女は、まさか自分が蒼流さんに触れていい存在だとでも思い込んでいるのか?




 ────クスッ。




 ヤミリーが嗤う。

 蒼流に抱きついたまま。彼の方に乗ったその顔は、確実にこちらに向けられたものだ。


 何かが弾けた。

 胸の奥の小さな爆発。

 連続する。

 あの人の背に腕を這わせ、決して逃さないと主張するオンナの姿を見ているだけで、何度も、何度も爆発する。


 度し難い。本っ当に度し難い!アイツは、本気で蒼流さんは自分の物と()かすつもりだ。

 やメろ、穢スナ。ワタシノそうリュウサンを、ケガスナ!!


 脳が沸騰するほどの憤怒と共に湧き上がってきたのは、恐怖とも取れる不安だった。

 ウツクシイ蒼流さんが、品性の欠片も無いあのオンナに染められてしまうのではないかと言う不安。

 今震えている体は、怒りか恐れか。


 目が回る。気分が悪い。蒼流さん。蒼流さん。


 見れば、いつの間にかヤミリーは消えていた。

 思考の海に溺れている間に去ったのだろうか。

 いくらかの安堵。しかし胸にこびりついた二つの感情は収まりそうもない。

 激情を吐き出してしまおうと細く息を吐く。


 ──その瞬間、






 マタ、オンナノコエガキコエタ。


 プツンと、奥の方で音がした気がした。


 メイド服を着たオンナが、蒼流さんと話している。

 お前も、蒼流さんを穢すのか?



 やめろ。


 フラフラと足が前に出る。


 触るな。


 その背中が近づく。


 蒼流さんに。


 メイドと目が合う。


 ······お願い。


 顔を青くして走り去るメイドも意識の外へ。


 私から、


 彼の背中が、目の前にあった。


 蒼流さんを、取らないでぇ。


「────蒼流さん」


 蒼流さんが振り返る。

 綺麗だからこそ、不安になってしまう。


 その気持ちに突き動かされ、



 気づけば私は、蒼流さんを押し倒していた。


















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