049 褒めて伸ばすタイプ、叱って伸ばすタイプ その3!
ああ、平成が終わってしまう······。
きっと平成最後の投稿です。
なんか、感慨深いなぁ。
もうサミのことは置いておこう。
きっと明日の俺が何とかしてくれる。頑張れ、明日の俺。
今日という濃すぎる日に消化不良を起こしそうな蒼流は、そうそうに自室で休んでしまおうと思考する。
「──あれ?自室用の鍵がない」
両のポケットをまさぐるが、それらしき感触はない。
自室には常に鍵をかけているため、鍵がなければ蒼流の部屋には入れないのだ。······え?常に鍵をかける理由?ほら、誰かが勝手に入っちゃうかもしれないだろ?主に三名が。まあ鍵閉めてても侵入されちゃうんだけどね!
「落としたとなると、書庫かなぁ」
蒼流は気だるさに肩を落としながら、踵を返して再度歩きだした。
■■■
「ていってもこの広さだからなぁ」
円形に広がる本棚に、所狭しと詰め込まれた何十万という蔵書に目眩を起こしながら、注意深く散策する。
「──あ、あのっ!」
そのとき、後ろからかなり力の籠った声音が投げかけられる。
振り返ると、翡翠色の立派なアホ毛と、同色の瞳が二つ、本棚の脇から覗いていた。
蒼流はそのアホ毛の持ち主を知っている。
「どうしたクーラ」
「は、はひっ!あ、あああのですね!その、なんと言いますか」
視線をうろちょろと惑わせ、頑なに蒼流と視線を合わせないクーラ。
やめて、傷ついちゃう。
「こ、これっ!!」
本棚から勢いよく飛び出し、クーラは両手を蒼流に突きつけた。
その手の中には、銀色に輝く鉄の鍵が。
「──これ、俺の部屋の。拾ってくれたのか?」
クーラがちぎれんばかりに頭を縦に振っている。ロックだぜ。
「おお、ありがとなー」
左手で鍵を受け取って、空いている右手はクーラの頭に乗せ撫で回した。
「──ひゃっ、あああの蒼流さん!?······あっ、はふ、あぅぅ」
「──あっ、ごめんつい癖で」
あれ?この癖普通に犯罪じゃね?
クーラは顔を赤よりも赤くしてあわあわと湯気を吹き出している。
通報される前に手を退けた。勇者が女の子の髪撫でて投獄とか恥ずかしすぎるからね。どうせ痴漢するならもっと大胆にいくさ、勿体ない。乗りかかれば皿までってやつ。
「──あっ」
「ん?」
「い、いえ!」
頭撫でるのを止めてもずっとクーラが蒼流の手を見詰めている。
「じゃあ俺はもう帰るぞ、じゃあなありがとう」
「は、はぃ。さようなら······」
そうして蒼流は書庫を後にした。
■■■
クーラただ一人になった書庫で、彼女は何をする訳でもなく、ボーッと蒼流の出てった扉を眺めていた。
高鳴った鼓動が未だに収まらない。
──不意に、クーラの手が動く。
ゆっくり先刻撫でられた自分の頭へと。
髪に手が触れると、まだ彼の温もりが残っているようで、不思議と心が満たされた。
「気持ち、良かったな」
一人心地にぽつりと呟く。
誰へ向けた言葉ではない。
ただ心から零れた感情だった。
温かくて、優しくて、安心できて、幸せに満たされる〝アレ〟。
「──もっと、して欲しいなぁ」
心からの、感情だった。
おや?クーラの様子が······。




