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048 褒めて伸ばすタイプ、叱って伸ばすタイプ その2!

おらあ!新元号発表前に書いてやたぜえ!

改稿した前の話読んでない方はぜひ読んでくれると幸いです。


ps,シル、ヤミリー、サミ、リルの四人は、共にAランク冒険者です。











 コツコツと硬い地面に靴がぶつかる音をこだまさせ、蒼流は重い足を何とか持ち上げて歩いていた。


「はぁぁぁ、サミにやっても失敗する未来しか見えないなぁ」


 溜息を吐き出す表情は、見た者に陰鬱なオーラを余すことなく伝える。

 いっそのことやめてしまうかと思考を巡らした瞬間、真後ろで幼い声が響いた。



「ボクがどうかしたのかい?」



「ヒィッ!」


 完全に個人の世界に入り込んでいたところに、突然、それも後ろ数センチの距離から、今しがた脳裏に思い浮かべていた人物の声が放たれ、蒼流は掠れた悲鳴を漏らす。


「もう、そんな反応されると流石のボクも傷つくよ?」


 藍色の髪を持つ猫耳幼女サミは、脳天から伸びるアホ毛を上下に弾ませ、プリプリと怒っている。


 ──じゃあ超至近距離の背後から話しかけてくんなよ······。


 心の中で静かに愚痴を零す。

 しかし、決して顔には出さないよう努めながら。

 ······何故って?機嫌を損ねると怖いからさ!

 年端もいかぬ幼女にすら怯えて強く出れない勇者様なんです。


「それで?何でボクを探してたんだい?」


 さてここで重要なのは、果たして褒めて伸ばすタイプと叱って伸ばすタイプどちらを使うかだ。


 サミの性格的に褒めて伸ばすタイプか?······いや、ここは叱って伸ばすタイプだ!······ん?理由?反応がシルと被っちまうからだ。


「──はぁ、サミ、お前何か勘違いしてない?」

「──え?何がだい?」


 クッソしょうもない理由で叱られてしまう可哀想なサミに、蒼流は努めて冷たい声音を吐いた。

 微かに瞳を揺らしたサミだが、自らの内で気のせいだと結論づけて笑顔で首を捻る。


 ──しかし、


「お前、何かある度に俺に指示を仰ぐけどさあ、なに?従順ぶってんの?」


 吐き出されたのは、侮蔑混じりの汚い言葉。

 向けられたのは、興味を失った冷たい視線。


 サミが首を傾げたままピシリと固まる。状況が飲み込めていない様子だ。


 ああ、ごめんよサミ。でも続けちゃう自分がいる。

 俺が思うに、シルもサミも俺に依存し過ぎな気がしてならない。嬉しいことだが、それだけじゃダメだ。今回は、彼女らが独り立ちする為の実験でもあるのだ。


「いちいち指示されなきゃ動けないとか、所詮お前は指示待ち人間なんだよ」


 ザワ······ザワザワ。


 ──実はこれは本音。戦いの度に俺が指示を出していれば、いずれ失敗する時が来るだろう。俺は戦いに関しては完全な初心者だ。対してサミはAランク冒険者。多くの経験を積んでいることだろう。果たしてどちらの判断が的確かは、火を見るより明らかだった。


 目じりに涙を溜めながら、「あっ······あっ······」と小さく呻いて震えているサミ。

 顔は青白く、焦点の定まらない眼がわなないている。

 サミの体調が優れないのは一目瞭然だった。


 これだ、俺に暴言を吐かれたらすぐにこうなってしまう。これがダメなのだ。何とかして治してやりたいのだが······。


「少し、距離を置いた方がいいかもしれないな」





「──────あ············ああ、ああぁあぁあぁぁあああぁぁあ!!」





 零れた呟きに、サミは絶望を感じとった。

 身体が震えを通り越して揺れへ、そして跳ねの域まで達する。


 ──寒い、寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い────怖い。


 サミの心が、恐怖に黒く塗りつぶされる。

 何も見えない。何も聞こえない。過呼吸で足がもつれた。

 傾いた身体を、そのまま蒼流に倒す。

 小さな掌で、必死に蒼流の服にしがみつき、すがりつく。


「お願い、お願い、します。捨てないで下さい。何でもします。何でもしますから。だから、どうか······見捨てないでぇ」


 大粒の涙が波となって溢れ出る中、何度も何度も懇願する。


 ──いやぁああああああ、何この子こっわ、デジャブ感じちゃうんだけど。シルもこんな感じになる時あるわ!


「いや違くてね?俺はサミに自分で判断して行動してもらいたいだけなんですよ。こうすれば皆のためになるとか、これをやれば皆が助かるとか、そういうことを考えて行動してほしいなぁっと」

「そ、そうすれば、そーりゅうはボクを見捨てないでくれる?」

「見捨てない見捨てない」

「ほ、本当!?じゃあボク、そーりゅうのためになることやそーりゅうが助かることやって来るよ」

「うん、脳内変換器バグってるのかなー?今すぐ問い合わせた方がいいと思うよー?」

「行ってきますそーりゅう!」

「話聞けよ」


 走り去っていくサミの後ろ姿に文句を放つが、残念ながらサミの耳には届かない。



 彼女の瞳には、絶対に嫌われたくないという盲目的な願いがドロドロと渦巻いていた。














平成はなんやかんやで大好きな時代でした。


次回、まさかの魔王ちゃんを褒めて伸ばす!?

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