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047 褒めて伸ばすタイプ、叱って伸ばすタイプ













「ふんふふーんふーん──お?」


 気分の良さを十二分に滲ませた鼻歌を歌いながら、スキップのように弾んだ歩みで廊下を渡る蒼流。

 しかし、その瞳に一人の少女を捉えて足を止める。


「おーい、シルー、こっちこーい」


 蒼流が大袈裟に手を振ると、シルも気づいたようで、少しばかり頬を紅色に染めてトテトテと可愛らしく小走りで近ずいてくる。

 非常に分かりずらいが、彼女の顔は喜色を写していた。


 蒼流と人一人分開けたところでシルは立ち止まり、首を傾げながら上目遣いで見上げてきた。

 シルは蒼流よりも背が低いため、見つめ合うときは自然と上目遣いになるのだ。──ぐへへ、可愛い。


「よーし、ちゃんと来れて偉いぞー」

「────ッ!!??」


 蒼流がシルの輝く白髪に手を置き、唐突にワシャワシャ撫で始める。


 蒼流の最早セクハラ裁判所直行アタックを受けて、シルの身体が大きく跳ねる。

 そのまま撫で続けていると、次第にシルの表情が蕩け、最後には蒼流にしなだれ掛かってしまう。


 ──そう、これぞ褒めて伸ばすタイプ、〝とにかく褒める〟だ。


「ふぁぁ、そう、りゅっ、なんでぇ」


 ──ふふっ、君こそ何で撫でられただけでそんなエッロい表情になるんだい?年齢指定してないからねこの作品。気をつけてね?


「ミッショントゥー、危険がないか街の見回りをして来て、そしたらまた褒めてあげよう」

「──!!分かった、行ってくる──!」


 差し出された極上のご褒美(かじつ)に、シルは身を翻して瞬速で駆けてゆく。

 目指すは城下町。

 彼女の胸は既に、蒼流に褒められることへの期待感で爆発しそうなほど高鳴っていた。







 ■■■







「いやー、あんなにやる気を出すなんて、シルは見回りの仕事が好きなのかな?ハハハハハ──はぁぁぁぁぁ、効きすぎたぁ、もう誰が彼女を止められると言うんだ······まあやめる気はないんですけどねっ!!──っと、ヤミリーはっけーん、カモーンヤミリー」


 一陣の風が巻き上がった。

 遠方にヤミリーを見つけた蒼流が声を上げるが速いか、ヤミリーは凄まじい速度で蒼流との距離を喰らい尽くしたのだ。


「お呼びですか蒼流様♡」


 ──あれ?今更だけど俺はヤミリーのどこを叱ればいいんだ?特にできないことないし、気遣いだってしてくれる······何この子完璧超人じゃないですか。


 蒼流は、顎に手を当てて小さく唸る。

 普段のヤミリーの行動の細部まで思考を巡らせ、無理矢理不満をひり出す。


「ヤミリー······もう少し落ち着いて来いよ。ちゃんと王女としての自覚持ってます?何処でも構わず尻尾振ってさぁ、ご主人様を待つ犬かお前は」

「はぅあっ!」


 ごめん自分でも何言ってるのか分かんない。ほら、ヤミリーも顔真っ赤だよ、すげえ怒ってんじゃん。──まあいいや、後は挑発だったっけ?


「ほらほら、悔しかったら言い返してみろよ、おしーりペーンペン」


 あっ、俺これ打首だな。急な逆ギレからの失礼極まりない幼稚な挑発、叱って伸ばそうとすらしてないし。うん、グッバイ異世界。


 目じりに涙を溜めながら、直ぐに言い渡されるであろう死刑宣告を祈るように待つ。

 何に対して祈っているのか分からない。神様······だとアイネになっちゃうし、アホ毛にでも祈っておこう。


 そして、ヤミリーの口から絶望を体現した言の葉が紡ぎ出される。

 ──さあ、今


「はひぃぃ、わたくしは馬鹿な犬です。蒼流様のペットですぅ。お仕置きしてくださいご主人様ぁ♡」

「······」


 顔を林檎よりも赤く染め、荒い呼吸を繰り返しながら四つん這いになるヤミリー。



 はい、静寂。紛うことなき静寂。

 もうとっくのとうに王女様の頭の中はお花畑パラダイスだった。


「──うん、あのね············薄々感ずいてたよぉおおおおい」


 大粒の涙を宙に零しながら、蒼流は未だ四つん這いを解こうとしないお花畑パラダイス(ヤミリー)の横を駆け抜ける。


 お前が脳内ビックリ箱のことなんて知ってたんだよォおおおおおおおおおおおお!!!!!!


「仲間チェンジしたい······」


 涙やら鼻水やらでえらいことになった顔で、蒼流は誠実に呟いた。













そういえば、私の他作品もよければ(宣伝)

下のリンクからいけます。

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