046 ひらがなは筆記体が独立したようなもん
湾曲した本棚が、円を描いて敷き詰められる巨大な書庫の中心で、蒼流は瞼を下ろして一人思考の海に浸る。
──そも日本語とは、
特定されてないけど何かすっごい昔にに海外から日本に伝来した漢字が、おびただしい年月を経て日本人がだんだん面倒くさくなってきちゃって、テキトーに文字を書いた結果、漢字の字体が崩れひらがなが生まれ、漢字の一部分だけ取っちゃおうぜ、ということでカタカナが生まれる、
という大丈夫か日本人と言いたくなるような歴史の末に完成された三つの種類からなる非常に奇っ怪な言語だ。
海外から見れば筆記体が独立したようなもんだ。
しかし、今回重要なのはそこじゃない。
真に着目すべきは、日本語が〝日本語〟という名前であるということだ。
まあまあ落ち着けお前達、そんな憐れむような目で精神科病院を勧めてくるな。
日本語とは、〝日本〟で使われるから〝日本〟語なのである。つまり、日本という地名の一切ないこの地では、〝日本語〟という言葉など有り得るはずがないのだ。
ならば過去に俺と同じような異世界人が伝えた?
──いや、今が魔法歴9998年で、この文章が書かれた、世界が創られたと言われる時期──魔法歴元年には既に日本語が使われていたのだ、そして、ひらがな・カタカナが作られたのは1200年くらい前、全く年代が合わない。
それこそ時間逆行でもしない限り不可能だが、そんなもの人間の力でできるはずがない。
「······というか、世界が作られた瞬間を記録に残せる人物がいたって時点で、世界創造以前に人間がいたって事になっちまうじゃねえか······ダメだー、全然分からん」
キャパシティーを超え、疑問ばかりが悶々と蔓延る脳内を振り払うように本の山に身を投げる蒼流。
最早狂化の原因を調べる気力など霧散し、気だるさだけが蒼流の身体を支配する。
原因の解明はキースに任せよう。
勇者の為に国が用意した人物とだけあって、キースの頭脳はえげつない。それは蒼流も認めるところだった。
何かを問えば秒で返ってくる回答は、頭脳明晰なそこらの大臣ですら舌を巻くものだ。
奴なら何とかしてくれる。と期待と信頼を込めて全て押し付けると、蒼流は意味もなくボケーっと天井を眺める。
すると、視界の端で一冊の本が目に止まった。
預けた身体を起こし、その本に手を伸ばす。
「──『子どもを伸ばすテクニック』」
明るい配色の表紙にゴシック体で書かれた文字を読み上げる。
厳かなものばかりのこの書庫には不釣り合いな題名。
主婦に向けるようなそれは、だからこそ異色を放ち、蒼流の興味を傾けたのだ。
内容を確かめるべくパラパラとページを捲っていく。
「褒めて伸ばすタイプと、叱って伸ばすタイプ」
基本はコレ!!っと赤い太字でデカデカと記されている。
『褒めて伸ばすタイプはとにかく褒める!褒めて褒めて褒めちぎる!間違ったら優しく諭す。そして褒める!
叱って伸ばすタイプはとにかく叱る!ときどき挑発するとやる気アップ!でもちゃんとできたらしっかり褒める!』
そこまで読むと、蒼流は静かに本を閉じる。
口端は吊りあがっていてニヤけ面だ。
「──面白そう」
『子どもを伸ばすテクニック』を脇において、本の山から立ち上がる。
蒼流は鼻歌交じりに書庫の扉へ歩き出した。
日本語は漢字、ひらがな、カタカナを全て織り交ぜてくるから難しい。普通のアルファベット、筆記体、ヒンディー語全部使って一文作るみたいな感覚ですね。
その上比喩表現が異常なくらい多い。
てか四字熟語ってなんやねん。
以上の理由から日本語は全力で外国人を殺しに来ている。




