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045 〝日本語〟

43話繋ぎが雑すぎたんで改稿しました。










 昔、悲劇があった。絶望した、男がいた。彼はひたすらに後悔して。後悔して後悔して後悔して、二度と間違えないと誓いをたてた。

 常に正しい選択をして、何十万人もの命を救ってきた。

 ──それでも、彼は、最期に後悔した。完璧な男は、正しくなり過ぎた男は、きっと人ではなくなってしまっていたのだろう。何処までも愚かな、王だった。正しいだけの、僕だった。


 なら、今の僕は、何なのだろう。王でもなく、騎士でもない、僕は──。




 蒼流が重いまぶたを持ち上げると、見慣れた天井が広がっていた。意識が覚醒する。


 また、あいつの夢か。


 ここ最近、アーサーの夢を頻繁に見るようになった。

 夢の中のアーサーは、いつも悲しげに笑っていて、諦めたように、こう問うのだ。


 ──君には僕が、何に見える?


 何を求めているのか分からない。もしかしたら何も求めてないのかもしれない。


 俺にはあんたが、人に見えるよ。


 その姿が、絶望して、もがいて、疲れ果てて、諦めて、それものまだ希望を欲し続けるような姿が、蒼流には人間に見えた。誰よりも、人間らしく見えたのだ。


 自分の腹に重なって寝息をたてるシルの頭を撫でて、束の間の平穏を享受する。

 全てが整った人形を彷彿とさせる顔が、だらしなく緩まる様子を眺めながら蒼流は微笑を浮かべる。


 涎、きったね。


 シルの口端から伝った一本の水流は、蒼流の真っ白な服を灰色に湿らせていた。






 ■■■






 キャメロット王城に内接する図書館とも言える書庫で、山積みの本に囲まれる影が一つ。

 勇者、清水蒼流だ。


「──ええっと、『世界創世記』?──こっちは、『モンスター大全』、『世界の姿』······こんなもんか」


 蒼流は今、狂化の原因を本格的に調べるため過去の出来事を漁っていた。

 手に取った本を開く。題名は『世界創世記』。


「古代、全能神ゼウスが世界を創造した。以下の写真は、恐らく何者かがその瞬間の風景を書き留めたであろう、ルールー遺跡に刻まれた文章だ──?」


 蒼流が確かめるように冒頭を読み上げる。その下には、橙色混じりの薄茶色の壁に彫られた文字の羅列。

 途方もない年月を凌いできたのだろう、ところどころが風化し、霞み消えている。



『空が赤■染ま■■大地が割■■。しば■くし■、一■全て■止ま■■。そして、ま■で時■が巻■■るよう■大■■直り、■は晴れ■■と思■ば暗く■りまた■る■なる。■陽が■ま■■■く■り、■と■を繰り返■。■び全■が■ま■と、■度は世界■ブレ■■めた。■■てそれ■二■になり、遠■■なれて■■た。終わ■■頃■は、ビル■何■なくなって■■。

 そして■れたゼ■■と■乗る■。

 ──────■■、■う。■はシ■■■ーで■■ことが■■。

 ■は■■だ。──■か■■は■神園桐生(かみぞのきりゆう)


 当然の如く日本語で書かれた文章は、三分の一ほどが潰れていて、まるで読めたものでは無い。


 ────しかし、


 最後の一文を目にした瞬間、蒼流の背筋に電流のような凄まじい衝撃を受ける。

 驚愕に眼を見開いたまま、何かの間違えではと何度も何度もその文字を瞳でなぞる。

 その奇怪な行為と止めどなく冷や汗を嘲笑うが如く、刻まれた文字は微動だにせず、変わらぬ言葉を訴え続ける。


 ──日本語だ。

 今までは何か特殊な力で自動的に翻訳される都合のいいファンタジー主人公パワーかと考えていたが、その仮定が今丸々覆された。

 名前が、日本人の名前が刻まれているのだ。こればかりは、翻訳がどうこうだけでは説明がつかない。

 外国人の名前を和訳すると、カタカナの外国人感溢れる名前になるのと同じように、異世界の未知の言語を翻訳したところで、こんな違和感のない、ましてや漢字を使った名前などできようはずもないのだ。


 蒼流の腕が、横に置かれた『世界の姿』という本を無造作に掴む。

 焦りが滲んだ表情で、蒼流がページを捲っていく。

 ふと、手が止まった。


「──やっぱり」


 無意識の内に零れた呟きには、確信の感情が乗っていた。


 ぼうっと眺める双眸の先には、


 〝この世界の共通語は、日本語である。〟


 そう、記されていた。













次回からギャグ復活です。

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