044 勇気アル者
秘技、二時間連続投稿!
彼は言った、もう無理だと。
しかしどうか、その彼が今、ただ一心に向かい来る大軍を見つめている。
誰よりも勝利を渇望している。
最早敗北の決した戦いに、剣を持って立ち上がった。
ならば斬れ、敵を、敗北を、運命を。
斬り伏せて語れ、己が道を······!
「征け、それが君の物語だっ!!」
男は叫んだ、遥か遠くに見える、今まさに運命に立ち向かおうと足掻きの一歩を踏み出す少年の、背中を押すように、或いは自らの願いを託すように。
男の名は、彼の英雄の名は、アーサー・ペンドラゴン。
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足は決して軽くない。身体からも力など湧いてこないし、視界も普段と大して変わらない。
都合よくパワーアップなんてしない。
それでも往こう。震えは止まった。それで十分。
恐怖は、置いてきた──!
エクスカリバーが眩い光を放つ。
それが、「舐めるな」と抗議してくる。
分かっているさ、分かっているとも。
エクスカリバーを肩に構える。
お前ならいけるんだろう?
「来いよ化け物共、勇者の名は伊達じゃねえぞ!!」
人の言葉を理解した訳では無いだろう。
しかし、魔物達の真っ赤な瞳がが蒼流を一斉に見下ろす。
蒼流の三倍はある異形の群れへ──
全力で、聖剣を振り抜いた。
刀身から白銀の光が迸る。
先へ先へと伸びる光は、やがて天まで届く程の長さの半透明の刃に姿を変えた。
横薙ぎに振られる光の刃は、巨体からの圧倒的な暴力を鉄剣一本で凌ぐ兵士達の頭上を通過し、巨大な黒い人型の魔物とぶつかった。
「うぅおおおおああああああああああああああ!!!!!!」
蒼流が吠える。
鋼鉄の硬さを誇る分厚い皮膚が光の猛攻を受け止めたのも一瞬、身体を上下に両断された。
それでも衰えることの無い斬撃が、次から次へと魔物を骸へと変えていく。
光の線が少し宙を滑るごとに、前後に連なる数十の魔物を一息に切り裂く。
数百、数千、そして数万と魔物を斬って捨て、蒼流の瞳に映る全ての魔物を両断して、やっと光の刃が停止した。
訪れる静寂。
白銀の刀身は輪郭がブレ始め、やがて形を維持出来ずに光が霧散する。
先程まで蠢いていた魔物は、物言わぬ残骸と化し頽れている。
その光景に目を奪われる者、絶望的状況を一瞬にして反転させた超常現象にただただ唖然とする者。
静けさが落ちた空間で、蒼流が傾く。
──勝った、勝ったぞ。俺の勝ちだ。なあ、見てるか、アーサー?俺が、勇者が、勝ったぞ────。
己が全てを出し尽くして、蒼流は地に倒れる。
霞む視界に、駆けてくる白髪の少女を写し、微かに微笑んでから、意識を手放した。
地平線に沈み始めた夕焼けが、意識を失って尚剣を手放さない勇敢な少年を、紅色に包んでいた。