040 真っ赤なおっはなのートナカイさんはーサンタさんに向かってー言いましった♪──サンタ、お前の方が赤いじゃん。
「──くっ、戦線離脱!」
ガラスの割れる音が喧しく響き渡り、空気を震わせる。
ギルドの窓ガラスを突き破って大通りに飛び出した茶髪に一部分だけが白く染まった男──清水蒼流は、赤褐色の髪の女性を左腕で抱えて走り去る。右手には黄金に輝く聖剣を携えている。
後を追うようにガラスの片鱗を残す窓枠に足をかけて身を乗り出した黒いローブを着た黒髪黒目の男が、邪悪な笑みで加速する。
悪に染まり切った表情と、左手に握られた漆黒に塗られた歪な剣が相まって、その姿は死を振りまく死神のようだった。
「ついてくんな!!さてはストーカーかお前!?いやー、人気者って辛いわー──あ、ごめんなさい魔力をためないで」
「〈収束解除〉」
蒼流の真後ろに三本の黒炎が突き刺さる。
「きゃああああ、近いです地面が近いですぅ!」
蒼流の全力疾走に揺られ、腕の中で荒れ狂うミア。
「暴れるな!持ちずらい!」
「そ、そんなこと言われても──きゃああああ!!」
「どうした!?」
「か、髪に虫が」
こいつ投げ捨ててやろうか。
ミアが頭を振り回し虫を追い払う。
抱えた状態で暴れられると、危うく腕が緩みそうになるので、蒼流は必死にミアを落ち着かせようとするが、次から次へと飛んでくる炎の雨と、ミア自身の残念な脳内が阻止してくる。
「あぁ!」
「今度はなんだ!!」
「胸ポケットにしまっていたペンを落としてしまいました!」
「どうでもいいわ!!」
「──で、でもあれは」
ミアの表情に影が差す。
儚げな彼女の瞳を、蒼流は無視できなかった。
「──何かを思い入れでもあんのか!?」
「昨日買ったばかりで、インクが殆ど余っているんです!」
「お前本当ぶん殴るぞ!!」
前言撤回、普通に無視していいやつだった。
くっそ、ローブ男をどうにかしようにも、先にミアさんをどっか安全な場所に逃がさねえと······!
蒼流は走りながらも周囲に視線を巡らす。
民間人が恐怖に顔を染めて右往左往している。だが、大半は避難したようで、そこまでの人数は見られない。
ふと、吹き抜けになっている店が蒼流の目に止まる。
入り口には、人が三人は入れそうな大きな籠にトマトが溢れんばかりに積まれていた。
蒼流は、それを見つけるや否や、身体を捻ってミアを抱える腕ごと後ろにやる。
「──なあミアさんや、あんた、トマトは好きかい?」
駆ける蒼流と、邪魔な自分。捻られた上半身と、抱えられた私──そして近づくトマトの籠。
ミアの脳裏に最悪の可能性が走った。
「ふふ、大っ嫌いです」
いい笑顔で答えるミアだが、その内心は焦りと不安に満ちている。
両者口を閉ざす不穏な時間が数秒と経ったとき、蒼流はこれまた爽やかな笑みを作った。
「じゃあ、好き嫌い無くさなきゃな」
ミアの中で、徐々に膨らんでいった最悪な予感が、その一言で確信へと変わる。
「いやあああああ!捨てないでぇぇぇ!」
「大丈夫大丈夫、そんな君でもトマトは優しく受け止めてくれるよ······物理的に」
次の瞬間、ミアの身体が浮遊感に包まれる。
気づいた頃には、彼女は宙を舞っていた。
「きゃぁああああああああああ!!!!」
眼前に迫り来るトマトの群れに、ミアは頭から突っ込んだ。
直ぐに身体を起き上がらせたが、時すでに遅し、全身を真っ赤に染めて出てきた。
「うわあ、真っ赤なサンタさんだあ!」
ミアを投げ捨てた蒼流は、黒炎に追われながらも、そう言って通り過ぎ、ミアの視界から消えていった。
「──トマトって、意外と美味しんだなぁ」
片手に掴んだトマトを、ミアは涙とともに飲み込んだ。
2018年ありがとぉおおおおおおう!!!!