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004 契約するとき最初は大体抵抗されるアレみたいなもん













 迷わずの森。(いにしえ)の時代より神聖な場所、すなわち聖域とされており、伝説の聖剣エクスカリバーさえも眠っていると伝わっている。この森は、万物を導き、決して迷うことはないのだという。


 ──そんな迷わずの森で、男女二人組は仲良く手を繋ぎ、道に()()()()()


「──え?迷・・・・・・え?」


 蒼流は困惑、というよりもパニック状態でシルに聞き返す。


「──そんな迷わずの森で、男女二人組は仲良く手を繋ぎ、道に()()()()()

「いや、聞こえなかったわけじゃねーよ!!」


 ナレーションを完全再現するシルに多少の関心を寄せながら蒼流がツッコミを入れる。


「迷う。行く方向がわからなくなる。または、考えが決まらなかったり、判断できなかったりすること」

「へー、そうなんだー。解説ありがとー。──じゃねえんだよ!!なんで迷わない筈のの森で迷ったのかを聞いてんの!!ってか、その辞書どっからだした!?この天然さんめっ!!」


 辞書を片手に読み上げる天然さん(シル)


 四次元ポケットでもあんのかな・・・・・・。


「入口、間違えたみたい・・・・・・」


 シルは無表情のまま(はっ)した。



 ────ホント、なにしてんのこの人・・・・・・。


 その言葉を、蒼流は涙と一緒に必死に(こら)える。

溜息をつく蒼流の横顔を、シルはじっと見つめる。熱くも冷たくもなく、かといって無関心という訳でもない視線に、蒼流は目を向ける。


「どうした?」

「──蒼流は、何で、勇者になってくれたの?」

「──え?」

「だって······異世界から来て、直ぐに、勇者になってくれたから、特別な理由、あるの?」



 ······言えない!!その場のノリで言っちゃったなんて言えない!!


「えーと、き、君の為というか、君のせいというか」

「私の······為?」


 シルが少しだけ目を見開き、驚いた顔を見せる。


「ああ、シルを助けてあげたいと思ったから」



 なーんてうっそぴょーん。本当は上目遣いに負けたからでーす。


「私の為、私を、助けたい······」


 シルの繋いでいる手に力が込もる。反対の手は、ちょうど胸の中心を握っている。頬を朱色に染めて、シルは胸から吐き出すように零した。


「蒼流······胸が痛いの······締めつけられるみたいになって······心臓が、ドクドク鳴ってる」


 ──あれ?ルート入ったぞ?ちょろ過ぎねえかこいつ。


 シルは俯いたまま歩き出す。長い白髪に阻まれて表情はわからないが、髪の隙間から覗く耳は、見事なまでに赤い。

 ──静寂、二つの足が草を踏む音が、寝静まった森を彷徨(さまよ)う。


 気まずいなあ。そんなときにはコレ!テッテレー、ワダイフールー。


「──なあ、このあとどうすんだ?道わかんないんだろ?」

「それなら大丈夫。泉、見えてきた」

「迷ったんじゃなかったのかよ!?」


 確かに微かに水の音が聞こえる。

 少し歩くと木々が円形に分かれ、その中心には神々しささえ覚える程透き通った小さな泉が見えた。



 その水面には、優しく陽光が降り注ぎ、キラキラと星のように光る。

 蒼流はその泉を前に絶句した。神々しいという言葉でしか表せない代物がそこにはあった。そこ、さっきまでのテンション何処いったとか言わない。



 ──ハハッ、こいつは本当にすげえわ。


 〝聖光の泉〟とはよく言ったものだ。その輝きは、まさしく聖光そのものだ。

 蒼流は静かに感嘆の息を吐く。



「······やっと来ましたかな。シルビィア殿、清水蒼流殿」


 自然が生み出す魅力に(とりこ)にされ気付くのが大分遅れた。自分の横に、知らない男が佇んでいるのに。


「──ひっ!?誰だあんた!?」

(わたくし)はキャメロット王女ヤミリー・ヴィール・コンスタンティン殿下の直属執事、名をソイ・ソウレスと申します。以後、お見知りおきを」


 ······また堅そうなのが出てきたなあ。てか、王女直属の執事ってどんだけエリートだよ······。


「蒼流殿はここにかの聖剣を取りに来たということでよろしいんですかな?」

「うん。よろしい、のですよ。でも、聖剣、どうやって、呼び出すの?」


 シルが首を傾げてソウレスに問うと、ソウレスは、泉を指差し、


「蒼流殿が聖光の泉に右手を浸からせ、私の言う言葉を復唱することで儀式は始まり、聖剣が顕現(けんげん)するのですが、今まで数多の人々が顕現させる(きざ)しさえ見せずに失敗した儀式でもあるのです」

「すいません、全く成功する気がしないのですが、どうすればいいでしょうか」


 蒼流が手を挙げて自信満々に自信がないことを告げる。


「だいじょーぶ。蒼流、勇者様、絶対成功する。······たぶん」

「たぶんかよ!?嘘でもいいから慰めてよっ!」

「さて、そろそろ始めますかな」


 あさっての方向に向かう会話をソウレスが無理矢理中断し、3人は泉の直前まで歩く。


 ──こうなったら、やるっきゃないか!


 蒼流が覚悟を決めて袖をまくる。事実、蒼流も自分の心のどこかでワクワクした気持ちがあるのに気づいていた。


 片膝立ちになり泉に右腕を沈める。

 ひんやりとした水の感触。触れているだけで湧き出てくる力。ざわめく血。草木の香り。擦れ合う葉。流れる風。

 まるで、泉を通してこの森と一体になった感覚を蒼流は感じた。



「──(けん)よ、剣よ応えよ!」



 ソウレスの言葉を蒼流が復唱する。



「創造の泉。理想の(みやこ)



 体の内側から湧き上がる『何かが』右腕に集まり、泉の中へ流れ出ていく。



「正しき者には栄光を、挑みし者には聖杯を」



 その詠唱に呼応するように泉が黄金の光を帯びて輝きだす。



「全ての生はその鞘に、全ての死はその剣に」



 黄金の光が一層激しくなり3人を呑み込む。



「滅びの王に安らぎを────応えよ!我が名は、清水蒼流である!!」


 その瞬間、黄金の光が一層強く輝き、シル達は目に腕を被せる。

 光が収まった感覚を感じ目を開けると、そこは幻想に満ちていた。

 黄金の胞子のような光の粒たちが森を覆って──否、森の至る所から吹き出ていた。

 それは、生い茂る葉からであったり、土台である土からであったり、生えている草からであったり、太い木の幹からであったり、とにかくたくさんの場所から、まるで、穴を開けた風船から吹き出る空気のような光の粒が見受けられた。




 ────しかし、そんな神秘の奇跡とは裏腹に、伝説の聖剣は聖光の泉のどこにも見当たらず、清水蒼流の意識は、片膝立ちで右腕を水に浸からせたまま途絶えていた・・・・・・。













次回シリアス展開です。

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