036 帰還、そして自己紹介
帰路。魔王城からキャメロットに戻るため、紫色の草原を二分する道を蒼流たち勇者パーティは歩く。
その面々は、蒼流、シル、ヤミリー、サミ、リリエルに加え、魔王ちゃんことクーラと、筆頭四天王ディランが続いていた。
筆頭四天王がディランということに一時は肩を落とした蒼流だったが、薄緑の髪を揺らすクーラの、文句なき美少女さに、思わず感嘆の溜息を漏らした。
しかし、あどけなさ残る童顔とは裏腹に、申し訳程度に肩と胸のみを隠す服とも言えない布を纏う上半身と、踊り子が着る横が裂けたロングスカート、すらりと伸びる白い素足を隠すハイニーソの姿で出てきた時には、蒼流の女性免疫装甲Lv1も薄紙同然に破られ、思考がスリープ状態に入った。
そんなこんなでやっと帰路についた蒼流たちだが、ここからまたキャメロットまで歩かなければならぬのだ。
内に燻らせた疲労感が、自然と足取りを重くさせる中、蒼流は引っかかったことを口に出す。
「魔族の政治は大丈夫なのか?」
今魔族には国のトップの魔王が不在なのだ。この世界の政治をろくに知らない蒼流でも、それが異常なことぐらいは分かる。
オドオドしたクーラが、目を合わせようとせぬまま答える。
「は、はい、魔族領では国民主権なため私には魔族の象徴としての役割しかありませんので。そ、それに民主主義ですから行政機関もありますし、三権分立しているので暴走することもないかと······」
すごいね、現代日本並みの政治体制だね。でもなんか世界観ちがうよね。
「うむ、その行政機関、もとい魔政会には、四天王の三人の他、様々な頭脳に長けた魔族たちがおるのだがな、何故か吾輩は入れてもらえんのだ。仲間はずれは良くないと思うのであるが」
「妥当だよ。てか超有能だよそいつ等」
一人目を瞑るディランに、嘆息する蒼流。
──世界を救う道は途方もなく長い。
■■■
キャメロットに帰還してから真っ先に行ったのは、自己紹介だ。
これから共闘していく仲間たちなので、少しでもわだかまりを無くさなければならない。
──まあ、ヤンデレーズの中で絶望的な敵対心が生まれているのだが。
それに貧乳派とヤミリー間にもだ。幸いクーラの胸は中の下、ヤミリーよりかは風当たりも弱いだろう。しかし、忘れるなかれ、貧乳派の御三方は下の下、恨みがましい視線に刺されることもあるだろう。
それを少しでも和らげるための自己紹介。
「では改めまして、わたくしはヤミリー・ヴィール・コンスタンティン。蒼流様とは、将来を誓い合った仲です♡」
「そこ、新人に嘘を吹き込まないっ!」
初っ端からかましてくるブレないヤミリーによって、話の流れがブラされる。
「──シルヴィア・アン・ローズリー······蒼流とは······毎日、一緒に寝る仲······?」
「添い寝な!しかも忍び込んでくるやつ!!」
畳み掛けるシルと、瞬速で誤解を紐解く蒼流。
それは、蒼流の精神力をゴリゴリと削る。
「サミ・ニームだよ。ボクはそーりゅうの所有物なんだ。だからあまりボクのそーりゅうに近ずかないないでおくれよ?」
「おくれよ?じゃねえんだよ。幼女を所有してるとかどんな鬼畜だ俺は」
ヤンデレーズはいわば磁石だ。蒼流をN極とした時、彼女らはS極。蒼流に引き寄せられるのは当然で、互いに反発し合うのもまた摂理。
······本当に大丈夫だろうかこのパーティ。
「──はあ、リリエルよ、よろしく」
諦めの混じった溜息を吐き出し、疲れの滲む顔で淡白な挨拶をするリリエル。
このパーティの常識人チームは何時も疲れている溜息の尽きない会社です!
「キース・カルマリオンデス、よろしくお願いしマス!」
傷心から立ち直り、魔族領にも行っていないため、顔色も健康状態に近い。
「で、俺が勇者の清水蒼流だ。これからよろしく!」
そして可愛い女の子なら誰でも大歓迎の蒼流。
以上元からいたメンバーの、かなり問題のある自己紹介だ。
「わ、私は、クーラ・イズナムです。あの、回復魔法とか、得意です。そ、その、よろしく、お願いします」
徐々に尻すぼみになっていく鈴のような声音。
酷く弱気な魔王は、俯きがちな頭から垂れた前髪に覗かせる金色の双眸で、蒼流の顔をチラリと見ては、目が合った瞬間に視線を下げるという反復行動をしている。
本当に今まで魔王が務まってきたのか不安を煽る。
「吾輩はディランである。常に顔を持っているから片手が使えないこと以外は基本万能な魔法剣士であるぞ」
「弱点が致命的過ぎるんだけど」
両手で握る剣に片手で握る剣が勝てるか。子供でもわかる単純明快で絶望的な大欠点。
──本当にこのパーティ大丈夫か?