030 敵は敵だろ?
「止まれ!ここを通りたくば、我らを倒していくんだな!」
立ちはだかる二つ影。それは、黒い忍装束に身を包む二人の男だった。
「我はキリ!」
「拙者はサイ!」
「「──二人揃って······キリサイ兄弟!!」」
どちらも同じ背丈に体格、そして同じ服装、隠れた顔の大部分。
──正直に言って、どっちがどっちだか分からん!
「動揺している······作戦成功です兄者!」
「おう、さすが我とキリのコンビじゃな!」
「キリは兄者です」
「なに!?ならば貴様はだれじゃ!!」
「サイです」
「じゃあ兄者は誰じゃ!?」
「キリです兄者······」
「ならばここにはキリとサイと兄者の三人が居るはずではないか!」
その言葉を聞いた瞬間、瞳だけでも怒りがありありと伝わってくるようなドスの効いた双眸で、サイがキリの胸ぐらを引っ張りあげる。
「てめえがキリで兄者だっつってんだよいい加減分かれ」
「おおう、待て待てサイ。ジョークじゃジョーク、忍ジョーク」
汗をこれでもかと流し、目玉をも小刻みに痙攣させるキリ。
コントのようなマシンガントークが途切れたのを期と見て、蒼流が口を開く。
「──あの、早くして貰っていいですか?」
「「すいません」」
ふつーに正論だった······。
「──フフン、では勇者よ、我らと勝負してもらおうか!」
「いやです」
「······」
秒で断られたキリが、悟ったような諦めたような、なんとも言えない表情でただただ立っていた。
「──フフン、では勇者よ、我らと勝負してもらおうか」
「リピート!?」
「その言葉、了承と受け取った!!」
「受け取るなっ!!」
蒼流の意思も虚しく宙に溶け、キリが腰から取り出したクナイを構える。
「いくぞ、〈擬態〉!」
その一言をきっかけに、キリのつま先から頭めがけて徐々に光が覆い始める。
数瞬後、キリの身体全体を、一つの満遍もなくすっぽりと覆い尽くしてしまった。
そして、光が弾ける。
──そこにいたのは、活発そうな村娘の少女だった。
「ふははは、どうだこの〈擬態〉、男の貴様には殴れまい!」
「正々堂々と挑んできたくせに手段はすっごく汚いよ!?」
高い女声で、女らしからぬ言葉を紡ぐ村娘。
これには、流石のクール系猫耳幼女のサミさんもびっくりなようだ。
「汚い手こそ忍びの真骨頂じゃ!死ねええい勇し────かぺ」
──めきょ、と、間抜けな音が廊下いっぱいに響いた。
めり込む拳、ひしゃげる顔面、漏れ出た声。
蒼流の正義の鉄拳が、美少女の顔面に突き刺さっていた。
そのまま縦に回転しながら不時着し、ゴロゴロと転がった後、ピクリとも動かなくなった。
普通に殴ったー。
この場を鑑賞していた全ての人間、獣人、魔族が白目を剥いた。
唖然と口を開け放つ人々を前に、蒼流は不思議な顔を作る。
「──ん?敵は敵だろ?」
平然と言ってのける蒼流に、リリエルが顔を引き攣らせる。
「あんた、変なところでバッサリ割り切ってるわね」
蒼流がコツコツと歩く。誰もがその行方を凝視し、場は静寂が支配した。
「──さて、次は、お前だ」
突き刺す眼光で、蒼流はサイの前に立ち止まる。
「──え、ちょ待っ」
言い終わらぬうちに、瞬速のアッパーがサイの顎にクリーンヒット。打ち上げられた体は、遥か遠くまで飛来する。
その拳は、確実に二人の意識を刈り取った。
「流石です蒼流様」
「──蒼流、手、だい、じょーぶ?」
「凄いよそーりゅう、まあそーりゅうはボク以外の女性には微塵の興味もないからできた芸当なんだよね?それはとっても凄いことだよ。それに、ボクを思っていたからこその勝利なんて、とっても嬉しいし誇らしいよ。これはもはや、一種の運命共同体と言っていいんじゃないかな?勿論いいよね!ボクとそーりゅうは一心同体、二人で一人なんだ。だから、ずーっと一緒にいようね、そーりゅう」
その後は三者三様。想い人の勝利を信じて疑わなかったという雰囲気のヤミリー、一番に心配をしてくれるシル、愛とか色々溢れ出ちゃってるサミ。その後ろでは、リリエルが呆れたように立っていた。
「──うちの者が、申し訳ありません」
ピョン吉が深々と頭を下げてくる。
子供がやらかしちゃったときの親の対応だ。
──こいつ、白々しく!お前が仕掛けた罠だろうに······。
怒りが蒼流の額に青筋を刻むが、深呼吸でなんとか落ち着かせる。
怒りは油断を生む。ソウレスに教わった言葉が、固く結ばれた拳をほどかせる。
「いや、構わない。それよりさっさと先に進もう」
「寛大な処置、有難く思います」
再び歩き始める蒼流一行。先頭を引くピョン吉の前に、黒い人影が現れた。
「止まれ!ここを通りたくば、吾輩を倒していくんだな!」
「またこのパターン!?」
ちくしょうアイツ許さねえ!!
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