026 物語の始動
今日は一本上げるだけと言ったな。あれは嘘だ。
まさか一日に二本上げるとは······(自分でも予想外)
「いや、ホントに倒したんですよ」
ギルドの受付嬢に必死の講義をする情けない男。これを誰が勇者だと思おうか。
「でも証拠はないんですよね?」
ショートカットの受付嬢は、困ったように苦笑する。
「まあ······はい」
「それではちょっと······」
瞳で申し訳ないと告げている。きっといい人なのだろう。
「でも!」
「大丈夫です、次頑張りましょう!」
最下級のクエストでさえ失敗した冒険者を、必死に励ます親切な受付嬢。しかし、それが蒼流を一層惨めにさせた。
「ちくしょぉおおおおおおおおおお!!」
交渉が不可能だと悟った蒼流は、泣きながらギルドをあとにした。
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電気のついていない薄暗い大部屋。長い長方形型のテーブルの最奥で足を乗せてくつろぐ黒髪の男。
「カカカッ、狂化させたスケルトン二十五体が全員やられちまったのかぁ。あちらさんもなかなかやるようじゃねえか。こりゃあ先生も焦るんじゃねえか?なあ、アロミア」
アロミアと呼ばた紫髪の少女は、無言で頷いた。
「カカッ、相変わらず無愛想だなぁ、おめえは──まあいいか、んじゃ、闇ギルド〝月の死神〟始動だぁ」
彼らは闇ギルド。汚れ仕事を中心とした法律無視な違法ギルド。それが今、世界を混沌で満たそうとしていた。
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大神殿と言っても差し支えのない程大きく荘厳な教会。
そこで跪く修道服の少女。
「あはぁ、主様ぁ、直ぐに会いに行きますからねぇ」
ラファエロは目の前に置かれる巨大な蒼流の石像を見上げる。
──ああ、なんてお美しい姿なのでしょうかぁ。
彼女は狂信者。それもただの一人の人間を信仰するとびきり危険で厄介な。
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「さて、僕もそろそろ出番かな?」
何処とも知れない町の中、キャメロット城下町と比べ随分と人通りの少ないそこで、さわり心地の良さを連想させる水色の髪を揺らし、彼は呟いた。
「あの人、面倒くさいくせに変なところ鋭いから気をつけて下さいね──あと童貞です」
赤い髪にそれと同色の双眸。ツインテールの少女がやる気なさげに零す。
「はは、貴方が言うなら間違いありませんね──アイネさん」
「敬語は止めてくださいって」
アイネは心の中で溜息をつく。いったいこの台詞を言うのは何回目だろうか。
「私はそんな大層な英雄様じゃありませんから」
「すみませんね、こういう性格なので」
表面上は謝っているように見えるが、最後の言葉で直す気がないと分かってしまう。
本日何度目かの溜息を心の中でするアイネ。彼女も彼女で、色々と忙しいのだ。
「じゃあ、行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい──アーサーさん」
────そして、物語は動き出す。
二章終わりです。
三章からは蒼流たちが世界の危機に立ち向かいます。