025 スケルトン討伐クエスト その3!
遅くなって申し訳ありません。
リアルが落ち着いたので取り敢えず一本上げときます。
蒼流の前には、跪き頭を垂れる絶世の美女。
修道服を完璧なまでに着こなし、肩まで伸びた金髪がより一層彼女の慈愛感を際立たせていた。
細い目とたわわに実った大きな胸は包容力抜群で、聖母を彷彿とさせた。
そしてもう一つ、恐らく最も注目すべき点。ちょうど鎖骨辺りから生えた、さわり心地は極上であろうフワッとした羽根。
今は力を抜いたのか、しなって地面に付いているそれは、彼女が人間ではないことを如実に物語っていた。
完成された美。至高の芸術品。
彼女は綺麗で、
可憐で、
神秘的で、
儚げで、
温かく、
──そして、
「私はぁ、ラファエロと申しますぅ。さあ、なんなりとお申し付けください主様ぁ。私の身も心もぉ、全て貴方様のものですぅ」
そして、ヤンデレであった。
Oh、台無しだ。
蒼流の後ろで、なにやら注意深くラファエロと名乗る少女を観察していたヤミリーが、蒼流に耳打ちする。
「お気をつけ下さい蒼流様。あの女、わたくしと同じ匂いがします」
「ハハッ、最悪じゃねえか」
その間もヤミリーはラファエロに向けた尖った視線を逸らさない。
その姿が、彼女が既に臨戦態勢であることを告げていた。
限界まで張り詰めた空気。一挙一動が回戦の合図になり得る静寂。
ヤミリーがラファエロから溢れる強者のオーラを感じ取り、ラファエロもまたヤミリーの目付きから只者ではないと悟る。
──白い影が動いた。
その正体はスケルトン。数十匹で蠢く白いそれは、一つの生物のようだ。
彼らはすぐ近くに突っ立っているキースを無視して、一直線にラファエロへと突撃する。
「主様とのお話に水を差すなんてぇ」
一見穏やかにみえたその声音は、しかし確かな怒りが散りばめられていた。
少しだけ持ち上げられた瞼の奥には、何か邪悪に染まった瞳がギラついていた。
「──めっ、ですよぉ?」
瞬間、空から降ってきた筒状の光がスケルトンの集団をすっぽりと収めた。
衝撃、次いで轟音。
恐ろしい程のエネルギーを持った光は、数秒間持続した後、残滓の一片すら残さず霧散した。
そこには、既にスケルトンの姿はなく、不自然に焼け焦げた土だけがあった。
「主様ぁ、あと五人の邪魔者を消すまでお待ちくださいねぇ」
「──邪魔者は······どっち?」
「ふふ、調子に乗りすぎだよ?あと揺らしすぎだよ目障りだ」
「少し胸が大きいからって、見下してんじゃないわよ!」
シル、サミ、リリエルが食い付いた。理由は······胸を見れば分かる。唯の八つ当たりだ。
──待てよ?
蒼流は考える。
ラファエロがスケルトンを跡形もなく吹き飛ばす。
↓
スケルトンを倒した証拠が無い。
↓
スケルトンを討伐したのか疑われる。
──つまり、つまり!
「クエスト失敗じゃねえかぁあああああああああ!!!!!!」
木々に反響して森を震わせた悲痛な叫びに、蒼流を覗いた全員が目を丸くする。
再度静寂に支配された森は、先程までの息が詰まるような殺意飛び交う様子もなく、ただただ唖然としていた。
──蒼流が、不気味なほど静かに歩く。
前髪に隠れて、その表情は伺えない。
固く結ばれた口元が、彼の意思の硬さを語っていた。
ラファエロの目の前まで来た蒼流は、何も言わず彼女の肩を掴み、後ろを向かせる。
そのまま、背後からラファエロの腰に手を回す。
──ラファエロが硬直した。
「──────っ!?あ、ああああ主様!?」
脳が再稼働したのか、顔を火が出んばかりに真っ赤に染めるラファエロ。
見方によってはあすなろ抱きともなる体制で、蒼流は右手と左手の指を絡ませがっしりと結ぶ。
足に力を込めて大地を感じる。そして、歯を食いしばって────
「──ふんっ!!」
────渾身のジャーマンスープレックスを仕掛けた。
プロレスの代表的な技の一つ、相手の腰あたりを掴み、ブリッジするような感じで相手の頭を地面に叩きつけるアレだ。
「ふう、さて帰るか」
目をぐるぐるさせて昏倒するラファエロに尻目に歩き出す。
「胸なんて所詮贅肉だよ、邪魔なだけだね」
「──ん、同意」
「まったく、胸なんて何処がいいんだか」
「あらあら、持たざる者の嫉妬が聞こえますね」
「仲間って何なんだろうナ」
貧乳組の仲は深まったものの、ヤミリーとは溝ができてしまった。──あとキースが死んだ目をしている。
スケルトン討伐という最下級のクエストに失敗してしまった蒼流は、重い足取りで一人溜息を吐くのだった。
■■■
「──何故でしょうかぁ?痛いはずなのにぃ、体が熱くなってぇ、気持ちいいですぅ♡」
誰もいなくなった森の中に一人、ラファエロは呟きを漏らす。
忘れてはいけない、彼女は、ヤミリーが同じ匂いがすると言ったのだ。