020 クエストのお・さ・そ・い ヤミリー編
荒れ果てた墓地、その広大な土地には、葉を全て落とし尽くした朽ちた木たちが、ところどころで虚しく身体をしおらせている。
まるで生気を感じられない静けさは、まるで時が止まったかのよう。
──そこに、がしゃり、と軽い音が産まれる。がしゃり、がしゃりと次々に増えていく音は、死んだ墓地の静けさを絶え間なく包む。
地面から無数の影が立ち上がり、多種多様な武器を片手に徘徊する。
雲からか顔を出した満月が、その妖しい光で影たちを照らす。
白くゴツゴツとしたフォルム、その身全てを骨のみで形成するモンスター──スケルトンの群れが、その墓地には住み着いていた。
■■■
「──クエスト?また行くんですか?」
〝ソウリューズ〟メンバーのヤミリーは首を傾げる。その反動で、赤い髪と共に大きな胸が揺れる。
その魅惑の揺れは、男ならば絶対に逃れられない代物だ。──当然蒼流も例外ではない。
バレないように、目線だけでさり気なくヤミリーの胸を凝視する。
「あ、ああ。前回あんまり活躍できなかったからな」
「──とってもカッコよかったですよ、蒼流様」
眩しささえ感じるほどの笑顔でや、ヤミリーが蒼流の胸に抱きつく。
む、むむむ胸がぁぁぁ、な〜んて幸せな感触なんだ!!
ヤミリーのたわわに実ったお胸が、蒼流の胸の下辺りを圧迫する。
その贅沢な感触に、蒼流は天国を垣間見たという。
「ありがとうございます!!」
蒼流の気持ちをフルに乗せた全力のお礼。勿論胸のことに関しての。
「ふふ、どういたしまして」
それをカッコイイと言ったことへの感謝と受けとったのか、慈愛に満ちた表情でヤミリーはお淑やかに笑う。
「ではわたくしは部屋に戻って準備して来ますね・・・・・・それと」
ヤミリーが自室に戻ろうと名残惜しそうに蒼流から離れ、百八十度回転した後歩き出して暫くすると、思い出したように振り返る。
その頬は林檎の如く赤く染まり、口を開けたり閉じたりと、何かを言おうか言うまいか躊躇っている様子だ。
遂に意を決したようで、大きな深呼吸をすると、瞳を潤ませながら蒼流の目を見た。
「──その、そういうことがしたいなら、何時でもわたくしの部屋にお越しくださいね?」
「──え?」
「えと、あの、ずっと、わたくしの胸を見ておられたので・・・・・・た、溜まっているのかと・・・・・・それでは!!」
パタパタと走り去るヤミリー。その華奢な背中から視線を外し、蒼流は俯く。
ば、バレてたー。は、恥ずかしーー。
手で顔を覆い、顔を火が出るほど熱くさせながら、蒼流は心に決める。
──後で行こ。
小さくなっていくヤミリーに背を向けて、蒼流はボソリと呟いた。
「──さて、次はシルを誘うか」
「わたくし以外も誘うんですか?」
底の見えない奈落のような、全てを呑み込む巨大な闇のような、真っ黒な声が耳元で囁かれる。
背筋に凄まじい悪寒が走り、蒼流は全身を硬直させた。
恐るように、ゆっくりとぎこちなく振り向くと、そこには赤い宝石の瞳が、光のない虚無の色を覗かせ、真後ろから見つめていた。
「いやぁああああああああ!!」
堪らず走り出した蒼流を、腕を掴むことで静止させ、その瞳は更に距離を詰める。
「どういうことですか?わたくしだけで良いじゃないですか。何故他の方も誘うのですか?答えてください蒼流様」
吸い込まれて二度と出てこられなさそうな双眸は、返答次第で死人が出かねないということを語っている。
蒼流は、無理矢理口の端を吊り上げ引きつった笑顔を辛うじて形成する。
「──い、いやぁ。出来る限りヤミリーに負担かけたくないなぁ、なんて・・・・・・」
「まあ!わたくしのことをそこまで思ってくれていたとは!感激ですっ!」
──お?意外といけそうか?
「でもダメです」
「あ、ですよね」
「二人っきりの時間を邪魔なんてさせません」
また距離が近づく。おでこが当たりそうな距離だ。
ヤミリーの吐息を間近で感じるが、照れる余裕など今の蒼流には欠片もない。
──しかし、ここで引き下がる蒼流ではない。こんな言葉を聞いたことがないだろうか。
ヤンデレは、押しに弱い!!
震える身体を押さえつけて、出来る限り自然に振り返って、蒼流はヤミリーを優しく抱き竦める。
こうしてみると、本当に細く華奢な肉体ということが伝わってくる。──一部を除いて。
耳に口を近づけ、脳に刷り込むように囁く。
「──お前は、俺の言う通りにしていればいいんだよ」
「ふわっ!?」
蒼流の予想外の行動に相当驚いたのか、身体を跳ねさせたヤミリーは、すっかり蕩けきった顔で荒い呼吸を繰り返す。
──うわぁ、なんかエッロい。
だが、ここで止める訳にはいかない。
彼女を納得させる為には、何も考えられなくなるまで続ける他ない。
「抵抗なんて無駄だ。黙って俺に従え」
「は、はいぃぃ♡」
瞳にハートを映し、蒼流にもたれ掛かるお姫様。蒼流が抱き竦める手を離したら、彼女の体は支える物を失い、その場にへたりこんでしまうことは容易に想像出来る。
もし誰かに見られでもしたら弁解のしようがない。よって蒼流は、そうそうに決着をつけるため、最後の一手を繰り出した。
「お前は、俺の、言うことを、聞け。──いいか?」
その言霊は、ヤミリーの最後のリミッターを破壊した。
「はいぃぃぃ!!!わたくしはそうりゅうさまのどれいですぅぅぅ!!!!もっとこき使ってください、もっといじめてくださいぃぃぃぃ♡」
その壊れた少女に、蒼流は優しい微笑みを向ける。
「よし、いい子だ。じゃあ準備をしてきなさい」
──秘技・飴と鞭!!
ぽーっと放心した表情で私室に向かうヤミリー。その拙い足取りを、穏やかな笑顔で見送る。
──説得完了である。
もしかしたら、ソウリューズの中で一番怖いのは彼なのかもしれない。