019 常識人チーム秘密の会議in書庫
長方形のテーブルに座る三人──蒼流、リリエル、キース、実に数億冊を超えるさまざまな分野の本が円状に囲む中、彼らは酷く真剣な表情だ。
「──えー、今回話し合うのは、『あれ?ソウリューズ仲悪過ぎじゃね問題』についてだ。諸君らにはシル、ヤミリー、サミのギスギスした空気をどうにかして欲しい。・・・・・・何か良い案はないか?」
蒼流が淡々と現状を説明する。──え?口調がウザい?知ってる。
しんと張り詰めた空気の中、先ず手を挙げたのはキースだった。
「はい。その問題に入る前に、『あれ?ソウリューズ名前ダサ過ぎじゃね問題』について話し合いたいのですガ」
「却下します」
「なんで!?」
「いいですか?〝ソウリューズ〟というパーティー名は、覚えやすさとインパクトを兼ね備えたパーフェクトなネームなのです。ちなみに元々考えられていた〝白銀の救済者〟は没となりました」
「いいじゃん〝白銀の救済者〟デ!なんで〝ソウリューズ〟にしちゃったんダヨ!」
必死の形相で抗議するキースに、蒼流はため息の後、頭を振る。
「はぁ、まったく、何も分かっていないな。ああ、本当に分かっていない。何一つ、これっぽっちも分かっていない」
「ぶん殴りテェ」
「〝ソウリューズ〟は名前だけでも目立つため、一目で勇者パーティーだと分かる理想的な名前なんだ」
「それで分かるのはお前の頭の悪さだけダ」
早速明後日の方向に駆け抜けていく会議を、何やら考え込んでいた様子のリリエルの、ふと思いついたような一言が引き戻す。
「もっとクエストに行けばいいんじゃない?」
「クエスト?前に行ったばっかだろ」
首を傾げる蒼流に、リリエルが人差し指を立てて続ける。
「一緒にいる時間を増やすのよ。そしたらお互いを理解して多少は仲良くなるんじゃない?」
「とかいって前回まるで活躍できなかったから挽回したいだけじゃねーの?」
蒼流が頬杖をついてボソリと零す。
その毒舌を聞き逃さなかったのは、流石空間把握能力に長けた弓使いと言うべきか。
リリエルの堪忍袋の緒がプッツンしたようだ。
「は、はあ!?アンタだって活躍できてなかったじゃない!!それどころかエクスカリバーがないとろくに戦えないくせに!!」
「異議あり!前回は相性が悪かっただけです!エクスカリバーについては正論だから言い返せないんだけどね!!」
「ははは、どっちも五十歩百歩だったナ」
突如無造作に放たれた一言が、書庫に静寂をもたらした。
二つの鋭い視線が穴を開けんとばかりにキースに刺さる。
──二人が、ほぼ同時に動いた。
「アンタ何もしてないでしょ!!」
「てめえは後ろで見てただけじゃねえか!!」
「イタイイタイ!ちょ、やめ、やめて、イタッ!いじめが、パーティ内でいじめが起きてル!!」
蹲るキースを踏みつける蒼流とリリエル。一見してそれはいじめだが、二人は止めるつもりなどない。その暴力は数分間続いたという・・・・・・。
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「······酷い目にあっタ」
リンチにされ顔一面を痣で腫らしたキースが、聞き取れないぐらいの滑舌で謝罪の言葉を述べる。
うん、やり過ぎたね。──でもスッキリした!!
顔を伝う汗と共に、爽やかな満面の笑みを咲かせる蒼流。
心底機嫌が良いのか、今すぐスキップし始めそうな雰囲気で口を開く。
「──じゃあ、クエストに行くということで決定だ!!」
紆余曲折しながらも、遂にパーティー内の不仲を解決する為の第一歩を踏み出す常識人チーム。
果たしてその策は上手くいくのか?正直上手くいく気がしない!!