002 世界救ってやるよこんちくしょう
目が覚めたら白銀の髪の女性に膝枕をされていて、「おはよう」と言われる。これこそ至高のベタというものだ。
まあ、そんなことあるはずもなく、普通よりも少々豪華なベッドで覚醒し、彼女はベッドの横に座っているだけだった。
悲しくなんかない。悲しくなんかないさ。なんたって俺は彼女いない歴イコール年齢の童貞16歳だぜ。こんな悲しみ何度だって越えてきたじゃないか。
そう自分に言い聞かせて蒼流は濡れた目元をゴシゴシと拭いた。
そこで、蒼流はふと自分の服が焼け落ちた見窄らしい半袖の服から、袖が白で、腹部に当たる部分が青い上品な服になっていることに気がついた。
どうやらズボンも白に青い斜めのラインという服に着替えさせられているらしい。果たして誰が自分を着替えさせたのかというとても重大な疑問に至る前に、
「起きた・・・・・・?」
不意に横から声が届いた。
「私、シルビィア・アン・ローズリー。シルでいい。・・・・・・勇者現れるって、夢で見た・・・・・・・・・・・・」
──何そのベタな夢、都合良すぎるだろ・・・・・・。
蒼流はRPGのゲームでありそうな夢を語るシルビィアという女性に呆れの視線を向けるが、当の本人はそんなことに気づく様子もなく続ける。
「・・・・・・貴方が、この世界、救ってくれるって、夢で、赤い人言ってた」
誰だよその迷惑な赤い人って。人を勝手に勇者にしやがって。その時、蒼流の頭の中で何かが引っかかった。
迷惑な赤い人・・・・・・迷惑な・・・・・・赤い、人・・・・・・あっ!
引っかかていた物の正体を掴み、モヤが晴れたような深い満足感を味わいながら、天井、いやその先の青空に向かって天高く叫んだ。
「あんのクソ女神ィィィイイイイイイイイ!!」
獣の咆哮の如き雄叫びに驚いたシルは、椅子ごとひっくり返った。
蒼流は天井をを見上げたまま数秒間停止し、おもむろに首をぐりんと曲げてシルを見る。
「てか、ここどこだよ!?」
あまりに遅すぎる質問に、シルは仰向けに倒れたまま視線だけをこちらに向け答えた。
「・・・・キャメロット、王城、私の、部屋・・・・・・」
「──えっ?・・・・・・王城?」
あまり聞き慣れない響きに蒼流が聞き返す。
それもその筈、蒼流のいた世界では、王城などほとんどなかったのだから。
「うん。私、貴族。私、偉い。えっへん・・・・・・」
相変わらず仰向けのまま少し誇らしげに胸を張るシル。
────貴族。またも出てきた馴染みの薄い言葉に、蒼流はこう結論ずけて片付けた。
ファンタジー世界だからそういうこともあるよね、っと。
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「──えーと、で、俺にこの世界を救う勇者になれ、と・・・・・・」
その言葉に椅子に座ったシルが先程打った頭を摩りながら無言で何回か頷く。
シルの話を聞いて大体のこの世界についてはわかった。要約するとこうだ。
この世界って魔法とか魔物とかが存在するんだけど、今その魔物達の一部が暴れててマジヤバだから助けてくんね?オナシャス。
・・・・・・なんというテンプレ。異世界万歳、ハーレムだひゃっほい。
────なーんてなると思ったかバーーーカ、勇者?成るわきゃねえだろそんなもん。と声高々に言ってやりたいところだが、相手は女の子、ここは紳士的対応というものを見せてやろう。自然かつ傷つけないようにお断りさせてもらう!
「それで、俺が勇者になると思ったかバカめ」
出来るわけないんだよね。俺ろくに紳士知らないもん。黒いスーツ着てシルクハット被って杖持っときゃいいのかな?──まあ、その話は置いといてだ、本題に入ろうじゃないか、確かに、勇者と言われればなりたくなってしまう。それは男の夢だから至極当然。──しかし、よく考えてもみろ。俺、戦う力、皆無じゃないですかヤダー。
そこに、ぽろり、と消え入りそうな濡れた声が零れる。それが、蒼流を思考の世界から現実へと無理矢理引き戻す。
「蒼流・・・・・・勇者、なってくれないの?」
銀色の瞳を潤ませ、上目遣いでこちらの顔を覗き込んでくるシル。その可愛さときたら、そらもう背後から薔薇が出てきそうな勢いであった。斯く言う蒼流も、この時ばかりは全身に電流が走ったと言う。
「さあやろう。今すぐやろう。とっとと魔王倒してハッピーエンドだこの野郎!」
その表情を見てからの蒼流の判断は速かった。