018 スライム討伐クエストその2!
目の前には小さな二つのクレーター。そして四方から這い出てくるスライムの群れ。その光景を前に、蒼流は冷や汗を流す。
「──あの、サミさん?なんか、いっぱいスライムが出てきたように見えるんですけど」
「奇遇だね、ボクもだよ」
「なんだ、ただの夢か」
蒼流が一人納得しているてと、その足下にスライムの酸液が吐かれた。地面が溶ける音のリアルさと、何らかの化学反応であろう微かな発熱の感触に、蒼流は気づく。
「夢じゃねえじゃねえかぁあああああ!!」
蒼流がスライムに飛びかかる。右手に握るエクスカリバーの切っ先は、先程酸液を吐いてきたスライムに向いている。
「蒼流!?」
顔に焦りの色を滲ませ、シルが叫んだ。当たり前だ、蒼流の攻撃はスライムに効かないどころか攻撃するほど増殖させてしまうのだから。
しかし、肝心の蒼流は、シルとは対称的に余裕の表情で、剣を振る。
「一撃で駄目なら、何回も切って塵にしてやらあ!!」
恐ろしいほどの暴論である。しかし、彼はやる気と自信に満ちていた。事実、その斬撃の連打はシルでさえ目を見張るものがあった。それはソウレスとの血のにじむような特訓のおかげか、はたまたエクスカリバーが力を貸してくれているのか。
エクスカリバー──というよりもその神性は、エクスカリバーを鞘から抜いて持っているときのみ、蒼流に力を与えてくれた。故に、身体能力が一般の兵士並の蒼流でも、とんでもない速度で走ったり、今している連撃でも疲れなかったりする。
数秒間続いた攻撃がやっと止まり、手のひらサイズにまで細切れにされたスライムが、ボトボトと落ちる。
蒼流はエクスカリバーに付着したスライムの残骸を振り払い、鞘に収める。
そして、目を細めて太陽を見上げる。
「──俺は・・・・・・強く、なり過ぎちまったのかもな・・・・・・」
その横では、蒼流にバラバラに斬られたスライムの残骸たちが、もぞもぞと蠢いていた。
「カッコつけてんじゃないわよバカ!周り見なさい!!」
「──あれ?」
小さなスライムたちがいっせいに蒼流に飛びかかる。手のひらサイズとはいえ、彼らも魔物だ。その群勢に押し潰されてしまえば、蒼流は一溜りもないだろう。
「いやぁああああああああ!!」
目前に迫るスライムたち。蒼流の絶叫が響いた直後、蒼流の目の前、即ちスライムの群れを、白い冷気が通過した。
冷気に呑み込まれたスライムは、次々にその身を凍らせてしまった。
地面に霜を浮かび上がらせるそれは、だが不思議と蒼流は涼しいとしか感じなかった。
冷気が、蒼流の体を避けるようにして充満したのだ。
地面に落ちて儚く砕けるもの言わぬスライム。蒼流はその光景を唖然とした表情で眺める。
ふと、隣から大人びた声が聞こえた。
「どうだい?あそこにいるお姫様や白髪の人なんかより全然役に立つだろう?」
──爆発した。その表現が相応しいぐらい怖かった。
火に油を注ぐどころかダイナマイトぶち込みやがったこいつ・・・・・・。
噴火したシルとヤミリーの怒りが、たまたま近くにいた何の関係もないスライムに降り注ぐ。
シルは抜きさった極細の白い剣の先に魔力を集中させ、白く輝く球体を作り出す。球体が一瞬静止した。しかし、次の瞬間何の前触れも無く白い球体が撃ち出される。
その速度は尋常じゃなく、速さのあまり球体が光の尾を引く程だ。
球体とスライムが衝突し、眩い光を放ち、それが収まった頃には、スライムの姿はなく、クレーターと言うにはあまりにも滑らかな完璧な半円ができていた。
爆発や酸液で溶けたような荒々しいものではなく、抉られたような、切り抜かれたような、そんな印象だ。
一方ヤミリーは、腰に担いでいた、赤をベースにところどころ黒い部分がある篭手を両手に嵌め、ギラついた瞳でスライムをぶん殴る。
重い衝撃がスライムを襲い、身体を小刻みに揺らす。
「──燃えろ」
冷たい言葉と同時に、スライムは全身を炎で包まれた。
黒いシルエットとなったスライムは、抵抗する訳でもなく(できなかったのかもしれないが)、静かに身体をボロボロと崩し、炎が収まった頃には、黒焦げた地面と同化するように、黒い燃えカスと変わり果ててしまった。
──Oh、可哀想に、そいつらが何をしたって言うんだ・・・・・・。
最初に問答無用で斬りかかった人とは思えないことを考えながら、蒼流は少し距離を置いて剣呑な雰囲気を醸し出す三人を見守る。どうして距離を置くかって?怖いからに決まっているじゃないか!
「私が・・・・・・一番、蒼流の役に・・・・・・立ってる」
「あらぁ?あらあらあらぁ?こんな所に羽虫が二匹ほどいらっしゃいますねぇ。見ていて下さい蒼流様、見事駆除して見せますわ♡」
「ハハッ、じゃあ誰が最も蒼流の役に立てるか、勝負しようじゃないか」
そこからはもう地獄絵図だ。各々取り憑かれたようにスライムを駆除していき、スライムたちの包囲陣はいつの間にか壊滅していた。
その惨状を前にポツリとリリエルが呟く。
「ねえ、私たち要らなくない?」
「・・・・・・そうだな」
『なんであんな状況になっちゃったんダ?』
「俺に聞くなよ······」
「・・・・・・アンタもなにかと苦労してるのね」
それから間もなく、スライム討伐クエストは三人の少女によってクリアされた。




