016 勇者のパーティーはだいたいお姫様と男の友人の他に数人の女の人がいる
前回魔物が攻めて来てから、近辺の警戒が強化され、暫くは平和な日常が続くだろう。
「こっちの世界に来てから一週間ずっと忙しかったからなあ。グータラしてもいいし、城下町を回ってみるのもいいな」
「蒼流様にはパーティーに入っていただきます」
満面の笑みを咲かせるヤミリー。煌めく笑顔を前に、蒼流は悟りを開いたかのような穏やかな微笑を零した。
サヨナラ、俺の平和な日常。
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──キャメロット王城・野外訓練場──
「えー、此方の方々が蒼流様の為に結成されたパーティーのメンバーになります」
蒼流の前に横一列に並ぶ三人そしてその隣にはシルが立っている。皆少々の体格差こそあるものの、全員が若い。
「じゃあ先ずオレから、情報収集担当のキース・カルマリオンデス。因みに戦闘力は欠片ほども無いから戦闘は高みの見物で宜シク」
金髪の滑るような髪の艶の男が口を開く。襟のある赤いTシャツに茶色い半ズボンという異世界ではこの上なく地味な服装に蒼流は早々に興味を無くす。──何より男だ。他に理由が必要かい?
「よしじゃあ次の人」
「なんか扱い酷くないカ!?」
「私はリリエル・ソティ・ムニイ。弓の狙撃なら任せなさい」
「無視!?」
栗毛色のポニーテールで、シルよりも一回り小さい少女。背負っている自分の身長ほどもありそうな大きな弓が、リリエルを一層小さく見せている。腕を組んで胸を張るという自信に溢れるポージングは、未だ残る幼さを強調していた。
早速キースとリリエルが喧嘩を始めるが、口喧嘩なので放っておく。
────さて、残るは一人、なんだが・・・・・・何この子。
藍色の髪を靡かせ、長い睫毛の下に水色の双眸を瞬かせて、目を見開いてこちらを凝視する少女・・・・・・いや、幼女。小学生くらいの背格好とは裏腹に、顔立ちはどこか理知的だ。
しかし瞳は微かに揺れており、まるで信じられない存在を前にしたような雰囲気を醸し出している。
しかし今の蒼流にはそんな些細な感情の気色など感じ取れるわけがなかった。
磨き抜かれすき通った宝石を思わせる瞳を前に、蒼流は糸切れたマリオネットの動きで静かに膝をつく。
「──この子、猫耳生えてるぅうううううう!尻尾生えてるぅうううううう!猫耳幼女キタコレ!!」
──何故なら理性のタガが外れていたから。まあ、俗に言う犯罪者というやつだ。
「うわっ、急に抱き着いてどうしたんだい?」
「大丈夫だよ、おじさん悪い人じゃないからね。ぐへへ、ぐへへへへへ」
「とてもそうは見えないのだけれど!?というか、なに、これぇ······あぁ、きもちっ、──ふぁっ!?ちょっと!ボク、耳はダメなんだ!んあっ、だ、だめぇ、それ以上はぁぁ」
蒼流が一心不乱に猫耳幼女を撫で回していると、横から飛んできたフルスイングの拳が左頬に綺麗に入る。
「ぎゃふん!!」
くるくると空中で横に回転しながら飛んでいく蒼流はさながらミサイルだ。そのまま固い土の地面に顔を擦りながら「いででででででで」という着陸音で着地する。
「何すんだリリエル!親父にも打たれたことないのに!」
「アンタが何してんのよ!!この性犯罪者!!」
「これで捕まるなら悔いは無いさ・・・・・・フッ」
「フッ、じゃないわよ!変態!死ねっ!!」
「辛辣!!」
「まったく・・・・・・」と零しながら服に付いた砂を払う蒼流の背中を、ゾクリ、と寒気が走る。嫌な予感をビシバシと感じながら、後ろを振り返る。
「なんでわたくし以外の女を撫でてるんですか?蒼流様にはわたくしがいるじゃないですか。なのになんで他の女を?ああそうか、その女に脅されているんですね。それならそうと早く言ってくださいよ勘違いしちゃったじゃないですか。でももう大丈夫です。わたくしが邪魔者はみーんな消してあげますから安心してください」
「「「ヒイッ」」」
ボソボソと独り言のように呟くヤミリーの、鉛筆でぐるぐると塗り潰した瞳に蒼流とリリエルとキースが短い悲鳴を上げる。
「おいキース、お前が行け」
「なんでオレ!?あの人と接点ないヨ!!リリエル、君が行け!」
「はぁ!?ふざけるんじゃないわよ!!女に行かせるとかあんたサイテーね!!」
「はいはい出ましター、都合のいいときだけレディーファーストとか言う奴ー」
「あんたなんて戦えすらしないじゃない!」
「オレは頭脳派だからいいんデスー」
「こいつぅ・・・・・・ん?ていうか一番接点がある蒼流が行けば良くない?」
「······そうじゃん、ヤミリーさんだってお前が怒らせたようなもんダロ?」
「チッ、気付きやがったか」
蒼流達が不毛な言い争いをしている間にも、ヤミリーは一歩、また一歩と近ずいてくる。そして遂に、蒼流達三人の前でヤミリーが立ち止まる。
「──仕方がねぇ、ここで勇者としての貫禄を見せてやろう」
「最初から見せろヨ」
蒼流は決心した力強い瞳でに立ち上がる。そのままヤミリーへと走っていき──そして、
「うわーーーん。ヤミえもーん、あいつらがいじめてくるよー。助けてー」
「「!?」」
ヤミリーのたわわに実ったお胸にダイブした。
「あの野郎!!平然と俺達を裏切りやがっタ!!」
「卑怯よ!!自分だけ助かろうとするなんて!!サイテー!クズ!ちょっとこっち向きなさいよ!!」
その言葉に、蒼流は少しだけ顔を回して、胸から出た片目でキース達を見る。
「ハッ」
「鼻で笑っタ!?」
「表出なさい!的にしてあげるから!!」
「うわーーん、ヤミえもーん、あいつらこわいよぉ」
再度ヤミリーの胸に顔をぐりぐりと押し付け、その感触を楽しむ。そんな蒼流に、ヤミリーは頭を優しく撫でつつ、慈愛に溢れた笑顔を向ける。
「大丈夫ですよ、邪魔者はわたくしが全員排除して差し上げますからね」
ヤミリーが、青ざめるキースとリリエルに右手を出す。その瞳の奥底には、嫉妬と憎悪と愛情と独占欲を混ぜたような、ドロドロとした何かが潜んでいた。
「〈火の精の吐息〉」
炎のブレスが、辺りの酸素を喰らい、火炎放射器の如く一直線に二人に伸びる。リリエルが、迫り来る炎を前に、二つの瞼をきつく結ぶ。次の瞬間、荒ぶる炎が二人を飲み込む。──ことはなかった。突如地面から生えてきた土の壁に、炎が行く手を阻まれる。燃え盛る炎は、多少の拮抗を見せるものの、相性が悪いのか直ぐに四散した。
「そこら辺にしといた方がいいんじゃないかい?」
ヤミリーの放つ〈火の精の吐息〉を防いだのは、年端もいかぬクール系猫耳幼女だった。
目を細めたヤミリーから、微かに舌打ちのような音が聞こえたが、空耳だと信じたい。
ヤミリーに向けていた不敵な笑みを消し、今度は朗らかな笑顔で猫耳幼女は口を開く。
「そういえば、自己紹介がまだだったね。ボクの名前はサミ・ニーム、魔法は七属性使えるよ。──それと・・・・・・さっきみたいなことは、できれば夜にやってほしいな」
「抑えて、ヤミリー抑えて!!」
見た目に反して大人びたお淑やかな笑顔を覗かせるサミに、ヤミリーは黒いオーラの幻覚を見せる程のプレッシャーを放ちながら歩き出す。蒼流はそれをしがみついて止める。
「おい!リリエル、キース、突っ立ってないでお前らも止めろ!!」
「──は?アンタあたし達のこと裏切ったくせに何言ってんの?」
「うわ、びっくりするぐらい正論。じゃ、シル!お願い手伝って!」
蒼流は懇願の眼差しでシルを見つめるが、シルはそんな瞳をバッサリと切って顔を背けてしまう。
「──蒼流の・・・・・・ばか」
「なんか怒ってらっしゃる!!だから今日そんなに静かだったの!?」
風船の様に頬を膨らませるシルを前に、蒼流は自分の行動を振り返ってみるが、シルを怒らせるようなことをした覚えはない。
「あの~シルヴィアさん?何故そんなに怒っているのでしょうか?」
「最近、私の頭、撫でてくれない蒼流、なんて・・・・・・知らないもん」
──何故だ!?誰か俺に味方してくれる奴はいないのか!?
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