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013 開幕の狼煙















  ──キャメロット王城・蒼流自室──


  手すり付きの木製の椅子に深々と座る少年。その眼下には、二人の少女が絨毯(じゅうたん)に正座している。〈勇者〉清水蒼流と、〈王女〉ヤミリー・ヴィール・コンスタンティン、それに〈貴族〉シルヴィア・アン・ローズリーである。

  一国の王女が床に正座させられているというのは、些かまずい気もするが、蒼流はその考えを頭の片隅に追いやって押さえつける。

  蒼流はひきつった笑顔でどす黒いオーラを垂れ流す。


「君達、今日何回喧嘩したと思う?」

「さあ?なんかいでしょうか。こんな下等生物との戯れなど記憶に残す価値もありませんから」

「・・・・・・こっちの・・・・・・セリフ!」


  隙あらば火花を散らす二人に、蒼流は彫刻やら宝石やらがぎっしり嵌め込まれた(さや)に、エクスカリバーを収めたままの状態でドン、と床を鳴らす。──空気が凍った。それ程の目付きだったのだ。怒りを通り越して、いっそ無関心かの様な冷たい視線が二人を見下す。


「──黙れ」


  その声だけで、あのシルの表情が歪み、直ぐにでも泣きだしそうな顔になってしまった。事実、その瞳には涙が溜まっていた。

  一方ヤミリーは、顔を隠すように俯いて、誰にも聞こえない微かな音量でボソボソと呟く。


「ああ、蒼流様のあの目、ゾクゾクします♡」


  ヤミリーの異常にも気付かず、蒼流は鬼の形相で椅子から身を乗り出す。


「三回だよ!?三回ですよ!!??仏様だってフルスイングでぶん殴ってくるわ!!」

「ですが蒼流様!全て原因はシルヴィアさんにあります!!」


  ヤミリーの言い寄りに、シルヴィアは恨みと必死さの入り混じった双眸を向け、蒼流は再び冷めた視線に切り替わる。


「──黙れっつてんだろ」

「──んぅっ!ありがとうございますぅ」


  恍惚な表情で息を荒らげるヤミリーが、決心したように零す。


「──そう、ですね。全て、私が悪いんですよね。怒るなら、私だけを怒ってください」


  やけに顔を赤らめ瞳をきらきらと輝かせるヤミリー。果たしてそれは、涙によるものなのかどうか・・・・・・。

  ──瞬間、シルの瞳が光る。ここぞと、ここしかないとばかりに。


「──そう!・・・・・・悪い、のは、全部、ヤミリー・・・・・・!」


  ──静寂が落ちた。蒼流が(まぶた)を閉じ、長く息を吐く。それは、諦めた様でもあり、呆れた様でもあり、決心した様でもあった。

  蒼流がゆっくりと口を開く。


「──わかった」


  二人の表情花が咲く。──が、


「ヤミリー、お前はちゃんと反省しているみたいだな」

「「──え?」」


  目を丸くする二人の少女。そこに蒼流の冷酷な一撃がトドメを刺す。


「そしてシル。お前は余程俺を怒らせたいらしいな」

「──!?いや、ちが・・・・・・!!」

「問答無用」


  ──一時間後──


「ひっく、ひっく、うっ、う〜〜」


  正座をして必死に涙を堪えるシル。その隣で小刻みに震えるヤミリーが、不意に立ち上がり、窓の方向にクラウチングスタートの姿勢をとる。静かに閉じた瞳が、カッ、と開かれた。その双眸に赤色を(とも)らせ、窓へと猛ダッシュ。──そして、


「焦らしプレイなんて、あんまりですううううぅぅぅぅぅ」


  ガシャーン、という音と共に、身体を丸めたヤミリーが外へと飛び出す。三階にある蒼流の部屋の窓だ。当然の如くそこは空中で、最早正気の沙汰(さた)では無い。


「何故窓から!?」


  窓の外で硝子の落ちる音が止み、部屋の中にはシルの嗚咽(おえつ)が溶けるのみ。蒼流は真顔を崩さぬままに白く燃える太陽を仰ぐ。


  ・・・・・・・・・・・・き、気まずい・・・・・・。いやあああああ気まずいよぉ。何か喋ってよぉ。なんて声をかければいいんだよぉ。


  表情一つ変えずに佇む蒼流に、その内に秘めた思いに気付いたかのようにシルが口を開く。


「──ひっく、そう、そうりゅう・・・・・・ふえ、ふぇえぇぇええぇえん」


  ぇぇええええええ!!??なんか俺が悪いみたいな雰囲気になっちゃてるんだけど!?助けて神様、アイネ以外の。


「そうりゅうぅ、捨てないでぇ、うわああぁぁあぁあん」


  蒼流にしがみつき、大粒の涙とその他もろもろの液体が蒼流の服に糸を引く。


  ・・・・・・俺に、どうしろと。


  ■■■


  あの騒動から数時間が経過し、泣き疲れて眠ってしまったシルを担いで部屋まで送り届けた後、蒼流は自室のベッドに身を預けていた。外は東の地平線をなぞるような太陽の光の残滓(ざんし)が途切れ、藍色の空に星々が顔を出す。


  ──魔法、か。初めて魔法使い同士の戦闘を見たが、正直あんな戦いの中、五秒だって生き抜ける気がしない。はぁぁ、俺、勇者としてやっていけんのかよ。


  そんな時だった、部屋が急に赤い光で染まり、けたたましいサイレンの音が城内に響く。


「んな近代的なっ!!」


  蒼流は驚きをたっぷりに含んだ表情で飛び起きる。扉の外から恐らくメイドであろう数人の女の声と慌てたような足音、もしかしなくても緊急事態だ。蒼流は、扉を勢いよく乱暴に開ける。


「何があった!?」

「勇者様!・・・・・・魔物の群れが東地区に出現しました。急ぎ出陣の準備を!!」


  ──出陣、出陣だと!?魔法どころか剣すら振ったこと俺が!?できるのか、俺に・・・・・・。


  葛藤、普通ならば絶対に行かないが、蒼流の中の()()が逃げる己を拒んでいる。(こぶし)を握り締め、食いしばった歯が軋みを上げる。


「──クソッ!!」


  吐き捨てるように零すと、蒼流は身を翻し、ベッドの横に立て掛けられたエクスカリバーを鷲掴(わしずか)む。そのまま足を割れた窓にかける。


  ──ここは三階、階段を降りるよりも此処(ここ)から飛び降りた方が速い。


  蒼流は眼下に広がる遠い地面を睨む。月明かりに照らされた草たちが、夜風に揺らめいている。


「・・・・・・・・・・・・玄関から行こ」















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